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第36話 言い争い
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カッセル市の西に広がる丘陵地帯から三頭の騎馬が駆けてきた。
それぞれ図南と紗良、拓光が操っている。
拓光の操る騎馬には彼の背にしがみ付いて長い金髪をなびかせた少女――、ニーナが乗っていた。
ニーナを伴った図南たち四人がカッセル市の門付近に戻ると、神聖教会の馬車隊とテレジアたちが所属している隊商が既に到着していた。
それを見た図南が顔をしかめる。
「ちょっと時間をかけ過ぎたかな?」
「大丈夫ですよ。あたしたちの前にあんなに並んでるじゃないですか」
拓光の背にしがみ付いたニーナが神聖教会の馬車隊と自分たちの隊商とを指さした。そして、並んでいるのは入市の手続き待ちの人たちであり、自分たちの順番が回ってくるまでには、あと一時間くらいはかかるだろうと付け加えた。
それを聞いた紗良が真っ先に言う。
「教会の人たちが心配しているといけないわ。取り敢えず、戻ったことを伝えましょう」
「テレジアさんにニーナが無事に戻ったことを知らせたいし、俺も闇雲の意見に賛成だ」
「OK。戻ることにしよう」
三人が騎馬の速度を上げる。
神聖騎士団の馬車隊とテレジアのいる隊商に近づくと、見習い騎士と若い女性冒険者を相手に、肥え太った男が言い争いをしてる様子が映った。
紗良と拓光が嫌悪の表情を浮かべる。
「あれ、ロルカとかいう奴隷商人じゃありませんか?」
「隊商の人たちや冒険者さんたちから話を聞く限り、ろくでもないヤツらしいぞ」
「見習い騎士とはいえ、神聖騎士団と言い争うということは、もしかしてあのヒキガエルは有力者なのか?」
隊商や冒険者と行動を共にしていた拓光に『何か情報を持っていないのか?』、と図南が聞いた。
「悪い噂は聞いたが、有力者とは聞いていないな……。でも、ケストナーさんやマイヤーさんでさえ、面と向かって文句を言うのは避けていたような気がする」
隊商のリーダーであるケストナーや護衛のリーダーであるマイヤーでさえ、ロルカに強い態度にでる姿は拓光の記憶にない。
その様子はどこか関わることを避けていたように思えた。
「あれ、アリシアだ」
最初に気付いたのはニーナ。
その視線はロルカと言い争っている若い女性冒険者に向けられていた。
「本当だ、あの美人さんだ」
「タクミはアリシアみたいなのが好きなの?」
拓光の反応にニーナが不機嫌そうな顔をする。
「好きとかじゃなく一般論として美人だと言っただけだって」
「タクミって難しい言葉を知ってるよね。でもって、すぐに難しい言葉を使ってごまかそうとするんだから」
「いや、ごまかしてないから」
『子ども扱いしないで』、と拗ねるニーナを拓光が宥《なだ》める。その様子に気を取られた図南に紗良が言う。
「アリシアさんは知らない仲じゃないし、困っているようだから助けたい」
盗賊から襲撃を受けた後、隊商の人たちや護衛たちの治療をニーナとともに手伝ってくれたのだと補足した。
「任せろ!」
図南はすぐに騎馬の速度を上げ、肥え太った奴隷商人が言い争っている場へと向う。
それに紗良と拓光が続いた。
言い争いの現場に騎馬で駆け付けた図南であったが、少し離れたところに馬を止めると歩いてロルカたちの方へと向う。
「何かありましたか?」
「実はこちらの商人の方が捕らえた盗賊たちと話をさせて欲しいとおっしゃっているんです」
図南に気付いた見習い騎士が助けを求めるように言った。
別に話くらいさせても良さそうなものだと思いながらも、この場で一番落ち着いているアリシアに詳しい説明を求める。
「そちらの商人が捕らえた盗賊と話をしてはいけない規則でもあるのでしょうか?」
「規則はありませんが、捕らえた盗賊と無闇に会話をしないのが通例です。特に今回はケストナーさんから外部の人との無用な接触を避けるように、と強く言われています」
この場では言い難いこともありそうだと咄嗟した図南がロルカに向きなおる。
「お聞きの様に彼女たちだけで判断することが難しようですし、隊商の責任者であるケストナーさんに掛け合って頂けませんか?」
「ちょっと確認するだけだ! ほんの少しお前たちが目をつぶれば済むことだろうが!」
ロルカが凄んでみせたところに、紗良と拓光、ニーナが追い付いてきた。
図南は三人に事の経緯《いきさつ》を簡単に説明する。
「そりゃ、ケストナーさんに了解を貰うのが筋だろうな」
と拓光がバッサリと斬った。
「お前ら、ワシを誰だと思っているんだ!」
「どなたか存じませんが、恫喝して無理を通そうとする姿は、傍から見てもみっともないものです。立場がおありでしたらなおのこと手順を踏んだ方がよろしいと思います」
