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第42話 筆記試験
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図南と紗良の筆記試験は執務棟の一室にある会議室で行われた。
部屋には図南と紗良の他に責任者であるクラリッサ司祭と四人の試験官が同席した。四人の試験官はそれぞれ、大陸共通語と外国語、四則計算で二人ずつとなる。
会議室に静かな時間が流れる。
図南と紗良が眼の前に置かれた用紙に迷いなくペンを走らせる。紙の上を走るペンの音が静かな部屋に微かに響く。
クラリッサ司教は眼前で展開される出来事をただ茫然と眺めていた。
神殿長から二人の学力が突出しているとは聞いていた。
だが、彼らの話を聞いたときは、その神聖魔法の優秀さに心を奪われ、学力について思を巡らせることはなおざりになっていた。
その後、実際に二人と会話をし、学力に留まらず、深い教養と広い知識を持っているであろうことは伝わってきた。
だが、それはあくまでも十代半ば――、成人したばかりの年齢にしては優秀なのだろうと思い込んでいた。
それがどうだ。
いま二人が解答しているのは大陸共通語だけでなく、国交のある近隣五カ国の言語が設問に盛り込まれている。
大陸共通語の問題を解く速度でさえ驚異的なのに、外国語を、それも互角国もの言語をまるで母国語の様にスラスラと解答していく。
(この国の文字や言葉が分かるだけじゃなく、外国の文字や言葉まで勝手に翻訳してくれるのは助かる)
複数の文字と言語が理解できることはカッセル市への道中で確認済みだった。
二人とも不安の色一つない。
図南などは『もしかしたら、この異世界にあるすべての文字と言語が理解できるのはないだろうか』。などと考えながら解答用紙を埋めていく。
図南と紗良の試験の様子を茫然と眺めていたのはクラリッサだけではなかった。
四人の試験官も同様である。
いや、彼らの方が重傷だった。眼前で展開している現実を受け入れられないような思いで図南と紗良が解答するさまに息を飲む。
◇
読み書きの試験の後に行われたのは四則計算の試験だった。
クラリッサ司教と四則計算の試験官が図南と紗良が解答する様子を見つめるなか、国語と外国語を担当する二人の試験官が採点をする。
だが、四則計算の試験が始まるとすぐに、採点をする者たちの手が止まった。
図南と紗良が解答用紙を埋めていく速度に目を奪われる。
その場にいる誰も声を上げることを忘れたように、二人のペンの動きをただ目で追っていた。
図南と紗良の解答するさまはクラリッサ司教たちの常識を打ち砕く。
その驚異的な速度は、計算式を見ただけで解答が浮かび上がるスキルでも持っているのでは、と彼女たちを錯覚させた。
出題された四則計算の問題は、日本の小学生高学年程度の問題である。
県内有数の進学校に合格したばかりの図南と紗良にとっては、手が止まるような問題はない。
図南と紗良がほぼ同時にペンを置いた。
何か問いたげに彼らを見つめるクラリッサ司教に図南と紗良が静かに告げる。
「終わりました」
「すべて回答し終えました」
「ええ、そのようね……」
クラリッサ司教は内心の動揺を表に出さないようにするのが精一杯だった。
彼女とは対照的に動揺しきった試験官が互いに譲り合うようにして図南たちに近付く。
「あの、では、添削を……」
「そ、そうですね」
二人の前から問題用紙と解答用紙を回収しようとする二人の試験官にクラリッサ司教が問う。
「必要あるかしら?」
二人の試験官が互いに顔を見合わせると、静かに首を横に振った。
その反応がすべてを物語っている。
「試験はこれでお終いよ。結果は……、明日はお休みだったわね。明後日、ここで試験結果についてお話をしましょう」
「分かりました」
図南が時計を見ると間もなく昼になろうとする時間だった。
午後から騎士団に顔を出すことなっている図南にクラリッサが言う。
「騎士団長には少し遅れるとあらかじめ断ってあるから時間は気にしなくても大丈夫よ」
「まだ大分かかると言うことでしょうか?」
「次は神聖魔法の試験ですよね?」
図南と紗良が聞いた。
「神聖魔法の実地試験で時間を取らせることはないから安心していいわ」
神殿長が彼らの神聖魔法を語るとき、年甲斐もなく興奮していた姿がクラリッサ司教の脳裏をよぎっていた。
