上 下
6 / 65

第6話 錬金工房

しおりを挟む
 能力の詳細は追々確認するにしても、現状の戦力把握は必要だよな。
 俺は現時点で自分が理解している範囲の能力を伝えることにした。

「錬金工房の中を幾つもの空間に区切って、その空間毎に時間を止めることも、加速することもできるし、自在に重力を制御することもできるみたいだな」

 錬金工房の中でクマが宇宙遊泳をするようにジタバタしている様子を彼女に告げた。

「自由自在ね」

 どこか感情が消え失せたような声のトーンだ。

「あと、取り込んだモノの鑑定と解体ができるみたいだ」

「至れり尽くせりのスキルで心強いわ」

 乾いた笑いを漏らしている彼女に聞く。

「異空間収納の上位互換って感じなのかな?」

「まったくの別ものよ」

 呆れたようにそう言うと異空間収納の基本的な能力を教えてくれた。

「異空間収納は魔力量に応じて収納できる重量が増し、内部の時間は停止している状態。機能はそれだけよ」

 俺は最後に錬金部分について簡単に触れる。

「錬金工房のスキルで何か作成するには、錬金工房に素材を取り込んでその中で作成するしかないらしい」

「ちょっと、信じられないスキルね……」

 ユリアーナがどこか疲れ切ったような表情を浮かべてかぶりを振った。

「百聞は一見にしかず、だ。早速試しに何か作成してみよう」

 俺自身、錬金工房の力を試してみたくて仕方がなかったのもあって提案するが、

「錬金術のようにどんなものが作成できるのかも知りたいけど、真っ先に知りたいのは攻撃手段としての錬金工房の能力よ」

 ユリアーナが即座に反対した。
 
 もっともだ。

 優先順位は生き残るのに最も必要な能力の確認なのは間違いない。
 俺は彼女の言葉に従うことにした。 

 よし、早速始めるか。

「それじゃ、あの大岩とこの硬い木を同時に取り込んでみる」

 数メートル先にあった直径一メートル程の大岩とかたわらに生えていた大木を錬金工房へと取り込む。
 大岩と大木が瞬時に消え、大木に巻き付いていた蔦が地面に落ちた。

 バランスを失なった鳥が、なんとか空中で姿勢を正して飛び去って行く。
 それを目で追っていたユリアーナが、

「見事に消えたわね」

 大木が生えていた場所に空いた大きな穴を、呆れたような表情で覗き込んだ。

「そして、出来上がり」

 俺は鋼の短いナイフを錬成し、それを右手に取り出してみせた。

「それ……」

「錬金工房の能力で作成した。岩から鋼と軟鉄を抽出して刀身を造り、木で造った柄にはなめしたクマの革を巻き付けてある」

「クマの革?」

「錬金工房内でクマを解体した」

「まさか、生きたまま……」

 ユリアーナがちょっと引き気味に後退る。

「そんな残酷なことはしないって。窒息死させてから解体したんだよ」

 多少の忌避感はあったが、それでも剣や斧で倒すことを考えればずっと少ないはずだ。
 続いて錬金工房内のクマの状態を告げる。

「肉と内臓、骨に皮とちゃんと分類もできている」

『驚くばかりだわ』、とのつぶやきに続いて言う。

「異空間収納と錬金術、両方の上位互換を兼ね備えたスキルなのは間違いなさそうね」

「次は収納容量がどれくらいあるか確かめたいんだけど、この辺りの岩や木を適当に取り込めばいいかな?」

「収納力は魔力量に比例するから、この世界の住人がもつ異空間収納なんて足元にも及ばないはずよ」

「世界トップクラスの性能ってことか」

「ええ、恐らくあたしと同程度……。ううん、それ以上の収納力があるはずよ」

 そう言って、無駄に岩や木を収納することを止められた。

「桁外れの異空間収納持ちが二人。これで異世界を巡る旅も、だいぶ楽になりそうだな」

「戦闘もね」

「俺の錬金工房なら、遠距離からの狙撃や不意討ちさえ対処できれば無敵なんじゃないか?」

「どんな特殊なスキルを所持している相手が敵になるか分からないのよ。あんまり調子にならいでね」

 ユリアーナが心配そうに諫めた。

「OK。慎重に行動するよ。俺も死にたくないからな」

 ユリアーナがため息を吐いて話題を変える。

「身体強化の訓練をする間にクマの血抜きをしようと思っていたけどそれも必要なさそうね」

「血抜き?」

「そうしないと臭くて食べられないでしょ?」

 さも当然という顔で返した。

「ちょっと待て。女神なのにクマを食べるのか?」

「女神だってお腹くらい空くわよ。できればクマよりも美味しいものが食べたいけど、贅沢が言える状況じゃないでしょう?」

「随分と人間臭い女神だな」

 いや、神様って供物を要求するよな。
 やっぱり人間と同じように美味いものを食べたいと思うものかもしれないな。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...