女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有

文字の大きさ
上 下
36 / 53

第36話 言い争い

しおりを挟む
 カッセル市の西に広がる丘陵地帯から三頭の騎馬が駆けてきた。
 それぞれ図南と紗良、拓光が操っている。

 拓光の操る騎馬には彼の背にしがみ付いて長い金髪をなびかせた少女――、ニーナが乗っていた。
 ニーナを伴った図南たち四人がカッセル市の門付近に戻ると、神聖教会の馬車隊とテレジアたちが所属している隊商が既に到着していた。

 それを見た図南が顔をしかめる。

「ちょっと時間をかけ過ぎたかな?」

「大丈夫ですよ。あたしたちの前にあんなに並んでるじゃないですか」

 拓光の背にしがみ付いたニーナが神聖教会の馬車隊と自分たちの隊商とを指さした。そして、並んでいるのは入市の手続き待ちの人たちであり、自分たちの順番が回ってくるまでには、あと一時間くらいはかかるだろうと付け加えた。
 それを聞いた紗良が真っ先に言う。

「教会の人たちが心配しているといけないわ。取り敢えず、戻ったことを伝えましょう」

「テレジアさんにニーナが無事に戻ったことを知らせたいし、俺も闇雲の意見に賛成だ」

「OK。戻ることにしよう」

 三人が騎馬の速度を上げる。

 神聖騎士団の馬車隊とテレジアのいる隊商に近づくと、見習い騎士と若い女性冒険者を相手に、肥え太った男が言い争いをしてる様子が映った。
 紗良と拓光が嫌悪の表情を浮かべる。

「あれ、ロルカとかいう奴隷商人じゃありませんか?」

「隊商の人たちや冒険者さんたちから話を聞く限り、ろくでもないヤツらしいぞ」

「見習い騎士とはいえ、神聖騎士団と言い争うということは、もしかしてあのヒキガエルは有力者なのか?」

 隊商や冒険者と行動を共にしていた拓光に『何か情報を持っていないのか?』、と図南が聞いた。

「悪い噂は聞いたが、有力者とは聞いていないな……。でも、ケストナーさんやマイヤーさんでさえ、面と向かって文句を言うのは避けていたような気がする」

 隊商のリーダーであるケストナーや護衛のリーダーであるマイヤーでさえ、ロルカに強い態度にでる姿は拓光の記憶にない。
 その様子はどこか関わることを避けていたように思えた。

「あれ、アリシアだ」

 最初に気付いたのはニーナ。
 その視線はロルカと言い争っている若い女性冒険者に向けられていた。

「本当だ、あの美人さんだ」

「タクミはアリシアみたいなのが好きなの?」

 拓光の反応にニーナが不機嫌そうな顔をする。

「好きとかじゃなく一般論として美人だと言っただけだって」

「タクミって難しい言葉を知ってるよね。でもって、すぐに難しい言葉を使ってごまかそうとするんだから」

「いや、ごまかしてないから」

『子ども扱いしないで』、と拗ねるニーナを拓光が宥《なだ》める。その様子に気を取られた図南に紗良が言う。

「アリシアさんは知らない仲じゃないし、困っているようだから助けたい」

 盗賊から襲撃を受けた後、隊商の人たちや護衛たちの治療をニーナとともに手伝ってくれたのだと補足した。

「任せろ!」

 図南はすぐに騎馬の速度を上げ、肥え太った奴隷商人が言い争っている場へと向う。
 それに紗良と拓光が続いた。

 言い争いの現場に騎馬で駆け付けた図南であったが、少し離れたところに馬を止めると歩いてロルカたちの方へと向う。

「何かありましたか?」

「実はこちらの商人の方が捕らえた盗賊たちと話をさせて欲しいとおっしゃっているんです」

 図南に気付いた見習い騎士が助けを求めるように言った。
 別に話くらいさせても良さそうなものだと思いながらも、この場で一番落ち着いているアリシアに詳しい説明を求める。

「そちらの商人が捕らえた盗賊と話をしてはいけない規則でもあるのでしょうか?」

「規則はありませんが、捕らえた盗賊と無闇に会話をしないのが通例です。特に今回はケストナーさんから外部の人との無用な接触を避けるように、と強く言われています」

 この場では言い難いこともありそうだと咄嗟した図南がロルカに向きなおる。

「お聞きの様に彼女たちだけで判断することが難しようですし、隊商の責任者であるケストナーさんに掛け合って頂けませんか?」

「ちょっと確認するだけだ! ほんの少しお前たちが目をつぶれば済むことだろうが!」

 ロルカが凄んでみせたところに、紗良と拓光、ニーナが追い付いてきた。
 図南は三人に事の経緯《いきさつ》を簡単に説明する。

「そりゃ、ケストナーさんに了解を貰うのが筋だろうな」

 と拓光がバッサリと斬った。

「お前ら、ワシを誰だと思っているんだ!」

「どなたか存じませんが、恫喝して無理を通そうとする姿は、傍から見てもみっともないものです。立場がおありでしたらなおのこと手順を踏んだ方がよろしいと思います」

 紗良の冷ややかな言葉と視線にロルカが怒りと驚きで目を剥く。
 いまにも怒声を張り上げそうなロルカに図南が口元を綻ばせて、彼の背後を視線で示した。

「ちょうどいい。ケストナーさんが来たようです」

 事態を察したケストナーが護衛を伴ってこちらへと走ってくるのを見た図南が内心で胸を撫でおろした。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~

影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。 けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。 けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...