上 下
22 / 53

第22話 長剣と短剣(1)

しおりを挟む
 夕食を終えた図南と紗良は拓光との情報交換のため、隊商と冒険者たちが野営をしているエリアへと向かって歩いていた。
 腰の長剣を見下ろすと、歩くのに邪魔だと紗良が不満げにつぶやく。

「置いてくれば良かった」

「そう言うなよ。確かに邪魔かもしれないけど、爺さんの好意なんだし、ありがたく受け取っておこうぜ」

 紗良とは違って図南の方は、洗練されたデザインの剣を帯剣できることが嬉しくて仕方がない、と言った様子である。
 その姿にオークから奪った長剣を手にしたときの図南と拓光のはしゃぎ様が、紗良の脳裏に蘇った。

「図南ったら子どもみたい」

「ロマンだよ、男のロマンってやつだ」

 男とは幾つになっても刀や剣に憧れるものなのだ、と図南が力説するが紗良の方は然程興味を示さずに歩き続けた。

 ――――夕食前にフューラー大司教に呼ばれた図南と紗良は、そこで神聖教会の意匠が彫られた二振りの長剣と二本の短剣を渡された。

「今後はこれを帯剣するようにしなさい」

 図南に神聖教会の意匠が彫られた、一振りの長剣と一本の短剣を差し出した。どちらも決して華美なものではないが手の込んだ彫刻が施されている。

「剣ならあります」

 図南が腰に差したオークから奪った長剣を示すと、フューラー大司教が静かに首を横に振った。

「この長剣と短剣は、どちらも君たちの身分を示すものとなる。武器としての実用性も十分以上で、強化と自己修復の魔法が付与された魔剣だ。肌身離さず持っていなさい」

「そういう事でしたら」

 素直に長剣と短剣を受け取る図南の隣で紗良が聞く。

「どちらも身分を示すものでしたら、短剣だけではダメなのでしょうか? 私は長剣も短剣も手にしたことがありません。手にした刃物と言えば包丁くらいのものです」

 不慣れなものを持つと自分だけでなく他者に怪我を負わせるかもしれない、と不安そうに付け加えた。

「君たちがどのようなところで暮らしてきたかは知らないが、この国では街の外を歩くときに護身用の武器を持つのは当たり前のことなのだよ」

 そして、神聖教会の騎士や神官は誰もが短剣以外の武器も所持しているのが当たり前なのだ、と説明した。

「承知いたしました。長剣と短剣を改めて頂戴いたします」

 紗良が長剣と短剣を受け取った。

 神聖教会が野営しているエリアを抜ける手前で、図南と紗良の二人は周辺を巡回中の騎士と遭遇した。
 騎士は立ち止まると、右手を左胸に当てて直立不動の姿勢となった騎士に向かって、図南と紗良は騎士に向かって軽く会釈する。

「お疲れ様です」

「巡回、お疲れ様です」

「ありがとうございます!」

 騎士から返ってきたのは畏まった返事だけだった。
 呼び止められ、何者なのか、何処へいくのかと、職務質問めいたことを聞かれると考えていた二人は、胸を撫でおろしながら巡回に戻った騎士を振り返った。

「随分すんなりと、通してくれたな」

「そうね。何だか、妙に畏まってなかった?」

「畏まっていたというか、緊張していた感じだな」

「この神官服のせいかしら?」

 紗良が神官服の胸元を軽くつまんだ。見えるはずもないのだが、図南の視線がその胸元に向けれられる。
 それに気付いた紗良が図南の顔を見上げた。

「ん?」

「え?」

 慌てる図南にからかうような視線を向ける。

「あれー」

「な、何だよ」

「覗き込んだところで服の構造的に、見えないわよー」

「し、知ってるよ、それくらい。だいたい、覗き込んだんじゃなくって、神官服を見たんだ」

「ふーん。いいわ、許してあげる」

「許すって何だよ」

 嬉しそうに腕にしがみ付く紗良。
 図南はそんな紗良を引きずるようにして待ち合わせの場所へと足を速める。

 程なく、待ち合わせの場所へ来ると、既に拓光が待っていた。

「待ちくたびれたぞ」

 拓光が図南と紗良の気配に振り向くと、満足げに図南の腕にしがみ付く紗良と振りほどく振りをしつつも、まんざらでもない顔の図南とが映った。

「すまない、少し遅れたようだな」

「不知火さん、油断しているところに不意打ちの様に声を掛けるのは心臓に悪いのでやめるようにお願いします」

 図南と紗良が対照的な反応を返した。

「別にいいんだけどな」

 拓光は軽く流して、図南と紗良の腰に差した長剣に目を留めた。そして、自分も隊商の代表であるケストナーから貰ったのだ、と腰に差した長剣を見せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~

影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。 けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。 けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

勇者召喚に巻き込まれた俺はのんびりと生活したいがいろいろと巻き込まれていった

九曜
ファンタジー
俺は勇者召喚に巻き込まれた 勇者ではなかった俺は王国からお金だけを貰って他の国に行った だが、俺には特別なスキルを授かったがそのお陰かいろいろな事件に巻き込まれといった この物語は主人公がほのぼのと生活するがいろいろと巻き込まれていく物語

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...