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~ 道来と秀峰 ~
しおりを挟むキィンッ キィンッ キンッ
目の前で激しい攻防を繰り広げるのは道来と秀峰
太一の瞳からは涙が溢れ出て止まらなかった。
すげーよ、すげぇーや道来さん
この短期間でこの動き、ここまで到達するのにどれほど努力し鍛錬したんだよ?
朝から晩までずっと刀を振るってたの俺は知ってるよ、最初の頃の道来さんは自分の為に刀を振るってた、でも今は仲間の力になる為、それが優しい道来さんの心に火をつけたのかも知れない。
少しでも力になる為、仲間を助ける為。
道来さんは本気で燃えたんだ。
とめどなく溢れる涙を太一は拭った。
ただ一つ どうしても拭えないものが浮き上がる
どうして?
どうしてだ?
なんなんだ
太一の心を支配する一つの思い
それは
不安
どうして?
こんな時に………
気のせいだ
気のせいさ
どうしても拭えない、嫌な予感だった
キィンッ キィンッ キンッ
秀峰は正直少し焦っていた、相手の身体はもう限界、己の秘剣を全て見破られはしたが相手はもう確かに限界のはず。
まさかこれ程まで強くなっていたとはな。
だが、残念身体がもうついてきてないんじゃないのか
ズバッ
道来の肩が斬られ血が流れる
「道来さんっ」
ハアハア ハアハア
「本当に強くなりましたね」
「だが、ここいらでもうお終いです」
「身体は限界でしょう」
秀峰が刀を振りかざす
スパアアンッ
道来はその一撃を躱し
即座に刀を振り、秀峰に一撃をくらわす
スパアアンッ
「そいつはお前もだろう」
秀峰の肩からも血が流れる
勝負は均衡、どちらが勝ち、負けてもおかしくない。
この決着の後に立ち生き残るのは一人だけ
ヒョオオオーオーオオオオー
二人は見合った
「決着をつけますか」
「ああ」
お互いに刀を向ける
ガタガタガタガタ
太一の足の震えが突如止まらなくなる
なぁ
どうしてだよ
どうして
今
こんな
こんなの
思い出しちまうんだよ
太一が思い出したそれは道来に初めて会ったその日の事。
太一は親からは微塵の愛情も受けた記憶がない
両親は決まってこんな感じであった。
「だいたい俺はなあんなやつ産みたくなかったんだよ、ちきしょお、邪魔でしょうがねぇ」
「あんた、そう言ったって産んじまったもんはしょうがないわ、だったらそこらに殺して埋めてきとくれよ、あたしもあんな子いらないよ」
「やだよ、化けてでも出られたら」
ガラッ
「上等だ、こんな家出て行ってやるよ」
腹が立つ、どいつもこいつも、人間なんて信用ならねぇ
太一は荒れていた、ちょっとした事で喧嘩、また喧嘩、毎日喧嘩を繰り返し生きていく日々が続く
その日も町を歩いていた。
どんっ
「ってーな、この野郎」目の前の男を殴ったつもりだった、男は躱し、代わりに地面に倒れていたのは自分だった。
「てめぇ」
「分かるだろ?お前じゃ俺には勝てない、やるだけ無駄だ」
そう、その男こそ 道来であった。
「知るかよてめぇ」太一は再び殴りかかる
しかし、何度やっても地面に倒れているのは自分だった。
「くそがっ」
太一は立てなくなっていた。
すると、男は倒れてる自分を担ぎ歩き出したではないか。
「てめぇなんのまねだよ」
「うちで治療してやる」
「馬鹿野郎いらねーよ」
「痛むだろ、ついでに飯でも食って泊まっていけ、ちょうど飲み相手が欲しかったところだ」その男は微笑んだ。
太一は産まれて初めて人に優しくされた気がした。
親はこんな事してくれなかった、俺のことなんか構わなかったのに、こいつは、この人は違う。
人間にも優しいのがいるんだ
涙が止まらなかった。
「もう、お前は一人じゃない 俺を兄貴だと思え」
道来には最初から太一の心の傷が見えていたのかも知れない。
ポタッ ポタッ
どうして今こんな事思い出してんだよ。
道来さんが、負けるわけねぇ
辺りに声が響き渡る
「うおおおおおおおおおおおおおおっ」
二人は同時に飛び出した。
その時であった
決着の瞬間それは起こる
強い突風が吹き、辺りに凄まじい勢いで砂埃が舞う
太一の瞳にはその瞬間大量の砂埃が入る、必死に目を見開こうとしたが出来なかった。
風はまだ吹き、辺りは全く何も見えないでいた
それは、その時だったのだ………
太一の目の前
ドサッ
何かが……何かが……目の前に落ちたのだ
えっ?
太一は落ちた物を必死に掴む
「あっ、あっあああ」
それは
一本の腕
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
道来さんのじゃない
すると声がした
声の主は
秀峰だった
「勝負あったな」
ギラリ「終わりだ」
太一はこの時、思った
腕は失えど、まだ道来さんは生きてる
身代わりになってでも、道来さんを助けるんだ。
砂埃で太一には前が全く見えなかったが、声のする方に飛び出す
その時だった
ズバアアッ
太一は大量の返り血を浴びる
あわわわあっあっあっああ
ゴロン
何も見えない
見えないが
確かなことがひとつ
ひとつあった
それは目の前に落ちた
それが
首であった事
目が開かない
開かなかった
直視できなかった
でも
ひとつ
ひとつだけ
分かってしまっていることがあった
それは残酷な事実
受け入れなければいけない現実
それは
その首が道来のものである事だった。
何故なら、道来がとどめを刺すにしても、相手の首を斬り落とすような真似はしないことを太一は誰よりも分かっていたからだ。
うっ、うわあああああ
うおああああああああああああっ
道来さんが死んだ
道来さんが負けちゃった
太一は泣き崩れた
ザッ
向かってくる秀峰の影
「ゆるさねぇ、てめぇだけは」
「道来さんはまだ負けちゃいねぇ、俺が負けるまでは」
太一が刀を持ち立ち上がる。
ポタポタ
「道来さんは、負けてない、俺が負けるまで負けてないんだ」
太一の悲鳴にも似た叫びが辺りに響き渡っていた。
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