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~ 窮地 ~
しおりを挟む真堂丸、お前の分まで私が頑張るから。
道来は再び戦場に向かう。最も頼りにし、信頼し、愛し、尊敬した真堂丸はもう二度と動く事はなかった。
この時ようやく涙がこぼれた、実感してしまった。
真堂丸が死んだと。
自分は諦めることは絶対にしない。
例え、希望だったお前が死んでも、何故ならそれが真堂丸、お前が私に教えてくれた事の一つだから。
どんな状況でも諦めるな、必ず道は創り出せる。
お前が教えてくれたんだ。
後は任せろ。
「うおおおおおおおおおおおおおあっーー」
私が鬼道を討つ。
ゆっくり休んでくれ。
背後の道から飛び出して来た道来の様子を見た太一、一之助。
彼らは道来に真堂丸の様子を聞くことはなかった、正直、聞けなかった、恐ろしくて、怖くて聞けなかった。
真堂丸が死んだなんて言葉、道来から絶対に聞きたくなかった。
真の兄貴、先生が死ぬ筈ない。
二人は胸の内強く思う、今自分に出来ることを全力でやり遂げる。
それしか自分達には出来ない。
「絶対にこの道は通さないぞ」太一が叫んだ。
ザッ 雷獣が道来の横につく「どうする?この状況?」
道来は即座に言う「私があいつの代わり鬼道を討つ」
「この場は任せる」
道来の肩を、太一、一之助、洞海、元郎、乱が叩く。
「ここは俺たちに任せて」
頷く道来
雷獣が言う「行くぞ道来、俺もそのつもりだ。菊一達も必ずそのつもりで動いてるはずだ」
「ああ、行くぞ」
事態は深刻だった、皆の体力も、すでに限界に近い。
これが最後の機だろう。これを逃せば敗北は決定的。
いや、正直望みは現実的にほぼなかった、何故なら現状、鬼道に太刀打ち出来る実力者は誰もいなかったのだから。その鬼道に勝たなければいけない。
しかし、彼らに諦めの文字はなかった。
笑いを堪えられないでいたのは鬼道。
我が勝利は確実、もう己が逃げ隠れる必要はない。
真堂丸は死んだ。
自ら一人一人に引導を渡してやろうではないか。
ジャキッ、なんと鬼道は自ら刀を握り動き出したのだ。「皆の者、奴らは限界に近い、今が決着の時、真堂丸はもう死んだ、敵はいないも同然、さぁ進めーー」
「おおおおおおおおおおおおおっーー」
後方の道を守る者達も限界だった、鬼達も半数以上は死に、主力で戦う者達にも限界が来ていた。
「はっはっっはっは」太一は呼吸がままならない
「たっ、太一殿」一之助の視界も朦朧(もうろう)としていた。
二人を援護しているのは、元郎と乱。
「自分達は先程この戦場に来たばかり、まだ動ける」
そう叫んだ乱だったが、心底恐ろしかった。
身体は既に限界、じきに動けなくなる。それが意味する事は死だけではなく、国が大帝国の手に堕ちると言う事。
来たばっかだだろ俺、踏ん張れ、ここで負ける訳にはいかない。
もし、今ここに元郎、乱が居なければ、太一、一之助は確実に殺されていただろう。
彼らが連れ、共に来た仲間達が居なければ、ここは突破されていたであろう。
「真堂丸さんの思い、無駄にせんぞーー」道を死守する者達が叫ぶ。
菊一、夏目、ガルゥラは鬼道と対峙していた。
「自ら来たか鬼道」菊一が言う。
「ようやく、貴様等を殺せると思うと胸が疼く」鬼道が高く跳ぶ。
「しゃああっ、死ねっ菊一」菊一の体力も既に限界だった、鬼道の一太刀が全く見えぬ程に。
キィンッ 清正がギリギリのところ刀を受ける。
ザッ その間を縫うように走り抜け、誠が刀を振りかざす。
キィンッ「笑わせる、今の貴様らの体力で振りかざす刀など、まるで止まって見える」鬼道は余裕だった。その言葉は嘘偽りなき事実。
鬼道には今の彼らの動きなど、目を閉じていても避けられる程だった。
「残念だな、貴様らは終わりだ、死ねっ」
鬼道の刀が菊一の首を跳ねるように振りかざされたが青鬼が止めた「させないっ」
鬼道が笑う「残念だと?最初から狙いは貴様の首だ」
スパアアンッ
「青鬼ーーーーっ」
