文太と真堂丸

だかずお

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~ 湧き上がるもの ~

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ヒュオオオオオオオオー ヒュオオオオオオオオー

柳に刀を向けピクリとも動かない清正は全神経を集中させ警戒していた。
尋常ならぬ汗が、降り続ける雨の如し流れる様に滴り落ちている。
それは予想以上に不味い事態であった。
清正が刀を向けていたから柳は一之助と洞海を殺せなかったのだが、柳の意識がこちらに向いた。
すぐに相手が自分に来る。
清正はこの時点で相手の力量を悟っていた。
一人じゃ勝てない、自身の敗北、それは即ち一之助、洞海の死に直結する。
まずい、このままじゃ柳に全員殺される。
頭によぎるのは全滅。

来るっ

ザッ 
 柳が刀を振りかざす。
「僕ちんを少しは楽しませてくれよ」
キィンッ  キィンッ  キン キン  キィンッ

「確かに君は強い。でも僕ちんには勝てないね、切捨て御免」

その瞬間だった。

ズゴオオオンッ
柳は背後から何者かの拳で吹っ飛ばされる。

「ふぅ、俺も運が良い、首の皮が繋がったぜ」清正が言った。

背後から柳を吹っ飛ばしたその拳の主は青鬼「大丈夫か」

「すまない、助かった」

一之助と洞海も立ち上がる「助かったでごんす」

「青鬼殿、その腕」青鬼の片腕が無い事に驚きを隠せない一之助が言う。

「心配ない、首が斬り落とされるまでは、お前達の力になれる」

「頼もしい鬼だな、だが相手はそんなに甘くない、来るぞ」清正が言う。

「この四人であいつに勝つでごんすよ」

「おおっ」

立ち上がる柳「イラつかせるなぁもぅ」

二つある首の一つ、先程まで死んだ様に動かなかった斬り傷でぐしゃぐしゃの首の瞳が、目を開け話し出す。
「こりゃあ、全力で行こうかね、俺は瀕死の状態になると起きるのだ、先ほどの拳はえらく痛かったぞ」

「ついにお前が起きたか、僕ちんの獲物だからな殺すの半分にしろよ」
なんと、二つの首は互いに会話を始める。

「化け物め」たじろぐ洞海

「さあ、やろうぜ仲間が殺されて行く様を見届けよ」

ザッ
洞海の目の前に突如現れる柳

キィンッ 柳の刀を一之助が止める、斬撃の強さにより、一之助の足が地面にのめり込む。
「ぐおっ」
柳は即座に背中から刀を抜き、もう片腕に刀を持つと同時に振りかざした。

キィンッ
それを清正が止める「ぐはっ」
斬撃の凄まじい威力が刀を受け止めるだけで、傷を負わす。
この斬撃を受け止められる二人も流石であった。

だが柳の両腕が塞がるのを見逃すはずも無い「じゃあな二つの首野郎」青鬼の拳が柳の全身めがけ放たれる。

ザシュンッ

「しまった」青鬼の首に絡みつく様に、巻きつく一方の首

「気付いてるんだよ阿呆が、貴様の首ごと噛みちぎる、死にな」

「しまった」

ザクシュッ

「きっ、貴様あああああっ」

「今しがた、目覚めた直後に悪いな」
柳の首を斬り落としたのは洞海、相手の一瞬の隙も見逃さない見事な動き。

ニヤリ「良くやった」清正がほくそ笑んだ。

「グギャギャギャギャギャギャーッ」

「さすがに四対一じゃ、分が悪かったでごんすね」

スパアアン
もう一方の首を清正が斬り落とす。
柳は地面に崩れ落ちた。
ドスッ

「来た時に分かった、お前達この戦場で誰も殺してはいないな」

「俺もお前達の精神に出来る限り付き合うつもりだが、幹部はしない。生かしておけば必ず奴らは後のこの戦に厄介な存在になるからだ」清正が言った。

ヒュオンッ  ビュオンッ

女郎蜘蛛の鋭い爪が菊一とガルゥラに襲いかかっていた。

ズバッ 菊一の肩から血が噴き出す。
「貴様っ、菊一集中しろっ」

「分かってるよ」
菊一が焦る一つの理由、自分の視界に入る夏目は入道雲により斬られ、徐々に傷を増やしていたからだ。

「我々がこいつを瞬殺して向かうしかないんだぞ」
ガルゥラが言う。

「ああ、んなこたぁ分かってるよ」

その時だった。

キィンッ

あっ!!

夏目の刀が宙を舞った。

気にするんじゃねえ、とでも伝えるかの様に夏目はこっちを振り返り

微笑んだ

「なっ、夏目」

スパアアン

馬鹿野郎

馬鹿野郎

菊一は涙を流した。

その隙を見逃すはずのない女郎蜘蛛
「さよなら、菊一」

キィンッ
菊一は女郎蜘蛛の刀を止めた。

「これでちったあ集中出来るだろ、阿保め」
ガルゥラが囁く。

斬られ地面に倒れていたのは入道雲だった。
夏目を斬る瞬間背後から入道雲の隙をつき攻撃したのはなんと、一山を誰よりも愛し、弟子入りしていた陸と海。
そう、かつて真堂丸達が一山の道場で出会った男達だった。

入道雲が完全に夏目に意識を向けた瞬間を捉えた見事な二人の一撃。
だが、本当に怖ろしかったのは入道雲であった。
その瞬間を狙ったにも関わらず、二人の額は斬られ血を流していたのだ。
二人が分かっていた確かなこと、もし奴に利き腕が残っていたら、今の瞬間でも奴を討ち取ることは不可能だった。
怖ろしい男だ。
真堂丸が斬り落とした腕により勝敗は逆転した。