紗良の冷ややかな言葉と視線にロルカが怒りと驚きで目を剥く。
いまにも怒声を張り上げそうなロルカに図南が口元を綻ばせて、彼の背後を視線で示した。
「ちょうどいい。ケストナーさんが来たようです」
事態を察したケストナーが護衛を伴ってこちらへと走ってくるのを見た図南が内心で胸を撫でおろした。
それぞれ図南と紗良、拓光が操っている。
拓光の操る騎馬には彼の背にしがみ付いて長い金髪をなびかせた少女――、ニーナが乗っていた。
ニーナを伴った図南たち四人がカッセル市の門付近に戻ると、神聖教会の馬車隊とテレジアたちが所属している隊商が既に到着していた。
それを見た図南が顔をしかめる。
「ちょっと時間をかけ過ぎたかな?」
「大丈夫ですよ。あたしたちの前にあんなに並んでるじゃないですか」
拓光の背にしがみ付いたニーナが神聖教会の馬車隊と自分たちの隊商とを指さした。そして、並んでいるのは入市の手続き待ちの人たちであり、自分たちの順番が回ってくるまでには、あと一時間くらいはかかるだろうと付け加えた。
それを聞いた紗良が真っ先に言う。
「教会の人たちが心配しているといけないわ。取り敢えず、戻ったことを伝えましょう」
「テレジアさんにニーナが無事に戻ったことを知らせたいし、俺も闇雲の意見に賛成だ」
「OK。戻ることにしよう」
三人が騎馬の速度を上げる。
神聖騎士団の馬車隊とテレジアのいる隊商に近づくと、見習い騎士と若い女性冒険者を相手に、肥え太った男が言い争いをしてる様子が映った。
紗良と拓光が嫌悪の表情を浮かべる。
「あれ、ロルカとかいう奴隷商人じゃありませんか?」
「隊商の人たちや冒険者さんたちから話を聞く限り、ろくでもないヤツらしいぞ」
「見習い騎士とはいえ、神聖騎士団と言い争うということは、もしかしてあのヒキガエルは有力者なのか?」
隊商や冒険者と行動を共にしていた拓光に『何か情報を持っていないのか?』、と図南が聞いた。
「悪い噂は聞いたが、有力者とは聞いていないな……。でも、ケストナーさんやマイヤーさんでさえ、面と向かって文句を言うのは避けていたような気がする」
隊商のリーダーであるケストナーや護衛のリーダーであるマイヤーでさえ、ロルカに強い態度にでる姿は拓光の記憶にない。
その様子はどこか関わることを避けていたように思えた。
「あれ、アリシアだ」
最初に気付いたのはニーナ。
その視線はロルカと言い争っている若い女性冒険者に向けられていた。
「本当だ、あの美人さんだ」
「タクミはアリシアみたいなのが好きなの?」
拓光の反応にニーナが不機嫌そうな顔をする。
「好きとかじゃなく一般論として美人だと言っただけだって」
「タクミって難しい言葉を知ってるよね。でもって、すぐに難しい言葉を使ってごまかそうとするんだから」
「いや、ごまかしてないから」
『子ども扱いしないで』、と拗ねるニーナを拓光が宥《なだ》める。その様子に気を取られた図南に紗良が言う。
「アリシアさんは知らない仲じゃないし、困っているようだから助けたい」
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「任せろ!」
図南はすぐに騎馬の速度を上げ、肥え太った奴隷商人が言い争っている場へと向う。
それに紗良と拓光が続いた。
言い争いの現場に騎馬で駆け付けた図南であったが、少し離れたところに馬を止めると歩いてロルカたちの方へと向う。
「何かありましたか?」
「実はこちらの商人の方が捕らえた盗賊たちと話をさせて欲しいとおっしゃっているんです」
図南に気付いた見習い騎士が助けを求めるように言った。
別に話くらいさせても良さそうなものだと思いながらも、この場で一番落ち着いているアリシアに詳しい説明を求める。
「そちらの商人が捕らえた盗賊と話をしてはいけない規則でもあるのでしょうか?」
「規則はありませんが、捕らえた盗賊と無闇に会話をしないのが通例です。特に今回はケストナーさんから外部の人との無用な接触を避けるように、と強く言われています」
この場では言い難いこともありそうだと咄嗟した図南がロルカに向きなおる。
「お聞きの様に彼女たちだけで判断することが難しようですし、隊商の責任者であるケストナーさんに掛け合って頂けませんか?」
「ちょっと確認するだけだ! ほんの少しお前たちが目をつぶれば済むことだろうが!」
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「ちょうどいい。ケストナーさんが来たようです」
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