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第13話 アジト潜入

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「そろそろ馬を降りて歩きましょう」

 馬を並走させるユリアーナの声が馬蹄に交じって響いた。
 俺は彼女の言葉にうなずいて馬に語りかける。

「よし、もういいぞ。止まってくれ」

 馬はゆっくりと速度を落として静かに止まった。
 すぐ隣にユリアーナの乗った馬も止まる。

「いい子ねー。他の馬よりもたくさんの飼葉を食べさせてあげるからね」

 盗賊から剥ぎ取った公用語スキルを馬に付与することで、乗馬の経験がない俺たちでも容易く馬をあつかえた。

「飼葉は村か街に着いたら買ってやるからな」

 安請け合いしたユリアーナのフォローをする俺の隣で彼女が馬に語りかける。

「盗賊のアジトに行けば飼葉くらいあるわよねー」

 すると小さないななきを上げて二頭の馬が大きくうなずいた。
 俺は二頭の馬を錬金工房に収納し、盗賊のアジトがあるという岩場に目を凝らす。

 アジトまで一キロメートル余。
 身体強化で視力を強化しても、月明りの下では有用な情報は得られないか。

 諦める俺の隣でユリアーナが言う。

「二十五人いるわ」

「あの盗賊、嘘を吐いたのか?」

 尋問した盗賊の情報ではアジトにいる仲間は二十四人で、男が十六人、女が八人だと言っていた。

「あの状況で嘘を吐くとは思えないし、ごまかすにしても一人少なく伝えた程度じゃ何の意味もないわよ。頭悪そうだったし、単純に人数を数え間違えただけじゃないの」

 そう言いながらも彼女は月明りの岩場に目を凝らしていた。

「何か見えるのか?」

「目視も魔力感知もこれ以上は無理ね」

「それじゃ近付くしかないな」

 俺たちは警戒しながら盗賊たちのアジトがある岩場へと歩を進めた。
 岩場が見えてくると盗賊たちがアジトとして使っている洞窟の入り口がすぐに分かった。

「あれがそうだ」

 かがり火に照らしだされた洞窟の入り口と二人の見張りを岩の陰から覗き込みながらささやいた。

「洞窟の中に二十二人。外に三人……」

「見張りは二人だけだぞ」

 身体強化で視力を強化して周囲を改めて見直すが、洞窟の前に立っている二人以外は見当たらない。

「もう一人はあの辺りね」

 そう言って彼女が指さしたのは、入り口の側に放置された三台の馬車だった。

 大きく切り裂かれたほろは黒ずんだ染みが広がり、その切れ間からは水が入っていると思しきたるや服などの日常生活を連想させる品が幾つも見える。
 瞬時に嫌悪感が湧き上がる。

「隊商か行商人を襲ったばかりのようね」

「問題ない。見張りの二人だけでなく、もう一人も馬車ごと収納できる」

「それじゃ、お願いね。見張りの二人と馬車を収納したら洞窟に侵入するわよ」

 彼女の言葉が終わると同時に対象を収納した。

「相変わらず鮮やかなものね」

 ユリアーナは一言そう口にすると洞窟の入り口へと向かって歩きだした。

 俺も彼女の隣に並んで歩き、盗賊から奪った剣を素材にして作り直した日本刀を抜き放つ。
 黒い刀身にかがり火が鈍く反射する。

「やっぱり日本人は日本刀だよな」

「武器は必要ないでしょ?」

「念のためだ」

 見た目が格好いいから、とは口にできない。

「だったら武器じゃなくて防具にしなさい。たっくんの場合、遠距離攻撃と不意打ちさえ防げれば勝てるんだから」

「身体強化と魔力障壁は展開済みだ」

 反射神経と運動機能の強化で物理的な攻撃への対処ができること、加えて鋼の鎧程度の防御力で全身を覆っていることを告げた。

「油断は禁物よ。魔法障壁を破壊してダメージを与えられる敵がいるかもしれないでしょ」

 もしそんな強大な魔力を感知していれば、とっくに警告しているはずだ。

「そんな恐ろしい魔術師はいないんだろ?」

「魔道具を持っている可能性もあるわよ」

 そう言って彼女は昼間使った木製の盾を要求した。

 俺たち二人は改めて盾を装備して洞窟へと足を踏み入れる。
 洞窟の中を慎重に進む間も、奥からはいかにも盗賊らしい下品な笑い声と嬌声が聞こえていた。

 無防備すぎる。

 警戒して進むのがバカバカしく感じるが、それでも罠の可能性があると自分に言い聞かせて警戒を怠らないように進む。

「この扉の向こうに二十人が集まっているわ」

 頑丈そうな木製の扉。
 その向こうにある程度の広さの空間が広がっているのだろう。

「扉を開けたら盗賊たちを片っ端から収納する」

 最悪は蹴り破る覚悟だったが、扉を押すと容易く開いた。
 扉のわずかな隙間からなかの様子がうかがえる。

「まだ気付いていないみたいね」

 隙間の先にあったのは、行商人を襲ったときの話を肴に笑いながら酒を飲んでいる盗賊たちだった。
 腹の底から怒りが込み上げてくる。

「方針変更だ。一気に収納するつもりだったが、一人ずつ、ゆっくりと収納して行こう。名付けて『そして誰もいなくなった作戦』だ」

「悪趣味ね」

 そう口にしたユリアーナの目には怒りの色が浮かび、口元には冷笑が浮かんでいた。
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