文太と真堂丸

だかずお

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~ 変わりゆくもの ~

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あれから一週間程たっていた。

「しかし、お主あれ程の傷を一週間でここまで完治させるとは、驚くべき回復力じゃな」

「本当にもう大丈夫なのか?」

「ああ、世話になった 礼をいう」
真堂丸は医師に頭を下げた。

町の人々はこの男が真堂丸だとは知らない。
知ってるのは、女狐を討ったのがこの人間だということだけ、そのことは極力ひろまらないよう、この町の人間だけにとどめてもらうようにした。
大帝国に居場所を知られ狙われることを怖れたからだ。

文太はひとつ気がかりなことがあった。
雷獣さんと秀峰はその後どうなったんだろう?
あの後日、僕と一之助さんはあの場所に行ったが、二人の姿はなく、その後、秀峰も雷獣もどちらも姿を表すことはなかった。

町はいまだに興奮さめやらぬ状態で宴が続けられている。
なんたって、あの女狐の支配から救われたのだから。

しんべえは終始ご満悦
「たまらねぇ、朝から夜までご馳走に酒三昧、おいっ酒をもってこい」しかしいまだに、惜しいことをした。
あの女狐の宝さえ手にはいっていたなら、こんな生活が一生つづいていたのに。
なんとか、また宝を手にする機会はないものか?
こいつらと一緒にいたら、そんな機会がまた訪れるかもしれない。

しんべえは何度も首を横に振った。
とんでもねぇ、それはごめんだ。
しんべえは女狐の恐ろしさを忘れたわけではない、あんな化け物達を相手に冗談じゃねぇ、命がいくつあってもたりやしない。
それにあいつは骸なんて名を、だしやがる、あんな化け物も幹部にいやがったのか。
白い刃 怖ろしい連中だぜ。
こいつらとはここでお別れだ。
縁をきろう。
しんべえは杯の酒を勢いよく飲み干す。

元郎は息子と一緒に過ごしていた。
息子と一緒に居れる、それだけで、こんなに幸せなのかというほどありあまる幸せをかみしめていた。

「父ちゃん、もう女狐は来ない?俺まだ本当は夢なんじゃないかって怖いんだ?」

元郎は息子の頭を撫でてこう言った。
「そしたら父ちゃんが守ってやるから大丈夫それにな」

「?」

「父ちゃんの仲間達は女狐より強く、そして優しい、父ちゃんにはそんなたくましい仲間がいる、あの人達を見てみろ」みんなの方を指さした。

そこに居る者達には、何とも力強く、そしてなによりも暖かく感じる なにかがあった。

「まだ、女狐が怖いか?」

「父ちゃん、不思議だよ、俺あの人達がいるだけですっごく安心する、もう女狐が来たってこわくない」

「そうか」元郎は優しく微笑んだ。
「父ちゃんもだ」

子は小さな声で囁く
「これから何が起ころうと大丈夫、父ちゃんとも一緒だから」

大同と乱は町の人々の嬉しそうな顔を眺めていた。

「殿見てますか?我々はあの頃の風景を取り戻しましたぞ、いつぞやあなたは言いましたね、わたしの夢は争いのない世界をつくることだと、私はその殿の夢をこれからも背負って生かせてもらう」

「大同さん、俺も彼らを信頼しようと思う、最初は大帝国を敵にするなんて不可能だと思ってました、でも彼らはそうは思っていません。
彼らの見据える先には平和がある、俺も大同さんや彼らと一緒にその夢を信じようと思います」

二人は盃を交わし
いつまでも、人々の喜ぶ姿を見つめていた。

文太と真堂丸も人々を見ながら腰かけている
「自分の強さなど人を傷つけるだけだと思っていたが、不思議な気分だ、こんなふうにもなるんだな」

文太は微笑んだ。
「一人一人の笑顔、真堂丸のおかげです、人々は当たり前に幸せと喜びと共に暮らして良いんですね、この当たり前の権利を誰にも奪う権利はない、そんな思いが浮かびました」

