上 下
17 / 65

第17話 初めての魔道具作成

しおりを挟む
 効果を確認するため、作成した魔道具を携えてアジトの外へと来ていた。

「それじゃ、闇属性の指輪から試しましょうか」

 闇属性の魔石を組み込んだ二つの指輪、『睡眠の指輪』と『麻痺の指輪』を装着すると、虚空を見つめたまま動きを止めた。

「どうした?」

「成功ね」

 口元に笑みを浮かべて二つの指輪を外すユリアーナに聞く。

「今、何かしたのか?」

「魔法を発動させたの」

 発動させた魔法は、睡眠の魔法と麻痺の魔法。
 何もない空間に向けて発動させたので見た目には変化が生じないが、魔力感知ができる彼女は魔法が発動したことを確認できた。

「盗賊が装備していたブレスレットと同様の機能ね」

「そのブレスレットを参考にして作成したんだから当然だろ」

「たっくんが作ったから、永遠に眠り続けたり、死ぬまで麻痺したままだったりと、実用性を無視した方向で高性能なんじゃないかと心配したのよ」

 ユリアーナが『杞憂だったようね』とほほ笑む。
 心配なのは理解できるが、もう少しオブラートに包んだ発言ができないものだろうか。

 釈然とせずにいると、ユリアーナは次の指輪へと手を伸ばした。

「これは『火の指輪』ね」

 これも盗賊が所持していた指輪を参考に作成した。
 この周辺の国々では中層階級の住民たちの間で、標準的に利用されている魔道具だと盗賊たちから説明を受けた。

 ユリアーナの手のひらから数センチメートルのところに、ロウソクの炎くらいの火が浮かび上がった。
 彼女が軽く手を振ると炎は地面に転がしてあった薪にぶつかって消えた。

 続いて、地・水・火・風の属性魔石を組み込んだ剣を試した。
 こちらは盗賊たちもお手本となる魔道具を所持していなかったが、ユリアーナが心配するような結果にはならなかった。

「これで普通の魔道具が作れることが証明されたな」

 俺が作成した魔道具が特に目立つことなく売り物になることが分かった。

「魔石による魔道具作成の方はね。問題はこっちよ」

 そう言って、銀製のブレスレットを手にした。
 そのブレスレットは属性魔石を組み込むのではなく、ゴブリンや盗賊たちから剥奪した魔法スキルを付与した魔道具だった。

『スキルを剥奪する能力はもちろん、剥奪したスキルを付与する能力も知らないわ』、とはユリアーナ。

「俺の錬金工房だからこそ作れる魔道具だ」

 不安がないとは言わない。だが、それを大きく上回る好奇心と期待とで胸が高鳴っていた。
 それは彼女も同様のようだ。

 装着したブレスレットを見つめる瞳が輝き、口元には妖しい笑みが浮かんでいる。

「それじゃ、試してみましょうか」

 ――――結果。

「予想通りだ」

 口では平静を装っているが、内心では今にも歓喜の叫び声を上げそうだ。
 対してユリアーナは驚愕を隠せずにいる。

「予想通りって……、これを予想していたっていうの?」

 錬金工房の主である俺だけが予想できたことなのだろう。
 事実、魔道具を使用するまで、彼女でさえ予想していなかったのがその表情と口調から分かる。

 ブレスレットに付与した魔法スキルは地・水・火・風の四つ。
 属性魔石と違い魔法スキルの付与では、地・水・火・風それぞれの属性で複数の魔法が使用できた。

 だが予想外の部分もあった。
 使用できる魔法は魔道具の使用者の魔法の才能に依存すると考えていたのだが、実際には違った。

 使用できる魔法は元の使用者が使うことができた魔法。
 つまり、より優れた魔術師から魔法スキルを剥奪すれば、魔道具の使用者は労せずに優れた魔法を使えることになる。

 たとえば……。

「この辺りに高位の魔法スキルを持ったドラゴンとかいないかな?」

 スキルを剥奪してアイテムに付与できれば、魔法のド素人でも一夜にして世界最高峰の魔術師になれる。
 胸の高鳴りが止まらない。

「探しましょう、ドラゴン!」

 即答だった。

「最強クラスの属性魔法を自由自在に使えれば神聖石の回収も楽になるわね!」

 ユリアーナの瞳が輝く。

「罪深い罪人や悪しき魔物からスキルを奪いましょう。何も魔法スキルに限定する必要はないわ。他に何ができるのか、どんどん実験しましょう!」

 一理ある。
 罪人や魔物から奪うなら心も痛まない。

 俺は魔道具による己と彼女の強化プランに思いを馳せようとした。だが、昨夜から気になっていたことが不意に脳裏をよぎる。
『楽しくなってきたわー』、と妙に浮かれているユリアーナに切りだす。

