文太と真堂丸

だかずお

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~ 姫君 ~

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「何とも、不気味な空でごんすね」
僕らは空いてる宿を見つけ、二階の部屋に泊まることに。

「で、なんでお前もいるでごんすか?」

「うるせぇ、あんな天狗やら、山賊やら見た後で一人で過ごせるか、それに・・・」

「もう、俺の帰る場所なんてねぇ」

「どういうことです?」

「ばっきゃろー、俺のすんでたあの町はな、あの源流って殿の城が近くにあったから治安が維持出来てたんだ、あそこが大帝国に落とされたなら、じきにあの辺りは地獄と化すのは目に見えてるだろう、あ~っ、今後俺は一体何処に行けば」

そうか、このまま大帝国が全てを統治するようになったら、全ての人にもう逃げ場所なんてなくなる。
この国の全ての人間が奴隷と化すだろう。
源流さんの事も思い、僕は歯をくいしばり、なんとも嫌な気持ちを抑えきれなかった。

んっ?
しんべえは外が騒がしいのに気がつく。
「何だか、人だかりができてらぁ」

気分を変えたい気持ちもあり
「どうしたんでしょう?僕行って来ます」

「みなさん、行きませんか?」
真堂丸は首を横に振った。
全く興味の無い様子、柱に寄りかかり目をつむっている。

「あっしも、ここで寝てるでごんす」

「冗談じゃねぇ、俺も行かねえよ」
と言うことで僕は一人外へ、人混みのほうに向かうと、そこの家の娘であろう女性が泣いているのが見えた。

「どうしたんだろう? 赤い風車?」

こんな会話が耳に入る
「お母さん、私まだ生きたい」

「姉ちゃん、なに本気にしてるんだよ。大丈夫に決まってるだろ、こんなのただのいたずらだよ」

「心配しないで、今父さんが、光真組に相談に向かったから必ず何とかなるからね」

「一体何事なんだろう?」
僕はただならぬ会話を聞き心配になった。

すると
「おーい来てくれたぞ、光真組の二番隊長様だ」

「あっ、あれはさっきの強い人達だ。この町を守ってる人達なのだろうか?」

「間違いない、この風車 噂に名高い暗妙坊主に違いない」

「そっ、そんな どうしてうちの娘が・・・」

「おっ、お願いします助けてください」

二番隊長の男は暫く黙り込んだ。
「私の返事では断るところだ。我々の使命は姫君を守る事だけ。
勘違いしてもらいたくはないのは光真組は慈善で町人を救うような組ではない。
だが姫はきっと・・・良いだろう城に戻り意見を聞いてみようではないか」

「本当にありがとうございます」

「その必要はない」

「ひっ、姫 どうしてこんな所に」
長い布地を頭からかけ、姿を隠した女性はなんと姫だった。
「町人の様子がただごとじゃなかったから城を抜けてきた」

「まったく、おてんばな性格は亡くなった父上にそっくりだ」

「二番隊長、清正 私の命令としてこの人達を助けてあげて欲しい」

「ふうーっ 」

「姫 分かりました」

「お前一人で大丈夫か? 暗妙坊主、とてつもなく強いと聞いたことがある、本当は一番隊長にも頼みたいが、あいつはまだ暫く戻りそうもない」

「この清正、命をかけてやってみましょう」

「すまんな、清正」

「本当にありがとうございます」家族は地面に頭をつけ礼を言った。

「姫の優しさに、この町の人間は皆感謝しています」

「やめい、礼などいい」
清正は恥ずかしがる姫を見て優しく微笑んだ、そしてすぐさま真剣な表情になり事にとりかかり始めた。
その表情は命を覚悟している人間の顔だった。
僕はそれを見ていて、素敵な姫と信頼という絆で結ばれた仲間をまた発見した、素直にそう思った。
それにしても、暗妙坊主どこかできいた名前だ。
記憶をたどると、あの日の夜を思い出した。
確か一之助さんが見ていた、黒の依頼の頁に載っていた男だ。
一体大丈夫なんだろうか?
少し心配になりながらも、僕は宿に戻ることにした。

