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第30話 噂
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――――神聖教会一行の野営地。
昨夜の襲撃で怪我を負った者たちも全員回復したこともあって、神聖教会の野営地も随分と落ち着きを取り戻していた。
その一画、十二、三歳と思しき三人の見習い神官たちが額を突き合わせる。
「昨夜のトナン様の話を聞いたか?」
見習い神官の一人が周囲を気にしながらささやいた。
「襲撃者を撃退した話か?」
「大司教様と一緒に重傷者を治療した話か?」
二人の問いに『襲撃者を撃退した話だ』、と興奮気味に続ける。
「鬼神のような戦い振りだったって聞いたんだ」
「聞いた、聞いた! 目にも止まらない動きで敵を次々に倒したらしいな」
「剣術の手練れだって噂だよな」
三人の見習い神官の目が輝きだす。
まるで憧れの英雄の話をするように興奮していた。
「やっぱり神聖騎士団に入られるのかな?」
「俺、神聖魔法の才能はなさそうだし、神聖騎士を目指してみようかな」
「トナン様は神聖魔法も司教クラスなんだろ? そんな凄い人が神聖騎士団に入るかな? 既に司教待遇らしいし、このまま出世する道を選ぶんじゃないのか?」
図南が上級神官の神官服をまとっていたことに触れた。
神聖教会は教皇を頂点とし、それを補佐する枢機卿、各地域や神殿の長である大司教、現場を指揮する司教、それを補佐する司祭が続く。
ここまでが一級から三級神官で構成され、一般的に上級神官と呼ばれていた。
「第一階位の『部位欠損の再生』が使えるんだよな、トナン様」
神聖魔法のなかでも最上位に位置する第一階位の『部位欠損の再生』を図南と紗良が行えることは既に知れ渡っている。
神聖教会は良くも悪くも実力社会で、その実力を図る基準は神聖魔法だった。
そして、第一階位の神聖魔法が使える者はそれだけで三級神官以上の階級が与えられる。
「第一階位の神聖魔法が使えるのにわざわざ神聖騎士団には入らないって」
「でも、まだ十五、六歳だろ? 三級神官だからって、いきなり司教にはなれないんじゃないのか? 剣の腕も凄いらしいし、一時的に騎士団に入る可能性だってあるさ」
神聖魔法の能力に見合った階級は与えられても役職は別問題だと、過去、多くの才能ある若者が証明していた。
「『部位欠損の再生』なら、サラ様も使えるんだろ?」
「噂ではな」
「昨夜、大司教様が大怪我を負った人たちの治療をしたんだけど、それにトナン様とサラ様が同行したんだろ? そのときにトナン様とサラ様が部位欠損を直したって聞いたぜ」
「やっぱり、あのお二人は特別なのかなー」
見習い神官の一人が両手を頭の後ろで組んで空を仰いだ。
「それって、サラ様に関する噂のことか?」
「ルードヴィッヒおじいちゃん、のことか?」
即座に他の二人が反応する。
「サラ様が大司教様を『ルードヴィッヒおじいちゃん』、って呼んでいたらしいじゃないか」
「じゃあ、やっぱりサラ様はお孫さん?」
殊更に声をひそめた。
「それを言ったら、トナン様も大司教様のことを『じいさん』と呼んでいたぜ」
「本当か?」
「間違いない、この耳で聞いた」
図南と紗良の無礼なもの言いが、彼ら見習い神官だけでなく、騎士や神官たちの間にもあらぬ誤解を広げていた。
「黒髪にダークブラウンの瞳ってところで怪しいと気付くべきだったよな」
「本当にお孫さんなのかな?」
「少なくとも血縁関係はあるんじゃないのか?」
日本人と同じ特徴を持つ東方大陸の民族——、東方大陸から渡ってきた者たちの子孫は、この神聖バール皇国では数少なかった。
そんな数の少ない特徴を持ったルードヴィッヒ大司教が、同じ特徴を持った図南と紗良を取り立てる。
そこへ昨夜の襲撃事件だ。
二人とも高位の神聖魔法の術者であることを示し、図南に至っては比類ない戦闘能力で騎士団と神官たちの危機を救った。
