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第58話 夕食と密談
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オットー司祭と別れた俺たちは作戦会議をするため宿屋の部屋に集まっていた。
夕食の時間と言うこともあり、食事を摂りながらの密談である。
俺が『悪徳司教をギャフンと言わせたい』、と口にしようとする矢先、ユリアーナが悪魔のような笑みを浮かべてナイフを手にした。
「あの豚野郎に神罰を下しましょう」
食卓の中央に置かれた子豚の丸焼き。その心臓があったであろう付近に深々とナイフを突き立てた。
「賛成です!」
間髪を容れずにロッテも子豚の丸焼きの腹にナイフを突き立てると、そのまま腹を引き裂く。
「腹黒司教の正体を暴いてやりましょう」
詰め込まれた野菜が溢れだした。
先程まで美味そうに見えた子豚の丸焼きが、もはやグロテスクなものにしか見えない。
料理人には申し訳ないがあれを食べるのはやめておこう。
手元に置かれたスープにパンを浸しながら言う。
「あの悪徳司教を失脚させるのは俺も賛成だ。それで具体的にはどうしたいんだ?」
単にギャフンと言わせるだけなら司教が隠し持っている神聖石を取り上げるだけで十分だろう。
「神聖石でしたっけ? それを取り上げるだけで相当ショックを受けると思います」
ロッテが身を乗りだした。
彼女にはユリアーナが女神であることや俺に関する情報以外はほとんど話している。
当然、俺が所有する『錬金工房』の能力や神聖石の力とそれを回収することが目的の一つであることも説明していた。
だが、作戦としては妥当なところだ。
「教会内部での信用や発言力も低下するだろうな」
代わってオットー助祭の信用と発言力が上がるのも目に見えている。
「ですよね! あの悪徳司教は調子に乗っていましたから敵も多いはずですよ、きっと。だから力を失えばあとは転げ落ちて行くんじゃないでしょうか?」
割とエグイことをサラリと言うな。
「甘いわねー、二人とも。どうせならルーマン悪徳司教の能力も奪ってやりましょう。そうね、公用語のスキルも頂いちゃいましょう」
と思ったら、もっと酷いことを笑顔で言う女神がここにいた。
「公用語? そんなも奪えるんですか?」
「奪えるわよ。以前、盗賊から奪って馬に付与したもの」
「もしかして……、あの馬たちがよく言うことを聞くのって……」
得意満面のユリアーナにロッテが恐る恐る聞いた。
「便利でしょ」
「あの、シュラさん? その盗賊ってどうなったんですか?」
「罪人として騎士団に引き渡した」
罪人として引き渡されれば犯罪奴隷となる。
他の盗賊たちは奴隷にとなった未来に恐怖していたが、公用語スキルを奪った盗賊たちは明らかに異なる恐怖に震えていた。
脳裏に蘇ったその姿と見知らぬ盗賊を憐れむロッテの表情が俺の良心を責める。
「えーと、言葉は?」
「理解できないだろうな」
「じゃあ、言葉の通じない外国に奴隷として売られていく心境でしょうね……」
ロッテが見知らぬ犯罪者に同情を示した。
いや、自分の思考すら脳内で言語化できないと考えると、あるのは恐怖心や絶望だけだろうな。
俺はそのことにはあえて触れずに言う。
「犯罪者のことは忘れて、悪徳司教を懲らしめる作戦に話を戻そうか」
「懲らしめると言っても、言葉まで奪うのはやり過ぎだとおもうんです」
今度は悪徳司教に同情心を見せるが、ユリアーナが一言の下に却下する。
「神罰よ」
「神罰は女神・ユリアーナ様がきっとくだしてくれます」
「任せて頂戴」
祈るように胸の前で両手を組むロッテとは対照的に満面の笑みで胸を叩くユリアーナ。
「ですから、神罰は女神・ユリアーナ様にお任せしましょう。あたしたちは人としての節度の範囲内で懲らしめませんか?」
「ユリアーナは女神だよ」
俺の言葉にロッテが即座に面白くない顔をする。
「惚気ですか?」
イケメン一人に美少女二人。
まあ、事情説眼せずに片方の方を持つような発言をすればこうなるか。
俺も迂闊だぜ。
とは言え、簡単に誤解を解くのも面白みに欠けるか。
「何で俺がユリアーナを引き合いに出して惚気るんだ?」
「だって、そうじゃないですか……」
「兄妹だって、言ってなかったっけ?」
「でも……、その、お二人とも妙に仲がいいですし……」
恥ずかしそうに俯くロッテに追い打ちを掛ける。
「つまり、俺が妹であるユリアーナ相手に惚気るようなことを口にして、ロッテの気を惹こうとしている、と?」
「ち、違います! そんなこと思っていません」
飛び上がらんばかりの勢いで上げた顔は耳まで真っ赤だった。
薄々思ってはいたが、これは脈があるな。
もう一押しってところか。
俺が内心でほくそ笑むんだところでユリアーナの言葉が室内に静かに響く。
「たっくんとあたしは兄妹じゃないわよ」
「え?」
ロッテの顔が一瞬で真顔に戻った。
「あたしはこの世界の神にして管理者。あなたがたの言うところの女神・ユリアーナよ」
何でこのタイミングで暴露するんだよ!
