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第44話 宵闇小隊(1)
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騎士団長が待つ部屋へと向かう途中、図南は自分がどう動くのが正解なのかを決めかねていた。
(さて、拓光にああは言ったが、教会や騎士団のなかにヒキガエルと通じている者がいるとなると迂闊には動けないよなー)
相談する相手として浮かぶのは神殿長だけである。
一瞬、クラリッサ司教の顔が浮かんだが、神殿長と違い何年もカッセル市の神殿に在籍しているのでどこでどう繋がっているか分からない。
(小隊長として部下を付けてもらえるけど、私事で動かすわけにもいかないよな)
残る問題は紗良にこのことをどう伝えるかである。
隠し通すことが出来ない以上、伝えないという選択はなかった。だが、それでも紗良を関与させないよう伝える必要がある。
(そうなると、騎士団として正攻法で動くから部外者の紗良は大人しくしているように言うしかないよな)
果たしてそれで大人しくしているか、だ。
(まあ、悩んでも仕方がないか)
悩んでも解決しないと割り切ると、それ以上考えるのをやめて騎士団長の待つ部屋へ向かう足を速めた。
程なく騎士団長が指定した部屋の前に到着する。
「図南・宵闇です」
扉をノックするとなかから騎士団長の声が聞こえた。
「入ってこい」
「失礼いたします」
部屋に入ると、そこには騎士団長だけが不機嫌そうに座っていた。そして開口一番、嫌味が飛ぶ。
「随分と遅かったじゃないか」
「申し訳ありません。少々込み入った話でしたので思った以上に時間が経ってしまいました」
許可された時間はオーバーしていなかったが、無理を言って許可をもらった手前、図南として後ろめたさはある。
騎士団長の態度と口調には十五歳の少年らしい反発心を持ったが、それでも堪《こら》えて謝罪を口にした。
「同郷の友人との会話が騎士団の任務よりも重要なことなのか?」
(重要なのは会話じゃなく、その内容だよ。そもそもまだ正式に着任していないんだから任務がどうこう言うのはおかしいだろ!)
と反抗的なことを口にしたくなる衝動を抑え込む。
「明日であれば神殿長にもご迷惑をお掛けすることになったかもしれませんでした。友人と会話をする時間を頂けたことに感謝申し上げます」
神殿長の名前が出たことで騎士団長の顔つきが変わった。
「どのような話だったんだ?」
「騎士団とは関係ないことです。どちらかと言えば教会に関係のあるお話しなので今夜にでも神殿長に相談するつもりです」
虎の威を借りる狐だな、と図南が自嘲する。
だが、騎士団長の顔が曇るのを見て取ると、幾分か胸のすく思いがした。
「ふん。いいだろう」
騎士団長はそう言うと、席を立って付いてくるようにうながした。
建屋を出て中央の広場へ向かう。
騎士団長に連れて来られたのは屋外訓練場。二十人程の騎士と十数人の騎士見習いが、幾つかのグループに分かれてて剣や槍の訓練をしている姿があった。
そのうちの一つのグループに近付くと、訓練中の騎士に待って騎士団長が手招きした。
すると、無精ひげを生やし、制服を着崩した三十代後半の騎士が、軽く肩をすくめて剣の打ち合いを中断する。
騎士は駆け寄ると騎士団長に対して敬礼をした。
続いて、興味深げに図南を見る。
「そちらの方が例の小隊長ですか?」
「そうだ。彼が新しい小隊の隊長となる、トナン・ヨイヤミだ」
そう言うと図南を振り返り、駆け寄ってきた騎士を紹介する。
「彼は七級神官のギード・フーバー。君の小隊の副隊長を務めてもらう」
「図南・宵闇です。分からないことばかりでご迷惑をお掛けすると思いますが、ご指導よろしくお願いいたします」
「いけませんなー、小隊長」
「え?」
「部下に対して遜《へりくだ》り過ぎです。上下関係ははっきりさせましょうや」
とても上下関係に拘っているようには思えない言葉と態度である。
図南は困惑して騎士団長を見ると、騎士団長もきっぱりと言い切る。
「年齢が若かろうが、不慣れであろうが関係ない。ギードの言うことが正しい」
「ね、騎士団長もああいってるんです。ここは隊長らしくビシッと決めてください」
ギードが人を食った笑いを浮かべる。
「三級神官の図南・宵闇だ。これから君の上官となる。不慣れなことも多いだろが、小隊の運用に支障が出ないようしっかりと補佐をしてくれ」
「ははははは!」
ギードが突然笑い出した。
あっけにとられた図南が騎士団長を振り返ると、
「随分と堂に入った自己紹介だな。どれくらい練習したんだ?」
呆れたように聞いた。
「え? いえ、練習はしていません。たったいま思いついたセリフです」
「こりゃ、大物の小隊長だ」
尚も笑い転げるギードを騎士団長がたしなめる。
「そのくらいにしておけ」
「ですが、騎士団長、ははははは」
笑い転げるギードを無視して図南が騎士団長に聞く。
