文太と真堂丸

だかずお

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~ 真堂丸と骸 ~

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ヒョオオオオーーー
姉さんを斬ったあの日以来 俺は姉さんの幻影をずっと追ってきた。
もう姉さんを超えたか?
それは間違いないこと。
だがずっとあれからも姉さんの背中を追い続けてきた。
俺は姉さんが望むような刀使いになれたか?
フッ笑っちまう こんなことを考えていやがる俺自身に。
なんでだろうな、今こんな事を考えてるのは。
笑止、間違いない
こいつに姉さんの影が重なりやがる
あの日と同じ
今度は殺すつもりで斬るとしよう
なぁ真堂丸よ

ピタリ
二人は向きあったまま、しばらく動かなくなる
ハアハア 呼吸がしづらい、緊張のせいか?
文太は思った。
次の一撃でお互い決めるつもりだ。

真堂丸

どうか

無事に 神様。


「行くぞ」

「ああ」


その頃、富士の頂上の少し下

「おいっ、あれ」しんべえが驚き指差す

一之助が叫ぶ
「無事でごんすか?」

「ああ」
それは太一の姿、背中には道来の姿も。

飛び上がり喜ぶしんべえ
「おまえら無事だったか」

「ああ」太一が微笑んだ。

「凄い、本当にあの大帝国の幹部、白い刃の一人に勝ったでごんすね、さすが道来殿」

「真堂丸と文太は?」

「上で戦ってるでごんす」

「勝負を見届けに行こう」太一が言う

「そうでごんすな」

「行くぞ」

再び富士の頂上
見合っていた真堂丸と骸が同時に飛び出す

ドクッ
心臓がはちきれそうになる文太

ブウオオオオンッ

スパアアアアアアンッ

ニヤリ
二人ともお互いの一撃をかわした

「こりゃ、まだ長引きそうだ」骸が笑う

ザッ

キィンッ キィンッ  キィンッ   キィンッ   キィンッ
キィンッ  キィンッ  キィンッ  キィンッ  キィンッ

凄まじい速度での刀の攻防

「すっ、すごい これが人間の動きだなんて」
文太の目には速すぎる速度のせいだろうか?二人の姿が残像のように至る所に無数に見えるのだ。

真堂丸がしゃがみ刀をかわす

スパアアアンッ
真堂丸の後ろにあった大岩がまるで豆腐でも斬るかのように簡単に斬られ真っ二つになる

キィンッ   キィンッ    キィンッ   キィンッ

その時
「信じられない戦いだな」
背後から声が
振り向くとみんなの姿
「みなさん、道来さん勝ったんですね」

「ああ、文太斬られているのか」

「文太の兄貴」

「文太、大丈夫か」

「文太さん、はやく手当てを」と一之助

「僕は大丈夫です、それより今は見届けます」

キィンッ    キィンッ  キィンッ  キィンッ

「すごい、本当に信じられない」
道来は驚嘆していた。
二人の信じがたい刀の腕前に。
どうやったらあんな速度で刀を振れる
無駄な力がどこにも入ってない、なのにあの力強さ。
すごい すごすぎる、なんと柔和で力強き刀
二人の刀に揺るぎない信念を見た気がした。
道来がこの時感じていたのは、二人に対する嫉妬などではなかった。
感じていたものそれは感謝だったのだ。
自身が歩む刀道、二人の男の背中が道来に自分の歩む道を教えてくれた。
二人は俺の遥か先を歩いている
嬉しい
刀を極めるとは、こんなにも奥深く、深淵なるものか。
学んでいるからこそ、彼らの凄さと境地がより分かる
ひとすじの涙が頬を伝う。
自分にさらなる向上心、自身の限界など突破できるという事を二人の背中が教えてくれたのだ。
追求する道に終わりなどはない、行き先は無限

ありがとう
一瞬でも技を見逃さないように道来は必死に見ていた。

真堂丸

勝て

みんなで生きよう。

皆同じ気持ちだった。

キィンッ  キィンッ   キィンッ   キィンッ  キィンッ

力、速さ、ほぼ互角か、大したもんだ この戦いでここまで成長するとは思わなかったぜ。
骸が笑う
刀を振るたびに掴んでくる相手の動きのほんの小さな癖
そこに隙を見つける
ここからは、戦い、死闘の経験値がものを言う
おまえはどれほどの修羅場をくぐってきた?