「え……?」
俺が心の叫びを上げる傍ら、思考が止まった様子のロッテが焦点の定まらない目をユリアーナに向けていた。
夕食の時間と言うこともあり、食事を摂りながらの密談である。
俺が『悪徳司教をギャフンと言わせたい』、と口にしようとする矢先、ユリアーナが悪魔のような笑みを浮かべてナイフを手にした。
「あの豚野郎に神罰を下しましょう」
食卓の中央に置かれた子豚の丸焼き。その心臓があったであろう付近に深々とナイフを突き立てた。
「賛成です!」
間髪を容れずにロッテも子豚の丸焼きの腹にナイフを突き立てると、そのまま腹を引き裂く。
「腹黒司教の正体を暴いてやりましょう」
詰め込まれた野菜が溢れだした。
先程まで美味そうに見えた子豚の丸焼きが、もはやグロテスクなものにしか見えない。
料理人には申し訳ないがあれを食べるのはやめておこう。
手元に置かれたスープにパンを浸しながら言う。
「あの悪徳司教を失脚させるのは俺も賛成だ。それで具体的にはどうしたいんだ?」
単にギャフンと言わせるだけなら司教が隠し持っている神聖石を取り上げるだけで十分だろう。
「神聖石でしたっけ? それを取り上げるだけで相当ショックを受けると思います」
ロッテが身を乗りだした。
彼女にはユリアーナが女神であることや俺に関する情報以外はほとんど話している。
当然、俺が所有する『錬金工房』の能力や神聖石の力とそれを回収することが目的の一つであることも説明していた。
だが、作戦としては妥当なところだ。
「教会内部での信用や発言力も低下するだろうな」
代わってオットー助祭の信用と発言力が上がるのも目に見えている。
「ですよね! あの悪徳司教は調子に乗っていましたから敵も多いはずですよ、きっと。だから力を失えばあとは転げ落ちて行くんじゃないでしょうか?」
割とエグイことをサラリと言うな。
「甘いわねー、二人とも。どうせならルーマン悪徳司教の能力も奪ってやりましょう。そうね、公用語のスキルも頂いちゃいましょう」
と思ったら、もっと酷いことを笑顔で言う女神がここにいた。
「公用語? そんなも奪えるんですか?」
「奪えるわよ。以前、盗賊から奪って馬に付与したもの」
「もしかして……、あの馬たちがよく言うことを聞くのって……」
得意満面のユリアーナにロッテが恐る恐る聞いた。
「便利でしょ」
「あの、シュラさん? その盗賊ってどうなったんですか?」
「罪人として騎士団に引き渡した」
罪人として引き渡されれば犯罪奴隷となる。
他の盗賊たちは奴隷にとなった未来に恐怖していたが、公用語スキルを奪った盗賊たちは明らかに異なる恐怖に震えていた。
脳裏に蘇ったその姿と見知らぬ盗賊を憐れむロッテの表情が俺の良心を責める。
「えーと、言葉は?」
「理解できないだろうな」
「じゃあ、言葉の通じない外国に奴隷として売られていく心境でしょうね……」
ロッテが見知らぬ犯罪者に同情を示した。
いや、自分の思考すら脳内で言語化できないと考えると、あるのは恐怖心や絶望だけだろうな。
俺はそのことにはあえて触れずに言う。
「犯罪者のことは忘れて、悪徳司教を懲らしめる作戦に話を戻そうか」
「懲らしめると言っても、言葉まで奪うのはやり過ぎだとおもうんです」
今度は悪徳司教に同情心を見せるが、ユリアーナが一言の下に却下する。
「神罰よ」
「神罰は女神・ユリアーナ様がきっとくだしてくれます」
「任せて頂戴」
祈るように胸の前で両手を組むロッテとは対照的に満面の笑みで胸を叩くユリアーナ。
「ですから、神罰は女神・ユリアーナ様にお任せしましょう。あたしたちは人としての節度の範囲内で懲らしめませんか?」
「ユリアーナは女神だよ」
俺の言葉にロッテが即座に面白くない顔をする。
「惚気ですか?」
イケメン一人に美少女二人。
まあ、事情説眼せずに片方の方を持つような発言をすればこうなるか。
俺も迂闊だぜ。
とは言え、簡単に誤解を解くのも面白みに欠けるか。
「何で俺がユリアーナを引き合いに出して惚気るんだ?」
「だって、そうじゃないですか……」
「兄妹だって、言ってなかったっけ?」
「でも……、その、お二人とも妙に仲がいいですし……」
恥ずかしそうに俯くロッテに追い打ちを掛ける。
「つまり、俺が妹であるユリアーナ相手に惚気るようなことを口にして、ロッテの気を惹こうとしている、と?」
「ち、違います! そんなこと思っていません」
飛び上がらんばかりの勢いで上げた顔は耳まで真っ赤だった。
薄々思ってはいたが、これは脈があるな。
もう一押しってところか。
俺が内心でほくそ笑むんだところでユリアーナの言葉が室内に静かに響く。
「たっくんとあたしは兄妹じゃないわよ」
「え?」
ロッテの顔が一瞬で真顔に戻った。
「あたしはこの世界の神にして管理者。あなたがたの言うところの女神・ユリアーナよ」
何でこのタイミングで暴露するんだよ!
「え……?」
俺が心の叫びを上げる傍ら、思考が止まった様子のロッテが焦点の定まらない目をユリアーナに向けていた。
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