キィンッ 受け止めたのは雷獣
その瞬間、すかさず攻撃を仕掛けたのは、空と氷輪
「うおおおおおっ」鬼道は二人の太刀すら軽々とはじく「死ねっ」
ズゥオンッ
「これを待っていた」鬼道の完全なる死角に立っていたのは道来
これで駄目なら、もう絶対に勝てないだろう、道来は確信する。これが最初で最後、最大の機会。
仲間達は気づけば全力で叫んでいた「行けっ道来」
ザアアアアアアアアアンッ
それは、悲劇に近い程の絶望的な光景。
その最大の機会に放たれた道来の太刀を、鬼道は目を閉じながら軽々と躱したのだ。
「お前が万全なら、今ので腕は斬り落とされていたやもな」ニヤリ鬼道が笑う。
「さて、終わりだ」
悲劇は続く、後方の文太達の所に続く道を守る者達の限界が来た。
「今だっ、突破出来る」スバアアンッ
大帝国の兵達が遂に道を突破してしまったのだ。
「ハッハッハッハ勝負あり」笑ったのは鬼道だった。
「我が大帝国の勝利なり」
ヒュオオオオオオオオンッ、ヒュオオオオオオオオー
「ここは一体?」
なんて心地が良いんだ。
俺は誰? 一体何をしているんだ?
その場所には美しい花々が咲き誇り、見た事もないくらいに綺麗な川が流れている、それはまるでこの世のものではない程の美しさだった。
ここは?記憶が整理しきれない。
すると目の前に藁葺き屋根の家屋が目に入る。
不思議なのだが、その場所から誰かが呼んでいるのが分かった、無論声など何一つ聞こえていないのにもかかわらず。
何者だ?
ガラッ 戸を開くと、中から声がした。
「待っておったよ、真堂丸君」
その瞬間、うっすらと記憶の断片が蘇る、俺はこの男を知っている
ふと心に名前が浮かんだ
一山
「ゆっくりしなさい、茶をいれよう」一山はニッコリ微笑んだ。
ズズッ
まるで時が止まった様な空間の中に身を置いている様、落ちつく。
「美味いじゃろ?儂が、ここで葉を育て茶を作っている、その湯のみも儂が作ったんじゃよ」
「ああ、美味い」
「記憶が曖昧なんだが、俺は今なにか大事な事を忘れている様なそんな気がする」
ズズッ
「君は死んだんじゃ」
「?」
「俺が死んだ?」
一山の鋭い眼差しが真堂丸を見つめる
「君はこれからどうする?」
「どうする?」
「・・・・・・・」
「無理もない、道を決めるまで、しばらくここでゆっくりしていきなさい」
ああ。
心地が良かった。
もうすべてが満たされ、するべきこともなくなった。
このまま、そう このまま ここで、もう思い出す必要もないか。
すると「真堂丸君、仲間達は元気かね?」
ハッ
真堂丸は、その一山の言葉に我に帰る
俺は今の今まで大帝国と・・・・・
「みんなは?みんなはどうなった?」
一山はどこか悲しげな表情を浮かべていた。
「おいっ、一山教えてくれ」
「まだ大帝国と戦っているよ」
ザッ 真堂丸は立ち上がる
「俺は戻る」
一山の表情が強張り、険しく一変する。
「目に余る程の辛い状況をこれから体験することになってもか?」
「ああ」
真堂丸の返事は間髪入れず即答であった。
そこに迷いなど微塵もなかった。
「そうか」一山は瞳を閉じる。
「俺は行く、茶をご馳走になったな」
「本当に優しい者だったら、ここで止めていたかも知れぬ、仲間の事を思い出させようか正直悩んだ。すまない真堂丸君」
「いや、助かった。ここで戻らなかったら、きっと俺は後悔した」真堂丸は歩き出す。
一山の頬に一筋の美しい涙が伝った。
優しい彼がこれから見ることになる一つの結末。
一山の胸は引き裂かれる様な思いで一杯になっていた。
ザッ 真堂丸は何故か知っていた、心が教えてくれるのだ。あの川に飛び込めば戻れると。
「待っていろ、みんな」
ザッ
ヒョオオオオオオオオオオオーーーーッ
そこに立つ一人の者の姿
俺はあいつを知っている
影が消え、その者の姿がはっきり視界に入る。
「よぉ、真堂丸」
「骸」
目の前に立っていたのは骸だった。
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