文太と真堂丸

だかずお

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~ 想い ~

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その夜、僕らは雪さんの家でお世話になることに。

「しっかし、何とも変な経緯(いきさつ)だよな、これから戦う奴の家に泊まってるんだからな」しんべえが言った。

僕はこんなことを思う。
もし、ここに一斎さんが帰って来て、話なんかして仲良くなり、戦わずして終わるなら それが一番良いと
相手の強さは底が知れない。
こんなことも思った。
もし、骸さんと一斎さんが戦ったらどちらが強いんだろう?

真堂丸は目をつむり、座っている
もう、既に集中しているんだろうか?

今どんな気持ちでいる?

何を感じてるの?

僕の中に、あふれる様に押し寄せる緊張感と心配、真堂丸が戦う前はいつも自分が生きるか死ぬか、それ以上の感覚になる
僕に出来ることは信じることだけ
他の誰を見ても、口数は静かで
否が応にも皆の緊張感が伝わってくる。
相手は一山をもって、刀の神と言わしめさせた存在
しばらくは寝ることは出来そうにない。
ここにいる皆がそうだろう。

真堂丸が不意に立ち上がり、外に向かう
「夜風に触れてくる」

「分かりました」

真堂丸は外に出て行った。

「先生は今一体どんな気持ちなんでしょうか?」

みんなは何とも言えない気持ちになる
「でも、真の兄貴はあの骸にも勝ったんだ、その一斎ってのが強くたって、あの骸程ではないだろう」
その場の重い空気を壊すよう太一が言った。

「そうだと良いでごんす」

すると文太が「雪さん一斎さんに勝てた者は過去に居たんですか?」

雪が答える
「弟が負けたことはありません、正直私には弟が負けるなど想像すら出来ません」

「でも」

「私はあの方を信じております」
雪の瞳はまっすぐ文太を見つめる

「しんどうまる」

「彼の名前です」文太が言った。

「あの方が」雪は少しも驚かなかった。
あれ程の尋常ではない空気感が伝わる人間、只者ではない事は察しがついていた。

真堂丸は夜の町を眺めながら歩いている
自身が刀を持ってから、対峙した数々の強敵や、経験した出来事が頭をよぎる

「色んな奴と戦った」

「沢山の人間を斬った」

ヒョオオオオオーッ
一斎はこれから沢山の人間を斬るだろう
大帝国の名の下に。
大帝国がこの国を完全に支配したら、多くの人間が死ぬことになる。
真堂丸の脳裏に多くの人々の泣き叫ぶ姿が浮かんだ。
沢山の大帝国の支配下の町や村を見た。
これ以上繰り返させるものか。
今、真堂丸が望むもの、それは。
人々の笑いあう姿であった。
己は負ける訳にはいかないんだ。
真堂丸が戦う理由は今や自身の為だけではなかった。

静かな夜だ

本当に静かな夜

俺は刀を手にし、沢山の命を奪った。

今になって命の大切さを知った。

他の者をいたわる心を知った

人を不幸にしてる間は幸せには気づかぬことを

今俺は欲しかったものすべてを手に入れていたことを知った

もう他に欲しいものはない

この命もくれてやる

だから
人々が平和に笑いあい助けあい支えあい暮らせる地を築き上げられる手伝いを俺にさせてくれ。

一斎、お前に俺と同じ過ちは繰り返させない

ザッ   真堂丸は目の前の川を見つめていた

背後に人の気配

真堂丸は振り向かなかった

「この辺りも寒くなりました」
その声の主は雪だった。

「あっという間です、夏が来たと思えば冬になり、また年が明け、それらを眺めてる心は去年に比べどれくらい成長出来たんでしょう、そんなことを思います」

「無謀な願いを頼んでしまいました、心の優しいあなたには辛いお願いを頼んでしまいました」

真堂丸は返事をしなかった。

「分かっているんでしょう?弟をお互い無傷で止めることが不可能なことくらい。大事なものをお失いになるかも」

「構わん」

背後の少し離れたところ、気になった皆も家の外に出てついて来ていた。

「お前までついて来たのか文太」しんべえが言う

「いっ、いやーやっぱ気になっちゃって」

「あんだけの、べっぴんさんに後を追わせるなんてさすが先生」

「まっ、まさか真の兄貴と雪さんが付き合っちゃうなんて展開に」この状況に変な期待をする太一

「こっ、こほんっ、そっ、それは許嫁になると言う事か?」顔を真っ赤にする道来

「どっ、どうらいさんまで来たんですか」太一は再びビックリ

僕、文太も息を飲んだ
もし、もし真堂丸が雪さんと付き合って、結婚なんかしたら本当に嬉しい、そしたら刀を置いて、戦いをやめて、ずっと平和に幸せに暮らして欲しい。
僕はそんなことを願っていた。