「それで、小隊の他のメンバーはどこにいるんですか?」
「他のメンバーは君が選ぶんだ」
そう言って訓練をしている騎士や見習い騎士を顎で示した。
(さて、拓光にああは言ったが、教会や騎士団のなかにヒキガエルと通じている者がいるとなると迂闊には動けないよなー)
相談する相手として浮かぶのは神殿長だけである。
一瞬、クラリッサ司教の顔が浮かんだが、神殿長と違い何年もカッセル市の神殿に在籍しているのでどこでどう繋がっているか分からない。
(小隊長として部下を付けてもらえるけど、私事で動かすわけにもいかないよな)
残る問題は紗良にこのことをどう伝えるかである。
隠し通すことが出来ない以上、伝えないという選択はなかった。だが、それでも紗良を関与させないよう伝える必要がある。
(そうなると、騎士団として正攻法で動くから部外者の紗良は大人しくしているように言うしかないよな)
果たしてそれで大人しくしているか、だ。
(まあ、悩んでも仕方がないか)
悩んでも解決しないと割り切ると、それ以上考えるのをやめて騎士団長の待つ部屋へ向かう足を速めた。
程なく騎士団長が指定した部屋の前に到着する。
「図南・宵闇です」
扉をノックするとなかから騎士団長の声が聞こえた。
「入ってこい」
「失礼いたします」
部屋に入ると、そこには騎士団長だけが不機嫌そうに座っていた。そして開口一番、嫌味が飛ぶ。
「随分と遅かったじゃないか」
「申し訳ありません。少々込み入った話でしたので思った以上に時間が経ってしまいました」
許可された時間はオーバーしていなかったが、無理を言って許可をもらった手前、図南として後ろめたさはある。
騎士団長の態度と口調には十五歳の少年らしい反発心を持ったが、それでも堪《こら》えて謝罪を口にした。
「同郷の友人との会話が騎士団の任務よりも重要なことなのか?」
(重要なのは会話じゃなく、その内容だよ。そもそもまだ正式に着任していないんだから任務がどうこう言うのはおかしいだろ!)
と反抗的なことを口にしたくなる衝動を抑え込む。
「明日であれば神殿長にもご迷惑をお掛けすることになったかもしれませんでした。友人と会話をする時間を頂けたことに感謝申し上げます」
神殿長の名前が出たことで騎士団長の顔つきが変わった。
「どのような話だったんだ?」
「騎士団とは関係ないことです。どちらかと言えば教会に関係のあるお話しなので今夜にでも神殿長に相談するつもりです」
虎の威を借りる狐だな、と図南が自嘲する。
だが、騎士団長の顔が曇るのを見て取ると、幾分か胸のすく思いがした。
「ふん。いいだろう」
騎士団長はそう言うと、席を立って付いてくるようにうながした。
建屋を出て中央の広場へ向かう。
騎士団長に連れて来られたのは屋外訓練場。二十人程の騎士と十数人の騎士見習いが、幾つかのグループに分かれてて剣や槍の訓練をしている姿があった。
そのうちの一つのグループに近付くと、訓練中の騎士に待って騎士団長が手招きした。
すると、無精ひげを生やし、制服を着崩した三十代後半の騎士が、軽く肩をすくめて剣の打ち合いを中断する。
騎士は駆け寄ると騎士団長に対して敬礼をした。
続いて、興味深げに図南を見る。
「そちらの方が例の小隊長ですか?」
「そうだ。彼が新しい小隊の隊長となる、トナン・ヨイヤミだ」
そう言うと図南を振り返り、駆け寄ってきた騎士を紹介する。
「彼は七級神官のギード・フーバー。君の小隊の副隊長を務めてもらう」
「図南・宵闇です。分からないことばかりでご迷惑をお掛けすると思いますが、ご指導よろしくお願いいたします」
「いけませんなー、小隊長」
「え?」
「部下に対して遜《へりくだ》り過ぎです。上下関係ははっきりさせましょうや」
とても上下関係に拘っているようには思えない言葉と態度である。
図南は困惑して騎士団長を見ると、騎士団長もきっぱりと言い切る。
「年齢が若かろうが、不慣れであろうが関係ない。ギードの言うことが正しい」
「ね、騎士団長もああいってるんです。ここは隊長らしくビシッと決めてください」
ギードが人を食った笑いを浮かべる。
「三級神官の図南・宵闇だ。これから君の上官となる。不慣れなことも多いだろが、小隊の運用に支障が出ないようしっかりと補佐をしてくれ」
「ははははは!」
ギードが突然笑い出した。
あっけにとられた図南が騎士団長を振り返ると、
「随分と堂に入った自己紹介だな。どれくらい練習したんだ?」
呆れたように聞いた。
「え? いえ、練習はしていません。たったいま思いついたセリフです」
「こりゃ、大物の小隊長だ」
尚も笑い転げるギードを騎士団長がたしなめる。
「そのくらいにしておけ」
「ですが、騎士団長、ははははは」
笑い転げるギードを無視して図南が騎士団長に聞く。
「それで、小隊の他のメンバーはどこにいるんですか?」
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