女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有

文字の大きさ
上 下
30 / 53

第30話 噂

しおりを挟む
 ――――神聖教会一行の野営地。

 昨夜の襲撃で怪我を負った者たちも全員回復したこともあって、神聖教会の野営地も随分と落ち着きを取り戻していた。
 その一画、十二、三歳と思しき三人の見習い神官たちが額を突き合わせる。

「昨夜のトナン様の話を聞いたか?」

 見習い神官の一人が周囲を気にしながらささやいた。

「襲撃者を撃退した話か?」

「大司教様と一緒に重傷者を治療した話か?」

 二人の問いに『襲撃者を撃退した話だ』、と興奮気味に続ける。

「鬼神のような戦い振りだったって聞いたんだ」

「聞いた、聞いた! 目にも止まらない動きで敵を次々に倒したらしいな」

「剣術の手練れだって噂だよな」

 三人の見習い神官の目が輝きだす。
 まるで憧れの英雄の話をするように興奮していた。

「やっぱり神聖騎士団に入られるのかな?」

「俺、神聖魔法の才能はなさそうだし、神聖騎士を目指してみようかな」

「トナン様は神聖魔法も司教クラスなんだろ? そんな凄い人が神聖騎士団に入るかな? 既に司教待遇らしいし、このまま出世する道を選ぶんじゃないのか?」

 図南が上級神官の神官服をまとっていたことに触れた。

 神聖教会は教皇を頂点とし、それを補佐する枢機卿、各地域や神殿の長である大司教、現場を指揮する司教、それを補佐する司祭が続く。
 ここまでが一級から三級神官で構成され、一般的に上級神官と呼ばれていた。

「第一階位の『部位欠損の再生』が使えるんだよな、トナン様」

 神聖魔法のなかでも最上位に位置する第一階位の『部位欠損の再生』を図南と紗良が行えることは既に知れ渡っている。

 神聖教会は良くも悪くも実力社会で、その実力を図る基準は神聖魔法だった。
 そして、第一階位の神聖魔法が使える者はそれだけで三級神官以上の階級が与えられる。

「第一階位の神聖魔法が使えるのにわざわざ神聖騎士団には入らないって」

「でも、まだ十五、六歳だろ? 三級神官だからって、いきなり司教にはなれないんじゃないのか? 剣の腕も凄いらしいし、一時的に騎士団に入る可能性だってあるさ」

 神聖魔法の能力に見合った階級は与えられても役職は別問題だと、過去、多くの才能ある若者が証明していた。

「『部位欠損の再生』なら、サラ様も使えるんだろ?」

「噂ではな」

「昨夜、大司教様が大怪我を負った人たちの治療をしたんだけど、それにトナン様とサラ様が同行したんだろ? そのときにトナン様とサラ様が部位欠損を直したって聞いたぜ」

「やっぱり、あのお二人は特別なのかなー」

 見習い神官の一人が両手を頭の後ろで組んで空を仰いだ。

「それって、サラ様に関する噂のことか?」

「ルードヴィッヒおじいちゃん、のことか?」

 即座に他の二人が反応する。

「サラ様が大司教様を『ルードヴィッヒおじいちゃん』、って呼んでいたらしいじゃないか」

「じゃあ、やっぱりサラ様はお孫さん?」

 殊更に声をひそめた。

「それを言ったら、トナン様も大司教様のことを『じいさん』と呼んでいたぜ」

「本当か?」

「間違いない、この耳で聞いた」

 図南と紗良の無礼なもの言いが、彼ら見習い神官だけでなく、騎士や神官たちの間にもあらぬ誤解を広げていた。

「黒髪にダークブラウンの瞳ってところで怪しいと気付くべきだったよな」

「本当にお孫さんなのかな?」

「少なくとも血縁関係はあるんじゃないのか?」

 日本人と同じ特徴を持つ東方大陸の民族——、東方大陸から渡ってきた者たちの子孫は、この神聖バール皇国では数少なかった。
 そんな数の少ない特徴を持ったルードヴィッヒ大司教が、同じ特徴を持った図南と紗良を取り立てる。

 そこへ昨夜の襲撃事件だ。
 二人とも高位の神聖魔法の術者であることを示し、図南に至っては比類ない戦闘能力で騎士団と神官たちの危機を救った。

 尾ひれ背びれを付けて噂が急速に拡散していのに時間はかからなかった。
 噂話に夢中になっている三人を若い神官が見とがめる。

「おい! お前たちサボってないで仕事をしろ!」

「すみません!」

 三人が慌てて持ち場へと戻って行った。
 彼らの姿が他の神官たちに紛れると、天幕の陰から現れたフューラー大司教が楽しそうに微笑む。

「これは利用できるかもしれんな」
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~

影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。 けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。 けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...