「私はあなたに頼むべきではなかった」

「心配するな、弟は生きて返してやる」

真堂丸が歩き出す

ザッ

「その言葉は信じております」

「では、あなたは?」

その言葉に足が止まる

「なら、私と約束して下さい」

「必ずあなたも生きて戻ることを」

ヒョオオオーッ

「ああ、分かった」

「雪さんっ」それを聴いていた文太は泣きそうになっていた。 ありがとう

雪は、しっかり、何処までもピンと真っ直ぐな姿勢を深く曲げ、頭を下げた。

「なっ、なんだよ告白じゃねーじゃねえか、あの女子が表に出たから、てっきり俺はよう」その瞬間しんべえが地面の石に足を引っかけ。

「あっ、あああーっ」
みんなの身体にしがみつき、僕らは川の方に転がり落ちた。

目の前には真堂丸と雪さんの姿

「あっはははは、いやぁー川が綺麗だなぁー」しんべえの一言にみんなは苦笑いで笑った。

お願い 真堂丸 死なないで。
必ず生きて戻ってきて。

雪は目をつむり心の中祈っていた。
神様お願いしますどうか、私の愛したあの方を見守り
弟を殺戮の世界からお救い下さい。
私はあの方々を信じます。

その頃 場面は変わる

「さて、洞海着いたぞ」

「菊一さん、そろそろ教えて下さいよ、頼りになる戦力って誰のことなんですか?」

「じきに分かる」

ヒョオオオオーッ

洞海の身体が震えあがる「なんだこの感覚?菊一さんやばい奴が近くに」

「来なすったな」

「おいっ、洞海 刀を絶対に抜くな、殺されるぞ」

「えっ?」

ザッ
「おやおや、菊一かい懐かしいねぇ」

洞海はとんでもない威圧感に驚く、突如目の前に一人の人間の姿

「あたしゃに何の用じゃい?」

「力を貸してくれ、大帝国とやり合う」

「噂は伝わってるよ」
その人物を覆う影が消え、姿がはっきりと見えた、立つのは一人の老婆

こっ、この婆さんが先程の殺気を?

「菊一さんこの方は?」

「この婆さんは、一山の元妻だよ」

「えーっ」

「あんたが、あたしゃのとこまで来るとは、良い報せじゃな?」

「ああ、大帝国に勝てる希望を見つけた」

ニヤリ

「ここじゃなんだ、家に来な」

暗い暗い闇の中、長い間 暗闇に紛れすべての闇を操っていた存在達が表舞台に表れたのはいつぞや以来か。

三人の絶望

カチャ
「刀を久しぶりに抜くな」

「今のうちに斬っておきたい奴がいるからな」

「鬼道は任せてくれと言ったが、ちょっとした因縁があるからな、直々に俺たちが手を下そう」

すべての闇はこいつらから生まれる
いつしか時代は彼らをそう恐れた、人間を震えあがらせた数々の怪物達はこいつらに育てられた。

「鬼神 、白竜、 あいつらが敗けるとはな、若い世代も中々やるじゃないか」

「我々の恐ろしさを、人々は忘れたんではないか」

「さあて、久しぶりの狩だ、行こうぜ」

彼らが人々に与えた被害は甚大ではない、多くの土地や自然を汚し、焼き払い、人々を殺し、災害と恐れられた。
彼らが死んだと思われた時、国中の人間達が両手を上げ喜んだのだ。
だが、闇夜に潜んでいた絶望が再び顔を出す
三國人はいよいよ動き出したのだ。

その頃、文太達のいる町では朝を迎えていた。

僕はやはり、眠れなかった。
他のみんなも、やはり眠れなかったようだ。

やっぱり

やっぱり

出来ることなら戦わずに終われたら

僕がそう思った瞬間だった。

「来た」

その言葉は真堂丸の言葉

僕の心臓の鼓動が音を立てて加速する

心臓の鼓動が速く 速く 

おさまらない。

町の入り口

確かに一斎は立っていた

「忘れられない、この感覚」

「間違いない」

「あいつがこの町にいる」

一斎はニヤリと笑っていた。


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