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教会と老人のくれた本
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「まいどありー」
肩を落として足早にさっていく男の背に、少女が明るい声が投げかけます。
「やっぱり情報と経験って大切よねー」
少女の情報と経験がどのようなものかは分かりませんが、ポケットのなかの銀貨の数だけの価値があったのは確かなようです。
鼻唄交じりにポケットのなかの銀貨を数えていると、見知った男が目の端に映りました。
先程、マッチを五箱も買ってくれた上客です。
(ちょ、なんで兵士と一緒なのよっ)
少女は本能的に身の危険を感じて近くの建物に飛び込みました。
「まさか兵士を連れてくるとは思わなかったわ。これ以上、いたいけな少女が大人相手にこの商売をするのは危険ね」
少女は外の様子をうかがいながら、今後の身の振り方を思案し始めました。
(軍資金もできたことだし、商売を変えるか……)
「とは言ってもなあ……」
「お嬢さん、何か御用ですか?」
落ち着いた男性の声が少女の思考を中断します。
(誰?)
振り返った少女の視線の先には年老いた神父様がいました。
少女がまじまじと老人の顔を見る。
「どうかされましたか?」
今朝、助けた、行き倒れていた老人のことを思いだしていた。
その老人と好々爺とした神父の顔が重なる。
続いて老人の言葉が脳裏に浮かぶ。
『助けてくれたお礼に特別な知識を君に授けよう』
そう言って渡された一冊の本。
そこには幾つもの見知らぬ道具の作り方や料理、お菓子のレシピが書かれていた。
「神父様?」
「はい、神父ですよ、お嬢さん」
「ここは、教会?」
辺りを見回すと燭台(しょくだい)にはロウソクが灯され、その淡い光に照らしだされた景色は、ここが教会であること教えてくれます。
少女は自分が教会に逃げ込んだのだと、そこで初めて気づきました。
「ええ、教会です。こんな時間にどのようなご用でしょう?」
「怖い感じの男の人に追われて……、慌てて隠れたらここでした。教会とは知りませんでした」
少女はすがるように神父を見上げます。
「怖い感じの男の人?」
「はい、黒っぽい服を着て棒を持っていました」
怯える少女に神父様が優しく語り掛けます。
「棒ですか。穏やかではありませんね。兵士を呼びましょうか? 家まで送ってもらいましょう」
「いえ、大丈夫です。怖い感じがしただけで、追い掛けられたり何かされたりした訳じゃありませんから」
少女はそう言うと、神父様から目を逸らしてささやくように言います。
「それに……もし誤解だったら、相手の人に気の毒だし……」
「なんと優しいお嬢さんだ。ですが、もうこんな時間です。家に帰らないとご両親が心配していますよ」
少女は手にしたバスケットに視線を落とした。
「このマッチを全部売るまでは、家に入れてもらえないんです」
(全部売れたら家に帰らなくても当分暮らしていけそうだけどね)
「もし行くところがないのなら、今夜は教会に泊って行きなさい。温かいスープくらいなら出してあげられます」
「ありがとうございます、神父様。いよいよとなったら頼らせて頂きます」
少女はそう言うと、少し困ったような表情をでつぶやきました。
「その、お願いがあるんですけど」
「お願いですか? 私にできることでしたら力になります」
神父様がほほ笑んだ。
「ロウソクを少し分けて頂けませんでしょうか」
「ロウソク?」
「はい、ロウソクです」
肩を落として足早にさっていく男の背に、少女が明るい声が投げかけます。
「やっぱり情報と経験って大切よねー」
少女の情報と経験がどのようなものかは分かりませんが、ポケットのなかの銀貨の数だけの価値があったのは確かなようです。
鼻唄交じりにポケットのなかの銀貨を数えていると、見知った男が目の端に映りました。
先程、マッチを五箱も買ってくれた上客です。
(ちょ、なんで兵士と一緒なのよっ)
少女は本能的に身の危険を感じて近くの建物に飛び込みました。
「まさか兵士を連れてくるとは思わなかったわ。これ以上、いたいけな少女が大人相手にこの商売をするのは危険ね」
少女は外の様子をうかがいながら、今後の身の振り方を思案し始めました。
(軍資金もできたことだし、商売を変えるか……)
「とは言ってもなあ……」
「お嬢さん、何か御用ですか?」
落ち着いた男性の声が少女の思考を中断します。
(誰?)
振り返った少女の視線の先には年老いた神父様がいました。
少女がまじまじと老人の顔を見る。
「どうかされましたか?」
今朝、助けた、行き倒れていた老人のことを思いだしていた。
その老人と好々爺とした神父の顔が重なる。
続いて老人の言葉が脳裏に浮かぶ。
『助けてくれたお礼に特別な知識を君に授けよう』
そう言って渡された一冊の本。
そこには幾つもの見知らぬ道具の作り方や料理、お菓子のレシピが書かれていた。
「神父様?」
「はい、神父ですよ、お嬢さん」
「ここは、教会?」
辺りを見回すと燭台(しょくだい)にはロウソクが灯され、その淡い光に照らしだされた景色は、ここが教会であること教えてくれます。
少女は自分が教会に逃げ込んだのだと、そこで初めて気づきました。
「ええ、教会です。こんな時間にどのようなご用でしょう?」
「怖い感じの男の人に追われて……、慌てて隠れたらここでした。教会とは知りませんでした」
少女はすがるように神父を見上げます。
「怖い感じの男の人?」
「はい、黒っぽい服を着て棒を持っていました」
怯える少女に神父様が優しく語り掛けます。
「棒ですか。穏やかではありませんね。兵士を呼びましょうか? 家まで送ってもらいましょう」
「いえ、大丈夫です。怖い感じがしただけで、追い掛けられたり何かされたりした訳じゃありませんから」
少女はそう言うと、神父様から目を逸らしてささやくように言います。
「それに……もし誤解だったら、相手の人に気の毒だし……」
「なんと優しいお嬢さんだ。ですが、もうこんな時間です。家に帰らないとご両親が心配していますよ」
少女は手にしたバスケットに視線を落とした。
「このマッチを全部売るまでは、家に入れてもらえないんです」
(全部売れたら家に帰らなくても当分暮らしていけそうだけどね)
「もし行くところがないのなら、今夜は教会に泊って行きなさい。温かいスープくらいなら出してあげられます」
「ありがとうございます、神父様。いよいよとなったら頼らせて頂きます」
少女はそう言うと、少し困ったような表情をでつぶやきました。
「その、お願いがあるんですけど」
「お願いですか? 私にできることでしたら力になります」
神父様がほほ笑んだ。
「ロウソクを少し分けて頂けませんでしょうか」
「ロウソク?」
「はい、ロウソクです」
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