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第1話「付喪神」其の五
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午後1時過ぎの大学の食堂。さっきまで大勢の学生たちで混んでいたのが、午後の授業が始まると一斉に波が引くように喧騒が去っていく。今日は午後に授業を入れていないので、この時間を狙って学食にやってきた。お気に入りのから揚げ丼とサラダを頼み、食堂の隅に席を取る。そこへ、
「よー」
間延びした声で猪口さんがやってきた。彼も今日は午後授業がないらしく、夕方部活があるだけなので昼食を一緒にとって、レポートの続きをしよう、ということになっていた。さすが柔道部なだけあって、彼の持つトレーの上には大盛りご飯のしょうが焼き定食に、その他漬物や冷や奴の小皿が載っていた。
「いただきまーす」
まずは腹ごしらえ。このから揚げ丼、珍しいことに、から揚げの上に甘辛い卵とじのあんがのっている。さしずめ ”あんかけから揚げ丼”、といったところか。僕の大好物だ。
「ところで猪口さん」
「ん?」
「バイク買った」
「マジかよ!!」
そのデカイ体から発せられた大声に視線が集まるのを感じる。
「うるさいって」
「っていうか、免許は?もう取ったん?」
「うん。こないだ卒検に受かった。あとは明日、免許試験場行って、免許発行してもらうばかり。その足でお店行って午後に納車の予定。明日は一日中講義入れてないし、バイトもシフト入ってないし」
卒検に受かったその日にショップに連絡を入れ、一日フリーの明日に納車の段取りをしてもらった。
「なあーシンさん、明日ついってっていい?」
「別にいいけど。猪口さん、明日の予定は大丈夫なの?練習とか、バイトとか」
「バイトは無いけど練習がある。シンさんのバイク見たら帰る」
「じゃあ明日、午前9時に駅集合でいい?」
「うっす」
こうして翌日の約束をし、いつも通り二人でレポート作成を続け、夕方いつも通り駐輪場で分かれて帰路についた。
*
翌朝9時。K電鉄M駅前。
「よー」
昨日と同じテンションで猪口さんがやってきた。僕は帰りにバイクで帰るので、ヘルメット持参だ。この日のために予め用品店で買っておいたのだ。
「おー、いーメット買ったやん」
「まあね。セール品だけど。僕はバイクで帰るから。猪口さんは帰り一人やで」
「わかってるって」
そんな話をしながら電車とバスを乗り継いで免許試験場へ向かう。試験場では2時間ほど時間を要し、全て終えた頃には昼になっていた。バスで駅まで戻って、ハンバーガーショップで昼食を済まし、電車でバイク屋へ向かう。
*
「やあ、待ってたよ。免許取れたって?おめでとう」
「おおお~、シンさんカッコイイの買ったやん!」
バイク屋では店長が待っていたように出迎えてくれた。そして店の前にはピカピカに整備されたセローがあった。
「じゃあまず、残りの代金ね」
「あ、はい。こちらです。確認お願いします」
「ありがとうね。すぐ領収書を切るから。そしたら説明するからね。ちょっと待ってて」
店長が店に入っていく。残された僕らは、目の前のバイクを触ったり、跨ったりしてはしゃいでいた。
その時だった。
「おう、どっちだ。今回セローに選ばれたって奴は」
店長とは違う、低い声。二人同時に振り返り、声を失う。そこには一人の虎獣人が立っていた。
「よー」
間延びした声で猪口さんがやってきた。彼も今日は午後授業がないらしく、夕方部活があるだけなので昼食を一緒にとって、レポートの続きをしよう、ということになっていた。さすが柔道部なだけあって、彼の持つトレーの上には大盛りご飯のしょうが焼き定食に、その他漬物や冷や奴の小皿が載っていた。
「いただきまーす」
まずは腹ごしらえ。このから揚げ丼、珍しいことに、から揚げの上に甘辛い卵とじのあんがのっている。さしずめ ”あんかけから揚げ丼”、といったところか。僕の大好物だ。
「ところで猪口さん」
「ん?」
「バイク買った」
「マジかよ!!」
そのデカイ体から発せられた大声に視線が集まるのを感じる。
「うるさいって」
「っていうか、免許は?もう取ったん?」
「うん。こないだ卒検に受かった。あとは明日、免許試験場行って、免許発行してもらうばかり。その足でお店行って午後に納車の予定。明日は一日中講義入れてないし、バイトもシフト入ってないし」
卒検に受かったその日にショップに連絡を入れ、一日フリーの明日に納車の段取りをしてもらった。
「なあーシンさん、明日ついってっていい?」
「別にいいけど。猪口さん、明日の予定は大丈夫なの?練習とか、バイトとか」
「バイトは無いけど練習がある。シンさんのバイク見たら帰る」
「じゃあ明日、午前9時に駅集合でいい?」
「うっす」
こうして翌日の約束をし、いつも通り二人でレポート作成を続け、夕方いつも通り駐輪場で分かれて帰路についた。
*
翌朝9時。K電鉄M駅前。
「よー」
昨日と同じテンションで猪口さんがやってきた。僕は帰りにバイクで帰るので、ヘルメット持参だ。この日のために予め用品店で買っておいたのだ。
「おー、いーメット買ったやん」
「まあね。セール品だけど。僕はバイクで帰るから。猪口さんは帰り一人やで」
「わかってるって」
そんな話をしながら電車とバスを乗り継いで免許試験場へ向かう。試験場では2時間ほど時間を要し、全て終えた頃には昼になっていた。バスで駅まで戻って、ハンバーガーショップで昼食を済まし、電車でバイク屋へ向かう。
*
「やあ、待ってたよ。免許取れたって?おめでとう」
「おおお~、シンさんカッコイイの買ったやん!」
バイク屋では店長が待っていたように出迎えてくれた。そして店の前にはピカピカに整備されたセローがあった。
「じゃあまず、残りの代金ね」
「あ、はい。こちらです。確認お願いします」
「ありがとうね。すぐ領収書を切るから。そしたら説明するからね。ちょっと待ってて」
店長が店に入っていく。残された僕らは、目の前のバイクを触ったり、跨ったりしてはしゃいでいた。
その時だった。
「おう、どっちだ。今回セローに選ばれたって奴は」
店長とは違う、低い声。二人同時に振り返り、声を失う。そこには一人の虎獣人が立っていた。
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