「ところで、昨夜から気になっていたんだが……」

「何よ、歯切れが悪いわね」

「入り口のところあった馬車を、中に隠れている盗賊ごと収納しただろ?」

「それがどうしたの?」

「隠れていた場所が積荷の中なんだ」
「は?」

「女の子なんだよ。何て言うか、村娘っぽい恰好をしているんだ。もしかしたら襲われた行商人の同行者じゃないのか?」

 盗賊に襲われたときに積荷の中に隠れた可能性……。
 状況からしてその線がかなり濃厚な気がしてきた。

「もっと早く言いなさいよ。ともかく、その女の子を一旦出しましょう」

 その顔に浮かれた様子はもうなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪魔に祈るとき

ユユ
恋愛
婚約者が豹変したのはある女生徒との 出会いによるものなのは明らかだった。 婚姻式間際に婚約は破棄され、 私は離れの塔に監禁された。 そこで待っていたのは屈辱の日々だった。 その日々の中に小さな光を見つけたつもりで いたけど、それも砕け散った。 身も心も疲れ果ててしまった。 だけど守るべきものができた。 生きて守れないなら死んで守ろう。 そして私は自ら命を絶った。 だけど真っ黒な闇の中で意識が戻った。 ここは地獄?心を無にして待っていた。 突然地面が裂けてそこから悪魔が現れた。 漆黒の鱗に覆われた肌、 体の形は人間のようだが筋肉質で巨体だ。 爪は長く鋭い。舌は長く蛇のように割れていた。 鉛の様な瞳で 瞳孔は何かの赤い紋が 浮かび上がっている。 銀のツノが二つ生えていて黒い翼を持っていた。 ソレは誰かの願いで私を甦らせるという。 戻りたくなかったのに 生き地獄だった過去に舞い戻った。 * 作り話です * 死んだ主人公の時間を巻き戻される話 * R18は少し

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

離婚のきっかけ

黒神真司
恋愛
わたしはこれで別れました…

【読み切り版】婚約破棄された先で助けたお爺さんが、実はエルフの国の王子様で死ぬほど溺愛される

卯月 三日
恋愛
公爵家に生まれたアンフェリカは、政略結婚で王太子との婚約者となる。しかし、アンフェリカの持っているスキルは、「種(たね)の保護」という訳の分からないものだった。 それに不満を持っていた王太子は、彼女に婚約破棄を告げる。 王太子に捨てられた主人公は、辺境に飛ばされ、傷心のまま一人街をさまよっていた。そこで出会ったのは、一人の老人。 老人を励ました主人公だったが、実はその老人は人間の世界にやってきたエルフの国の王子だった。彼は、彼女の心の美しさに感動し恋に落ちる。 そして、エルフの国に二人で向かったのだが、彼女の持つスキルの真の力に気付き、エルフの国が救われることになる物語。 読み切り作品です。 いくつかあげている中から、反応のよかったものを連載します! どうか、感想、評価をよろしくお願いします!

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

転生したら貧乏男爵家でした。

花屋の息子
ファンタジー
 つまらない事故で命を落とした御門要一は、異世界で貧乏貴族の子供として転生を果たした。しかし実家の領地は荒地荒野そう呼べる物。子供を御貴族様として養うなど夢のまた夢と言った貧乏振り。  そうしたある日、ついに経営危機に陥った実家を離れ、冒険者として独り立ちせざるを得なくなった男の物語。

死に役はごめんなので好きにさせてもらいます

橋本彩里(Ayari)
恋愛
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。 前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。 愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。 フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。 どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが…… お付き合いいただけたら幸いです。 たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!

【完結】よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

処理中です...