有能侍女、暗躍す

篠原 皐月

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第3章 起死回生一発逆転

2.根回し

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 皆に計画の説明を終えたソフィアは、早速ジーレスに王宮、もっと詳しく言えば、自分の職場である後宮のシェリル王女の居住エリアに、外部からの傍受が不可能な状態で魔導鏡での通信回線を繋いで貰った。
 そして待つ事暫し。取り次ぎの女官を経て、ソフィアの目下の主が魔導鏡の向こうに顔を見せた。

「お久しぶりです、姫様。休みが長引いておりまして、申し訳ありません」
 まずソフィアが頭を下げると、シェリルは笑いながら手を振った。

「そんな事は気にしないで? カレンからも『ソフィアは真面目で、これまでにも規定外の休みを取得した事は皆無でしたから、きちんとお家の事情が片付くまで、休暇を取得して構わないと伝えて下さい』と言われているし」
「恐縮です。女官長に宜しくお伝え下さい」
 感謝の気持ちで一杯になったソフィアが再び頭を下げると、シェリルが安心させるように言ってくる。

「分かったわ。それに私も『身辺に置くのは気心がしれた者だけにして、姫様が王宮の暮らしに一日も早く馴染んでいただける様に配慮していましたが、この機会に不特定多数の者にお世話をして貰う事に慣れて頂きましょう』と言われているの。だから侍女は日替わりだけど、リリスがしっかり申し送りはしてくれるし、来てくれる人は何回か面識がある人ばかりだし、大丈夫よ?」
「それは良かったです。……少々寂しいですが」
 つい本音を漏らしたソフィアだったが、そこでシェリルがにっこり微笑みながら、さり気ない口調で告げた。

「勿論、誰よりもソフィアが一番頼りになるし、側にいて貰えると安心できるんだけど」
「光栄です、姫様」
 穏やかに微笑みながら、傍目には冷静にお礼の言葉を述べたソフィアだったが、内心ではシェリルの台詞に悶えた。

(くうっ……、さすがアルテス様の姪に当たられる姫様だけの事はあるわ。無意識にこちらの優越感を、くすぐってくれるなんて!)
 そんな事を考えて、密かに身悶えしていると、シェリルが不思議そうに尋ねてくる。

「ところで、今日はどうして連絡してきたの? これから王宮に戻るという報告では無いみたいだし……」
 その問い掛けで、ソフィアは瞬時に我に返った。

(いけない。危うく本題を忘れる所だったわ)
 そして気を引き締めたソフィアは、本題を口にした。

「すみません、姫様。そちらの部屋に、今現在姫様の領地の管理官補佐を務めている財務官のディオン殿を、至急呼んで頂けないでしょうか?」
 それを聞いたシェリルが、益々怪訝な顔になる。

「ディオンを?」
「はい。税収について尋ねたい事があるとか、灌漑事業の進捗状況を聞きたいとか、適当な理由を付けて頂ければ」
 それを聞いたシェリルは小首を傾げて考えてから、推察した内容を口にした。

「ソフィアがディオンに、何か頼みたい事でもあるの?」
「はい。それを姫様に仲介して頂ければと……」
 さすがに少し図々しいかとは思いつつも、殆どコネを持たないソフィアは、この際利用できる物は利用しようと腹を括った。すると再び考え込んだシェリルは、軽く頷いて魔導鏡の映る範囲から姿を消した。

「分かったわ。ちょっと待っていてね?」
「はい」
 しかし姿を消したシェリルは、すぐに戻って来てソフィアに声をかけた。

「今、リリスに頼んで、執務棟に呼び出しをかけて貰ったわ。お仕事中みたいだから、来るまで少し時間がかかると思うけど大丈夫?」
「はい、構いません。ありがとうございます。姫様のお手を煩わせて、申し訳ありません」
「それは良いんだけど……、一体どんな事を頼むつもり? 差し支えなければ聞かせて貰えないかしら? ソフィアが困っているなら、できる事があるなら手伝ってあげたいし」
 心配そうにそう申し出たシェリルに、ソフィアは思い切って言い出した。

「それではお言葉に甘えまして、実は姫様にもお願いしたい事がございます」
「そうなの?」
「はい。それを含めて、ディオン殿が来るまでに、一通りご説明したいのですが、お時間は大丈夫ですか?」
「ええ、特に予定は無いから心配しないで」
「それではですね……」
 そこでソフィアは、ルーバンス公爵邸での見合いの様子や、自分だけ断りを入れた事、ヴォーバン男爵が圧力をかけようとした事、屋敷に侵入者があったがそれを撃退した事などを、自分が大暴れした事は伏せた上で簡潔に語って聞かせた。その上で今後の対応策について説明すると、シェリルは目を丸くしたが、そのまま話を続ける。

「……それで、近日中。上手くいけば一週間後位に、弟とルセリア嬢の結婚式が執り行われる事になります。それまでに王妃様にお口添え頂きまして、先程お話しした内容を、姫様にやって頂きたいのです」
 一通り話し終えてお伺いを立てると、流石にシェリルは困惑顔になった。

「ええと……、ミレーヌ様にお願いするのは構わないけど……、私、人前で演技とかをやった事は無いから、正直、上手くやれる自信が無いわ……」
 シェリルが途方に暮れた様に応じ、流石に彼女の人柄を良く知っているソフィアも(確かにちょっと難しいかも)と考え込んでしまったが、ここで彼女の横から、明るく話に割り込んできた人物が居た。

「そこら辺は大丈夫ですよ、姫様! そういう場には護衛付きで出向かなければいけませんから、それをジェリド様に頼めば他の予定を潰しても付いて来てくれますし、あの腹黒い方なら、どうとでもこちらの筋書き通りに事を運んで下さいますって!」
「あ、それもそうね。じゃあ事情を話して、ジェリドにお願いしようかしら。ソフィア、ジェリドに詳しい事を話しても大丈夫?」
 婚約者の名前が出た事で、救われた様にシェリルが頷いて確認を入れてきた為、その存在を思い出したソフィアは(あれなら問題ないわね。と言うか、巻き込むのにうってつけだわ)とほくそ笑みながら、了承の言葉を返した。
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