尾ひれ背びれを付けて噂が急速に拡散していのに時間はかからなかった。
噂話に夢中になっている三人を若い神官が見とがめる。
「おい! お前たちサボってないで仕事をしろ!」
「すみません!」
三人が慌てて持ち場へと戻って行った。
彼らの姿が他の神官たちに紛れると、天幕の陰から現れたフューラー大司教が楽しそうに微笑む。
「これは利用できるかもしれんな」
昨夜の襲撃で怪我を負った者たちも全員回復したこともあって、神聖教会の野営地も随分と落ち着きを取り戻していた。
その一画、十二、三歳と思しき三人の見習い神官たちが額を突き合わせる。
「昨夜のトナン様の話を聞いたか?」
見習い神官の一人が周囲を気にしながらささやいた。
「襲撃者を撃退した話か?」
「大司教様と一緒に重傷者を治療した話か?」
二人の問いに『襲撃者を撃退した話だ』、と興奮気味に続ける。
「鬼神のような戦い振りだったって聞いたんだ」
「聞いた、聞いた! 目にも止まらない動きで敵を次々に倒したらしいな」
「剣術の手練れだって噂だよな」
三人の見習い神官の目が輝きだす。
まるで憧れの英雄の話をするように興奮していた。
「やっぱり神聖騎士団に入られるのかな?」
「俺、神聖魔法の才能はなさそうだし、神聖騎士を目指してみようかな」
「トナン様は神聖魔法も司教クラスなんだろ? そんな凄い人が神聖騎士団に入るかな? 既に司教待遇らしいし、このまま出世する道を選ぶんじゃないのか?」
図南が上級神官の神官服をまとっていたことに触れた。
神聖教会は教皇を頂点とし、それを補佐する枢機卿、各地域や神殿の長である大司教、現場を指揮する司教、それを補佐する司祭が続く。
ここまでが一級から三級神官で構成され、一般的に上級神官と呼ばれていた。
「第一階位の『部位欠損の再生』が使えるんだよな、トナン様」
神聖魔法のなかでも最上位に位置する第一階位の『部位欠損の再生』を図南と紗良が行えることは既に知れ渡っている。
神聖教会は良くも悪くも実力社会で、その実力を図る基準は神聖魔法だった。
そして、第一階位の神聖魔法が使える者はそれだけで三級神官以上の階級が与えられる。
「第一階位の神聖魔法が使えるのにわざわざ神聖騎士団には入らないって」
「でも、まだ十五、六歳だろ? 三級神官だからって、いきなり司教にはなれないんじゃないのか? 剣の腕も凄いらしいし、一時的に騎士団に入る可能性だってあるさ」
神聖魔法の能力に見合った階級は与えられても役職は別問題だと、過去、多くの才能ある若者が証明していた。
「『部位欠損の再生』なら、サラ様も使えるんだろ?」
「噂ではな」
「昨夜、大司教様が大怪我を負った人たちの治療をしたんだけど、それにトナン様とサラ様が同行したんだろ? そのときにトナン様とサラ様が部位欠損を直したって聞いたぜ」
「やっぱり、あのお二人は特別なのかなー」
見習い神官の一人が両手を頭の後ろで組んで空を仰いだ。
「それって、サラ様に関する噂のことか?」
「ルードヴィッヒおじいちゃん、のことか?」
即座に他の二人が反応する。
「サラ様が大司教様を『ルードヴィッヒおじいちゃん』、って呼んでいたらしいじゃないか」
「じゃあ、やっぱりサラ様はお孫さん?」
殊更に声をひそめた。
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「本当か?」
「間違いない、この耳で聞いた」
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「少なくとも血縁関係はあるんじゃないのか?」
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「すみません!」
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