部屋に入ると、しんべえは大いびきをかいて寝ている。
「真堂丸」

「どうした?」

「素敵な姫を見つけたよ」

「あっ、ぶーんたさん ぶーんたさん 惚れましたね」

「違いますから一之助さんっ、そんなじゃなくて優しい姫です、あの人ならもしかしたら僕らの話きいてくれるかも」

「そうか、明日城に行ってみるか」

「是非、そうしましょう」
そう言えば すっかり忘れてたけど清正さん大丈夫かな?
僕はその事の話は特にしなかった。


翌朝
「うわぁぁあっ はあっ ハアッ」それは、一之助の悲鳴

この頃には、あまり驚かなくなっていたのだが、一之助さんはたまにこうして目が覚める。
僕等は何度もこの光景を目にしている。
僕は、自分から話そうとしない一之助さんに理由を聞く事はしなかった。
彼の過去に辛く、重く、のしかかる何かがあったのは間違いなかった。

「ったく、うるせえな、目が覚めちまったぜ どうしたんだよ?」
目を覚ます、しんべえ。

「いや、ただの夢だ ただの・・・」

「そう言えば、僕らはあの城に行きますけど、一之助さんはどうします?」

「あっしは、今日はこの町を歩かせてもらうでごんす、大丈夫ですか?」

「全然構わないですよ」
ははぁーこいつら城に行ってまた、たんまり金を稼ぐつもりだな。
これは、良い機会だ。
奴等がいない間、この部屋を探せる。

「しんべえさんは何してるんです?」

ビクッ
「あっ、俺か俺は町で用があるからな、ちょっくらそこに行って来る」

「じゃ、僕らは城に行きましょうか」

「ああ」

城に向かう途中、僕は昨日の風車がささっていた家が気になり歩きながら見てみたが、特に何事もなかったようだ。
やっぱり、ただのいたずらかな。
そんな事を思った。


城では
「姫」
それは一人の光真組の隊員であった。

「おお、戻ったか 隊長は?」

「隊長は、もう少ししたら戻ると思います 私が報告の為、先に戻りました」

「これから、ここまで起こった事を話します」

報告を聞いた姫に言葉はなかった。
「・・・・・・・」
「わかった 一人にして欲しい」
「はっ」隊員が部屋から出た後、姫は脚の力が抜け、座りこんでしまった。
「どうして、 どうしてこんな事に最期の希望だった・・・あの言葉を信じてここまでやって来ました、そんな嘘ですよね 」
あの方抜きに、もうこの国は・・・姫の頬には涙が伝っていた。


外を歩く文太と真堂丸
「僕らが城に行って、入れてくれるんですかね?」

「信頼出来る人間か?」

「僕はそう信じてます」

真堂丸は言った。 
「そうか、俺も信頼しよう」
僕はそれを聞き、にっこり微笑んだ。

「そう言えば、ありがとうございます」

「何がだ?」

「あの、船をおりた後 源流さんの事を聞いて僕の心が折れかかった時、真堂丸の言葉が僕を闇から引っ張りだしてくれました」

「僕はすっかり忘れてました」

「?」

「前に一山さんの所から出る時に、一山さんが僕に言ってくれた言葉」

「あの人は大帝国に恐れて真っ暗闇に放り込まれていた僕に気づきこんな言葉をかけてくれたんです」


それは、一山の元を去る直前の朝のこと。
いきなり、後ろから肩を叩かれ、振り返るとそこには一山が立っていた。
「すまんな、君達に大帝国の幹部の話までして怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ、知らせておかねばと思い」

「大丈夫ですよ、いずれは知る事になったはずですから」

「不安か?」

「ええ、とても」

「ほっほ、正直でええの 少しだけその不安をわしに取り除かせてくれるかの」

「えっ?」

「この一山が全力を持ってお前達の味方になる、この国の民に私が奴等をこれ以上好き勝手にはさせない 、だから心配するでない。
今この場で君にこの言葉を伝えさせておくれ 」

