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1章

⑦レバガチャ格闘士

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 衝撃がコックピットを襲う。

「ぐああぁ!?」

 もしレバーを強く握っていなければ、俺の体はシートから吹っ飛んでいたかもしれない。
 
 続く何度かの衝撃がやっと収まり、俺は頭を振って周囲を見回した。
 
 俺たちの乗った魔装ティタニスは元いた場所から吹き飛ばされ、横倒しになっている。敵に殴り飛ばされて壁に激突したようだった。

 前方から白い魔装ティタニス――敵がゆっくりとこちらに歩いてくるのが見える。


「だああああ! まだ調整中だっつーのぉ!」


 叫び声に後ろを振り返ると、両手に膨大な数の魔法陣を発動させたリアナが目を回していた。

「り、リアナ! これどう動かすんだ!?」
 
「知るか! ガチャガチャやってれば!?」

 そんなめちゃくちゃな。だが敵が迫り文句も言えない状況に、俺は言われた通りにする。

 
 つまり――ガチャガチャやってみた。

 
「うおおおぉぉ!」

 敵がすぐ目の前にいる分、とにかく動けばいいと思った。それが功を奏したのかもしれない。

 突然、飛び跳ねるように動いたこちらの魔装ティタニスの足が、敵の腹部を蹴り飛ばした。敵も相当な重量だろうに、凄まじいパワーだ。

 
 ……ただ正直にいえば、俺は腕を動かそうと思ったんだが。
 
 
「あぁぁぁ! ちょっと! 操作系と動力系の調整してんのに今のでズレた!」

「お前がガチャガチャやれっていったんだろ!?」

 どうやら調整不足のおかげでもあるらしい。

 とにかくその隙に、リアナは最低限の調整を終わらせたようだ。

「終わった! 基本はアンタの魔力と思考に反応して動く! とりあえず起こして!」
 
「ああ!」

 足に力を入れてペダルを踏むと、魔装ティタニスが立ち上がった。不思議な感覚だ。実際に動いているのは魔装ティタニスなのだが、自分の体が動いているような感覚がある。

 そして、この操縦が――とんでもなく力を使う。魔力を注ぎ続けていることもあるが、レバーやペダル自体も身体強化魔法有りで動かすのがやっとだ。

 この状態を長く維持していられる自信がない。早めにケリをつける必要がありそうだ。

「武器は必要ないわね? 一撃で仕留めなさい」
 
「わかってる!」

 リアナの問いに自分を奮い立たせるために勢いよく答えた。すでに敵は体勢を立て直し、こちらに向かって突進してくる。
 
「行くぞ!」
 
「いつでも!」

 魔装ティタニスの右手が赤い光に覆われる。


 ――攻撃の威力を分散せずに集中させるのならば。


 俺とリアナの高ぶった気持ちが絡み合い、互いの思考を読まずとも同じ答えを導き出す。


炎燐剣撃掌ナイギス・ヴェス・グラディウス!」


 こちらのコックピットめがけて伸ばされた敵の手が迫る中、身を捻って手刀を繰り出した。モニターに巨大な敵の腕が迫り、まるで俺自身を掠るような恐怖に襲われる。
 

 右手に装甲を突き破る感覚――俺は吠えた。


「うおおおぉぉぉ!」

 赤熱した手刀が白い装甲を溶断する。

 眩い火花と共に腕を振り切ると、敵は魂が抜けたようにくずおれた。
 
 
             ◇   ◇   ◇
               ・   ・
             ◇   ◇   ◇

 
「本当に、本当に助かりましたぁ……!」
 
「あ、あぁ……無事でよかったな」

 ミックと名乗った若い男は憔悴しきった顔で俺の手を握る。
 
 俺たちが倒した白い魔装ティタニス――その中にいたのは案の定、ドルカスたちとはぐれた冒険者の一人だった。物珍しさに乗り込んだところ、自立起動してしまい閉じ込められたそうだ。
 
 俺の攻撃はわき腹からみぞおちにかけ、コックピットを避ける形で胴体を削り斬っていた。

 こちらとコックピットの位置が同じだとわかっていなければ、ミックを助けられなかっただろう。

 俺は近くのがれきに腰を掛ける。
 
「この遺跡のことをアンタたちに教えたのは誰?」
 
 リアナは睨みつけながら問い詰めた。

「ほ、本当は口止めされてるんスけど――領主様っす。ここの魔物の掃除が依頼で」
 
「口が軽いわね?」
 
「助けてもらわなきゃこの口も動かせてないんで……」

 ミックは自分の体を見下ろしながら苦笑いする。

「そう。別にアンタから聞いたとか言わないから安心しなさい」

 リアナはそう言うとミックから視線を外し、「もういいからどっか行きなさい」と手で追い払った。

「じゃ、じゃあ失礼します!」
 
「気をつけろよ!」

 俺がその場から去る背中に声をかけると、へい! と威勢のいい声が返ってきた。

 それを見送ってリアナが俺の隣に座る。

「大丈夫?」
 
「すまん、厳しい」

 ミックは気づかなかったようだが、俺は戦いの直後から強烈な眠気に襲われていた。だがこんなところで寝るわけにもいかない。そう耐えていたのだが、限界のようだ。

「魔力の使い過ぎ。でもこれが限界なわけじゃない。もっと精進しなさい」

 隣のリアナに顔を向けると、俺の頬に小さな手が伸びてくる。ひんやりとしたその手を素直に受け入れると、笑顔が返ってきた。


「よくできました。もう大丈夫よ」

 
 その言葉に、俺の緊張の糸がぷつんと切れた。

 急速に闇に落ちていく意識の中で、頬に当てられた手の冷たさだけが最後まで残っていた。
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