キィンッ   キィンッ   キィンッ   キィンッ

キィンッ  キィンッ   キィンッ   キィンッ

くっくっく、全く隙がないな
少し残念なことは、おまえはこの戦い血を流しすぎた
動きがだんだんついてこれなくなってくる
その兆候がじきに見え始める、持久力持つかな

キィンッ  キィンッ   キィンッ  キン キィンッ
骸は冷静にすべてを真っ黒の瞳の奥から見つめていた


ああ


ああ


気持ち良かった


さようなら


真堂丸


ザッ

骸が真堂丸の懐に飛び込む
身体がついてこれなくなったな、終わりだ

ズババアアッ

「真堂丸」叫ぶ仲間たち
真堂丸の身体から血が噴き出す

姉さん また斬っちまったな

遠のく意識の中
真堂丸の思い、ただ一つ
俺がここで敗北したら、文太が殺される
自分の勝ち負けを越え
男がどうしても渡せないもの
それは仲間の命
友の生命
その想いが意識をぎりぎりのところで繋いだのだ

ギロリ
なんだと、テメェまだ倒れないのか

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ」

ズバアッッ
真堂丸の刀が骸を斬る

ばかな?

俺が負けただと?

何故こいつは倒れない?

何故なんだ?
フッ、まあいい、もう足が言うことを気かねぇ意識が遠のく

ズサッ
なんと先に倒れたのは骸
真堂丸はそれを見届け 倒れた

意識を一瞬失った骸だったが、すぐに目を開ける
勝負は?

刀を持ち、再び立ち上がる真堂丸

くっくっ、まだか決着は

骸はすぐに状況を察した。

ああ

なんだよ

身体が全くうごかねぇ

くっくっく

「真堂丸おまえの勝ちだ」

「とどめをさせ」

ヒョオオオオーー

真堂丸は刀を鞘に収めた。

「貴様どういうつもりだ」

「俺はおまえを殺さない」

「いいのか、俺はおまえを何度でも殺しに行くぞ」

「そうだ、馬鹿いってんじゃねえ、危険じゃねえか」
しんべえが叫ぶ

真堂丸は骸を見つめ
「ああ、何度でもこい その時も俺が勝つ」

「馬鹿野郎が」

「すぐに手当てを」文太が真堂丸のほうに向かう

「文太さんも斬られてるでごんす、はやく菊一殿のところに向かうでごんす」

「骸さんも」文太が言う

「本当に笑わせる連中だ、俺はしばらく敗戦の余韻に浸る、勝手に一人でやる」

「おいっ」
骸の声に真堂丸が振り返る

「俺たちの他にもう一人やばいのがいる」

「一斎」

「知ってるようだな」

「ああ」

「やるのか?」

「ああ」

「俺に勝った奴が負けんじゃねえぜ」

真堂丸は頷く

皆はその場を離れた
後ろを振り向き、見ると骸は空を眺め横たわっていた。

「大丈夫なんでごんすか?骸が再び襲ってきて、沢山の人達を斬るような」

「あいつは、そういう奴じゃない」

「一之助さん心配いらないと思います、最初、殺気を放ち、僕たち苦しくなったじゃないですか、あれ途中からなくなったのに気づいたんです」

「ああ、もし骸がその気だったら殺気だけでお前達を殺せただろう」

「まさか、じゃあなんでやらなかったんだ?」しんべえが言う。

「最初から僕たちを殺すつもりはなかったんじゃないでしょうか、彼は純粋にただ真堂丸と戦いたかっただけ」


骸は倒れたまま空を見つめていた。

「姉さん俺が負けたよ、信じられるか?でも、何だか清々しい」

「とっても良い気持ちなんだ」

「笑うかもしれないけど、あの二人を見てると優しかった姉さんを思いだす」

俺もおかしいよな
敗北したのに生涯で一番嬉しいだなんてよ。

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