「菊一様、すいません遅くなりました」

女郎蜘蛛を取り囲む様に立つ二人

「いや、最高の時に来てくれた」
菊一には一山が助けてくれた様に思えてならなかった。
みんなで戦っているんだ、みんなで。
心から湧き上がるなにか抑えられないそんな気持ち。
真堂丸、文太、お前らが立ち上がった意思に人々が応え、立ち上がったんだ。
聞こえるか?
自由を求め立ち上がった人間の魂の声を。
決着つけるぞ、人々の尊厳を取り戻すのは今

なぁ、お前にも聞こえてるか一山?
お前の平和の意思はしっかりと人々の心に受け継がれてるぜ。

大帝国第一精鋭部隊 隊長の黒七は怒り狂っていた。
我々の部隊が光真組、雷獣の手下どものせいで標的に近づけない、ようやく突破口を見出した時、今度は一山の手下どもが参戦しやがってきただと。
「ちきしょおおおおっ」

実はこの時、戦場にいない者達も続々に立ち上がり始めていた。

「どうかみんなで彼らを助けてあげて下さい。このまま大帝国に従い続ければ、人間の命はこれからもごみの様に扱われ続け、国も人も確実に終わります。
文太君と真堂丸君は我々の為に立ち上がったのに我々が意思を示し、変わらなければなにも」
そう言い町々を歩きまわっていたのは、文太と真堂丸に息子の命を救われ家に住まわせてくれた平八郎だったのだ。
平八郎にとって文太と真堂丸の二人は息子同然であり、彼らを助けて支えて欲しい、その一心での行動だった。

「馬鹿野郎、大帝国に逆らえば殺されるだけよ、どこの阿保が大帝国に歯向かえるかよ、せいぜえ殺されない様に顔色伺って生きるしかねえんだよ」

「文太、真堂丸?たった数人の人間だろ?大帝国の戦力に敵うはずかねぇ、今頃は戦場で死んでるよ」

「所詮この世は力のある者や、貨幣を持つ人間しか生き延びる権利はねぇのさ」

「おじちゃん、なんて悲しい世界だろうね」
息子の喜一もすっかり大きくなっていた。

「生意気なガキだなぁ、だったら爺いとガキ二人で行って来いや、他に戦場に行く奴なんかは居ねぇんだよ」

ザッ
「俺たちは向かってる所だがな」

男は振り向き驚いた。

その集団は数百名の集団。
「出遅れちまったが、俺たちの歩いた道のりには、お前みたいなのも居たが、沢山立ち上がった人間も居たぜ、人間の尊厳、生命をこれ以上粗末に扱わせないとな」

「お前らは戦に行くな、行っても大して戦えないだろう。命を無駄にするな、代わりに俺たちが行く。だがな、命に対する姿勢はこれから変えろ。自分や人々の命の大切さを忘れないでくれ。じゃなきゃ俺たちは何の為に命を賭けるんだよ」男はそう言い歩き出した。

「あわわわっ」その男の迫力に、先程まで叫んでいた男は地面に倒れ込む。

「大同さん急いで、元郎さんが呼んでますよ」

「おお悪りぃな乱、すぐ行く」

俺たちは以前、人間が立ち向かうには絶望的な程の力を持つ化け物女狐と戦った。
希望と呼べる、ほんの一筋の光すら見えず、真っ暗闇の中、絶望と対峙していたのだ。

そこに彼らがあらわれた。
まるで暗闇を照らす光の様に。
俺たちは救われた。

今度は我々が助ける番。

皆さん待っていて下さい。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴオーー

それは文太と真堂丸が剛大、妖魔師と呼ばれる強者と対峙した村。

村の男達は戦場に向かう為に出発しようとしていた。
あの時、命を救われた娘も元気に育っていた。
「皆さん行くんですね」

「あの時、ただただ恐怖に支配されて震えて生きていただけじゃったワシらは彼らの姿勢を見て変わったのだ、彼らの力になりたい。それに」

「立ち上がった理由はもう一つある、お前達の存在だ」村の長老は村の人々を見渡した。

小さな子供達、これから生まれ育ち地球を担って行くこれからの世代。
この村の人間達の心はあれからすっかり変わっていた。
村と言う枠を越え、国を越え、同じ人間、命として芽生えた気持ち。
その者達の為に少しでも地球を良くしてやりたい。
そうして後の者達に繋げたい。
そんな気持ちが芽生えていたのだ。

「我々が居なくなっても、村を頼んだぞ」

村に残る者達は力強く頷いた。
生涯この村では彼らの意思と姿勢は語り継がれる事となる。

生命を愛する気持ちと共に。

真堂丸、文太達と出会った者達はそれぞれに立ち上がり、まるで生命そのものに仕え、本能に導かれるかの様に行動し始めていた。
そう、人々は魂の根源から湧き上がるなにかに触れ、その音をしっかり捉え始めていた。
幼き子供だった時には直感的に分かっていたこと、大人になり忘れていった大事ななにか。
精神を超えたなにか。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴオーー
生命から突き動かされる様に人々は考えや理性なしに直感的に行動し始めていた、そう、それはまるで今までとは違った。
生命を価値あるものとし、人々が立ち上がったのだ。
小さな波が地上にうねる様に響き始める。



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