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1章

⑨独りの夜

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 窓から見上げる夜の空に、無数の星がきらめく。

 その中でも特に目立つのは【イグニス】という星だ。火の神の瞳であるとされるだけあり、この星はひときわ赤く輝いていた。

 夜の冷えた空気を心地よく思いながら、リアナは目を閉じる。
 
『結局、魔装ティタニスに乗っちゃってね。基本素直なんだけどたまに行動が読めないのよね』

 部屋のベッドの一つで寝息を立てるユーリを見ながら言葉を作るが、声として空気を震わせることはない。

 それは音声を介さず、意思として遠く離れた友人に伝えるものだからだ。

 相手から返事が来る。

 人を自分の好きなように操れると思うなんて傲慢だ。
 
 そんな意思を、相変わらず淡白で生真面目な雰囲気で返してくる。だが同時に興味を惹かれる部分があったのか、いくつかの問いも付随してきた。

『え? ……そうね。認めるわ。けどまだ全然頼りないし、言ってることは子供だし、たまに――』

 躊躇した意思を感じ取ったのか、相手が困惑する。

 相手の性格からしてここで話を保留にしておくと、後になってしつこい。リアナは自分のそのままの気持ちを伝えた。

 
『たまに……かっこいい』
 
 
 しばしの間が流れる。そして、言葉ではなく感情がそのまま返ってきた。それは顔を赤くして少し汗ばんでしまうような……。

「なんでアンタが照れてんのよ!?」

 他人が照れるほどの自分の恥ずかしさに、思わず口走ってしまった。リアナははっとして口を塞ぐ。

 恐る恐るベッドに横たわる黒髪の青年を見ると、静かに寝息を立てたままだった。起こさずに済んだらしい。ほっと胸を撫でおろす。

 
 こんな話をしていたら本当に起こしかねないと思い、リアナは本題に入った。
 
『ここの領主、というより裏で手を引いてんのはアルバラード家だろうけど任せたわ。どうせうまく言い逃れするでしょうけど、釘は刺せるでしょ』

 小さく息を吐きながら伝えると、相手から了承の意が返ってきた。
 
 リアナたちが入った遺跡、その発見を領主であるアルバラード家は国に対して報告していない。おおよそ古代兵器が見つかった際に隠ぺいするつもりだったのだろう。

 その所在や運用は国――究極的にいえば皇帝が管理する決まりとなっている。なぜなら神格魔装ティタニス・エルダーなどは個人が保有するには強力すぎる兵器だからだ。

 もし強力な神格魔装ティタニス・エルダーとそれを使いこなす騎士が揃ってしまえば、それこそ反乱を起こすことも可能だ。

 
 実際に兄弟機とみられる二騎が見つかったことからも赴いた価値があったといえる。
 
『それから魔装ティタニスの回収はなるべく早くお願いね。白いのはぶっ壊しちゃったから黒のやつを優先で。ただ、それはちょろまかすしかないわね』

 本来ならば優秀な騎士に与えられるべき二騎の魔装ティタニス。その一騎は戦闘で大破し、一騎は一点を除けば完璧な状態だ。

 だがユーリが操った黒い魔装ティタニスは他のどの騎士も扱えないだろう。

 
 リアナが自分たち用に特殊な調整を施した上に、生体情報の登録もしてしまったからだ。

 
 それにいまさら後には退けないこともある。
 
 リアナはユーリの眠るベッドに移動すると腰を下ろした。
 
『識別名? うん。わかってるよ』
 
 ほっとした顔で眠る青年の黒い髪をゆっくりと梳いてやる。そして。リアナは静かに呟くのだった。

 
「ニグルム」
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