僕はそれを聞き、心の靄が晴れた。
なんて、暖かいぬくもりで包みこんでくれるんだろう。
何だか、心は一気に安心し、なんとも力強い気分になった。

「そうか、一山がそんな事を、あの爺さんは本当に強かった」

「それに、道来さん、太一さんもいる」

「ああ」
白い刃に負けない力がこっちにもある。僕の視界はひろがった。

城の入り口に着き門番に姫に会いたいと伝えると。
「姫と話がしたい?すまんが何処の誰だか分からない人間を城に入れ、姫に合わせる訳にはいかない、お引き取り願おう」

まあ、確かに当たり前の反応だ。
僕らは、機会を見る為 作る為 、暫くこの町に居続ける事に決めた。


宿の部屋では
「ない、金がない これだけ探して、おかしいな さては、誰かが隠し持ってるのか、くそっ」
絶対盗みとるとしんべえは躍起になっていた。


一之助は一人、池のほとり、ぼんやり池を眺めている。
「そっちは元気か?」

「お前達を失い、あれから父さんの時間は止まってしまったよ」

「いつか敵をと、ここまで生きてきた。それだけが目的だった、暗妙坊主を見つけたら父さんが必ず敵をうってやるからな 必ず」


赤い風車がさしこまれていた家の中
「頼むよ、清正さんたった一人の姉ちゃんなんだ必ず守ってくれよ」
清正は静かに頷いた。

「姉ちゃん、俺がついてるから大丈夫だよ、心配いらないよ」

「守あんたは、闘わなくていいの、姉ちゃんはそんなの望んでないから、ここ何日で色々考えたの、ねえ守」

「なに姉ちゃん」

「私が死んだら父さんと母さんの面倒しっかりみてあげるんだよ、あんたが、守ってあげるんだよ」

「なに言ってんだよ姉ちゃん、やめろよそんなこと言うの」
姉さんは守の頭を優しく撫でた。
守は涙がとまらなくなり、それを見られたくなく部屋から勢いよく飛び出した。
清正は畳の上に座り何も言わず黙って一部始終を見つめていた。

「優しい弟なんです、清正さんすみません こんな無理をお願いしてしまって、無理だと思ったら私を見捨てて逃げて下さい」

「それは出来ない お嬢さん、私は姫の命を受けた。死んでも必ずあなたは私が守る だから諦めるな」
ぼろぼろ涙を流し、そこに立つ娘は泣いていた。


それはすぐ裏の山の上

「久しぶりの依頼」

「くっくっハッハッハッハッハ楽しみだ」

そこに立つのは 髪のない坊主頭の男
頭から全身、至る所に意味をなさない文字の刺青がその男の身体に刻みこまれていた、それは自身の刀で刻み込んだもの。
顔中不気味な文字が刻んである口元が緩む。
「いーち にー さん」

「おいおい、困るねえ 俺の背後に立っちゃいけねえ」

「あっ、やっぱりばれてたか」
それは天狗の面をつけた、あの三人組。

「邪魔するつもりか?」

「やっぱ、おっかないよ パパがいなきゃ殺されちゃう」天狗は笑った。

「烏天狗の愚息達か?、あいつは元気か?」

「あいかわらずだよ、俺たちはあんたがどれ程強いのか見たかっただけさ」

「まあいい。今日は機嫌が良いから殺さないでやるよ、好きなだけ見ておきな」

「わーい運が良い、殺されると覚悟して来たかいがあった、やったーやったー」

「さてと、仕事にとりかかるかな」
暗妙坊主は抜いた刀を舌で舐め、今まさに動こうとしていた。
もちろん標的はあの家だった。
そう、イタズラではなく本物の暗妙坊主の襲撃だったのである。
国一の殺し屋と名高い男は、今まさに動き出そうとしていた。

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