文太と真堂丸

だかずお

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~ 重なり合う欠片 ~

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翌朝、はやくから目を覚ました しんべえは街を散歩していた。
さて、どうやってあの金を盗もうか。
あの大きな袋を担いで逃げるからには長時間あいつらが戻らない時を狙うしかないな。
しんべえは突然足を止めた。
目に映る姿が一人

「あの野郎」
目の前の川辺りで服を洗う凜の姿だった。
しんべえは凜を見て思った。
あの野郎、最近の若い女にしては小汚い格好してやがる。
あの千助とかいう男の服まで洗ってやってるのか。

すると、「お姉ちゃん昨日はありがとう」

「おっ、昨日の、がきんちょか」凛は微笑んだ。

「昨日ねぇちゃんが俺を逃がしてくれなかったら、俺」

「気にすんなよ、今度は ばれないように盗めよ」凛は笑った。

「あはは、ダメだなこんなこと言っちゃ」
少年も凜と一緒になって笑い、二人は石の上に座りこみ話始めた。

「姉ちゃんはどうしてこの街に?」

凛は一瞬黙りこみ、空を見上げ「あたいの家族は皆殺されたんだ」
少年はそれを聞き言葉を失った。

「大帝国の奴らに殺された、あたいはね、ずーっと焼け野原で泣きながら何も出来ずに泣いてたんだ」

「ご飯もろくに食べずただ怖かった、どうせ生きたって、大帝国の奴らに両親のように殺されるんじゃないかって、幼い私はただ怖かったんだ。そんな時、私が兄貴と呼ぶようになる人に出会った・・

忘れもしない、夕焼けがうっすらと明かりを消し始めた日が暮れる頃だった。
放浪して暮らしていた兄貴が焼け野原で何もせず、ただ泣いている、あたいの前に突然あらわれたんだ。

「大帝国の奴らにこの村はやられたんだな?」

あたいはただ震えていた。
すると兄貴は今度は食べ物を持ってやって来た。
最初は口にしなかった、でも兄貴は何日も何日も黙っては毎日のように食べ物を持って来てくれた。
あたいはようやく兄貴を信頼して食べ物を口にしたんだ。
たいしたもんじゃなかったけどよ、凛は少年を優しくみつめて微笑んだ。

本当においしかったんだ

瞳は今この場所に居るのだが、どこかその頃の風景を見ている様であった。
あたいはその後も大帝国の恐怖を拭えないでいた。
そしたら、そんな時、兄貴が言ったんだ。

「もう、怖がらなくてもいい大帝国は俺が倒してやる」って。
あたいはその言葉をきいて、ようやく
心から安心したんだ。あたいは独りじゃないって。
そこから、勝手にあたいが兄貴の後にくっついてるんだけどさ。

あとで、しったんだけど、兄貴も家族を大帝国に殺され、妹があたいに似てたんで、あたいの事放っておけなかったんだってよ、だから兄貴って呼んでる。
あたいと兄貴はある意味似たもの同士かも知れない。
最後の言葉は自分自身に向かって囁いているようだった。

「おっと、悪りぃなつまらねぇー話だったな」

少年は首を横に振った
「ねぇちゃんありがとう、俺も必死に生き抜いていくよ」
凛は少年の頭を撫でて自分の服の中から、食料をだした。

「大事に食うんだぞ」

少年は泣いた
「ありがとう、ありがとう」

後ろの木の裏、しんべえは身を隠し話をずっと聞いていた。
最初は昨日の文句でも言ってやろうとしていたが、やめていた自分がいた。
しんべえは自分の事を思った。
赤ん坊の頃、両親に捨てられ、それ以来ずうっと独りぼっちだった。
こいつらの境遇は少し自分と似ていた。
しんべえは自分の心の中から、嫌な気分が抑えられないくらいわき上がってきているのを感じた。
ここまで、生きて味わった沢山の嫌な気持ち。
思い返すだけで、とても嫌になるこの気持ち。
わきあがるそれらに対処しきれずに、しんべえは、その場を離れた。

沢山の人間に、ごみの様に扱われた、あの屈辱感、虚しさ、怒り、悔しさ、そして両親にすら捨てられ、そこから誰一人として信頼することなく、愛情をそそがれた訳でもなく育った。
とてつもない孤独感。
枯れ果てた涙など一滴たりとも出ることはない。
今更、辛いなどとも思わない。
ある時、彼女に振られ、俺は孤独だと身を投げてやるとぬかしてる男を道端で見つけ、しんべえは思いきりぶん殴ってやった。
お前に俺の孤独の何が分かるのかと叫んでいた。
しんべえは生まれてこの方、人を信用したことなど一度もない、信用出来る人間に出会った記憶すらない。
愛情を受けた記憶もない。
両親はすぐに自分を捨て、一人物乞いの様に奇跡的に生き延びた。
友など出来た事はない、無論 人を愛したことなどもない。

俺は永遠に一人
誰しもが俺を煙たがる、俺は嫌われ者で誰からも愛されない。
だが、ようやくこの俺に転機が訪れた、あの金を手にして人生を変えてやる。
そうだ、俺は生まれ変わってやる。
名前も変えてやる。
過去も、自分も、全て捨てて、新しい人生をやり直すんだ。
俺は自分なんて人間が大嫌いだ。
俺は金を手にして全てを変えるんだ。
金で家族だって買ってやる。
金で幸せも、友も買ってやる。
絶対にあの金を盗みだすぞ。
俺はここから脱出するんだ。

街の裏の山奥に不気味な寺がある、そこには人間を喰う不気味な化け物が住んでいた。
この街は昔から一つ大きな問題を抱えている。
化け物の名は人喰い和尚
人間の姿をしているがとてつもなく凶暴な怪物と昔から恐れられていた。
普段は災いをもたらすことはないのだが年に一度、食料として十ほどの人間を要求するのだ。
そしてその日はすぐ近く訪れるところだった。

「ふわぁー良く眠れた」
文太は目を覚ました。

「あれっ、しんべえさんもう起きてたんだ」

「あっ、真堂丸もいない」

一之助はイビキをかいて眠っている。

「どこ行ったんだろう?」

その頃 真堂丸は新たなる戦に備え精神を研ぎ澄ましていた。

石の上に目をつむり座っている

意識の中
それはそれは見たこともない、頂上すら見えない高い山がいくつもそびえ立っていたのだ。
それは今まで登ったこともない程の高い山々だった。


この国の行く末


守りたい友の命


大帝国との戦





山で一度出会い、一山に刀の神と言わせたほどのあの男


そして、自身の内からわきあがる闇であった。


目の前に迫り来る数々のとんでもない試練


自分の敗北、死がどこに直結するかは己が一番わかっていた。


そして内からわき出てくる色んな形を形成しては浮かび上がる自身の闇

真堂丸は自身が押しつぶされないよう 精神を集中させていた。

そのはるか上空、
それを息を殺し見つめる者がいた。
とてつもなく高い木の上から見下ろしていた。

「なるほど、あいつか」

「なぁ、本当にお前ほどの器があるのか?」天に嘆くよう囁いた。

「俺が納得すると本当にお前は思ったのか?」

「このガルゥラ自身の感覚が最優先だぞ、いくらお前が何と言おうとも」

「亡き友よ」

そいつは天を仰ぐように言った。
数々の断片は重なり交あうように、今と言う時を形成し流れていた。


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