その時、町の娘達が
「ほら、一緒に踊る 踊る」と僕らの手を引っ張った。
恥ずかしがる真堂丸、輪に加わる、大同や乱、最初から踊っていた一之助、それを息子と見ている元郎、酒に酔いつぶれ寝ているしんべえ
本当に素敵なひと時を僕らは過ごしていた。
そう、この時、確かに平和は今ここにあったのだ。

町の近く山の中の暗い場所
木の下に一人座っている男がいた。
「あの野郎、まじで女狐を倒したのか、まったくあの女狐だぜ くっくっく」そう言い笑った。

「まっ、そう言うなら あいつは真堂丸か」
月の光が照らし浮かび上がるその男の姿は雷獣だった。
微笑んだ直後、すぐに表情は真剣そのものになり立ち上がる。


場所は変わり
全身を白で覆った一人の姿、そいつはある町に居た。
「くっくっく狐野郎が死んだか、まぁそれくらいやれねぇようじゃ興ざめだったがな」

「おいっ、後ここからどれくらいだ?」

「もうすぐ近くですよ」

「私も一緒にお供しても?」

「雷獣にはばまれ、一旦引いたんだよなぁ秀峰、ここからは指揮の権限は全て俺だ、貴様は城に帰れ」

「分かりました、そうしますよ」
秀峰の歯はくいしばられ、拳は力強く握りしめられていた。

「やっと会えるな、兄弟」
全身は隠され覆われている その中から、瞳が外を覗いていた。その瞳はまるで黒い宇宙そのもの。
そう、そいつは骸と呼ばれる男だった。

その頃、女狐が討たれたことは国中をまわっていた。

更に違う場所
「ああたまらない、たまらない 誰だ?せっかく、女狐と闘おうと楽しみにしていたのに、まあいいや、そいつと闘って勝てば」
男は空を見上げた。

「月が綺麗だ」
その男の手には刀傷があった。

「一山さん以来、強いのと闘えてないからなぁ」
そう、それは 一山をもってしてまで、刀の神だと言わしめた男
真堂丸が一度山中で出会った、あの男だったのである。

再び文太達の居る町
一人、山の木の下に座っていた雷獣は立ち上がりすぐ近くに来ていた。

真堂丸は何者かの気配を感じとり
「文太、気をつけろ 何者かが近づいている」

「えっ?」

すると、声がした。
「警戒するなよ、命の恩人をよぉ」

「雷獣」

「まあ、話は後だ すぐにここを離れろ」

「どういうことだ?」

「俺の部下が伝えにきた、この場所に骸が来る」

「えっ」僕は驚いた。

「まぁ、焦るな いま逃げれば、まだ間に合う、急げ じゃあな」

「待て雷獣」
真堂丸の声に雷獣は立ち止まる

「俺たちが逃げたら、この村の連中は?」

「まぁ、皆殺しだろうな」

「わるいが、俺も立場を危めているんで、ずらかるとする」

「雷獣」

「まだ、なんかあんのかよ」

「どうして、文太達を助けた?何故俺たちにそんな情報を伝えにくる?」

辺りは一瞬沈黙に包まれる。
「知らねえよ」
雷獣は再び歩きだした。

「雷獣さん、ありがとうございました」文太は頭を下げ、大きな声で礼を言う。

「命を救われました」
それを聞き
雷獣は山の中に消えて行った。

真堂丸は微笑む
「あの野郎」

雷獣さん ありがとう。
本当にありがとう。

山の中
雷獣は一人つぶやいていた。

どうしてかって?

この雷獣ともあろう男がよぉ、真堂丸お前に負けたならまだしも、刀すら持たない小僧の強さに負けちまったんだぜ、あいつの心に触れた瞬間から全てが変わっちまったんだよ。

力じゃあない、あの強さ、人は何て呼ぶんだろうな?

「けっ、阿呆らしい」
雷獣の姿は暗い山奥の中に消えて行った。



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