二人の能力の限界を調べるのは別の機会に改めて時間をとることにしよう。
クラリッサ司教はそう思いながらほほ笑んだ。
部屋には図南と紗良の他に責任者であるクラリッサ司祭と四人の試験官が同席した。四人の試験官はそれぞれ、大陸共通語と外国語、四則計算で二人ずつとなる。
会議室に静かな時間が流れる。
図南と紗良が眼の前に置かれた用紙に迷いなくペンを走らせる。紙の上を走るペンの音が静かな部屋に微かに響く。
クラリッサ司教は眼前で展開される出来事をただ茫然と眺めていた。
神殿長から二人の学力が突出しているとは聞いていた。
だが、彼らの話を聞いたときは、その神聖魔法の優秀さに心を奪われ、学力について思を巡らせることはなおざりになっていた。
その後、実際に二人と会話をし、学力に留まらず、深い教養と広い知識を持っているであろうことは伝わってきた。
だが、それはあくまでも十代半ば――、成人したばかりの年齢にしては優秀なのだろうと思い込んでいた。
それがどうだ。
いま二人が解答しているのは大陸共通語だけでなく、国交のある近隣五カ国の言語が設問に盛り込まれている。
大陸共通語の問題を解く速度でさえ驚異的なのに、外国語を、それも互角国もの言語をまるで母国語の様にスラスラと解答していく。
(この国の文字や言葉が分かるだけじゃなく、外国の文字や言葉まで勝手に翻訳してくれるのは助かる)
複数の文字と言語が理解できることはカッセル市への道中で確認済みだった。
二人とも不安の色一つない。
図南などは『もしかしたら、この異世界にあるすべての文字と言語が理解できるのはないだろうか』。などと考えながら解答用紙を埋めていく。
図南と紗良の試験の様子を茫然と眺めていたのはクラリッサだけではなかった。
四人の試験官も同様である。
いや、彼らの方が重傷だった。眼前で展開している現実を受け入れられないような思いで図南と紗良が解答するさまに息を飲む。
◇
読み書きの試験の後に行われたのは四則計算の試験だった。
クラリッサ司教と四則計算の試験官が図南と紗良が解答する様子を見つめるなか、国語と外国語を担当する二人の試験官が採点をする。
だが、四則計算の試験が始まるとすぐに、採点をする者たちの手が止まった。
図南と紗良が解答用紙を埋めていく速度に目を奪われる。
その場にいる誰も声を上げることを忘れたように、二人のペンの動きをただ目で追っていた。
図南と紗良の解答するさまはクラリッサ司教たちの常識を打ち砕く。
その驚異的な速度は、計算式を見ただけで解答が浮かび上がるスキルでも持っているのでは、と彼女たちを錯覚させた。
出題された四則計算の問題は、日本の小学生高学年程度の問題である。
県内有数の進学校に合格したばかりの図南と紗良にとっては、手が止まるような問題はない。
図南と紗良がほぼ同時にペンを置いた。
何か問いたげに彼らを見つめるクラリッサ司教に図南と紗良が静かに告げる。
「終わりました」
「すべて回答し終えました」
「ええ、そのようね……」
クラリッサ司教は内心の動揺を表に出さないようにするのが精一杯だった。
彼女とは対照的に動揺しきった試験官が互いに譲り合うようにして図南たちに近付く。
「あの、では、添削を……」
「そ、そうですね」
二人の前から問題用紙と解答用紙を回収しようとする二人の試験官にクラリッサ司教が問う。
「必要あるかしら?」
二人の試験官が互いに顔を見合わせると、静かに首を横に振った。
その反応がすべてを物語っている。
「試験はこれでお終いよ。結果は……、明日はお休みだったわね。明後日、ここで試験結果についてお話をしましょう」
「分かりました」
図南が時計を見ると間もなく昼になろうとする時間だった。
午後から騎士団に顔を出すことなっている図南にクラリッサが言う。
「騎士団長には少し遅れるとあらかじめ断ってあるから時間は気にしなくても大丈夫よ」
「まだ大分かかると言うことでしょうか?」
「次は神聖魔法の試験ですよね?」
図南と紗良が聞いた。
「神聖魔法の実地試験で時間を取らせることはないから安心していいわ」
神殿長が彼らの神聖魔法を語るとき、年甲斐もなく興奮していた姿がクラリッサ司教の脳裏をよぎっていた。
二人の能力の限界を調べるのは別の機会に改めて時間をとることにしよう。
クラリッサ司教はそう思いながらほほ笑んだ。
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