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第3章 蠢く陰謀
3.得意不得意
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多少揉めたものの今後の方針が決まった後は、全員の行動は早かった。
クラウスとガルストは早速シフトの調整や他部門との折衝準備に入り、他の三人は部屋に戻って途中の仕事を他の者に引き継ぎ、準備に取りかかる。
「エリー、これが支給備品の一覧だ。その他に持って行きたい物があれば、自分で調達して欲しい」
「分かりました」
さすがにこれまでの経験で慣れているシュレスタが、保管されている必要書類を迷わず書棚から取り出した。それをエリーシア達に渡しながら、気遣わしげに尋ねる。
「それから今更だが、馬には乗れるのか?」
「大丈夫です。森で暮らしていた頃は普段荷馬車を使っていましたが、父に『念の為、鞍無しでも馬を乗りこなせる様にしておけ』と、練習させられたので」
「それは良かったが……。出発前に、ちゃんと鞍を置いて、乗馬練習をしておいた方が良い。軍から貸与されるのは基本的に軍馬だから、乗る位置が高いだろうし、ちゃんと指示しないと動かない可能性もある」
その指摘に、エリーシアは思わず考え込んだ。
「言われてみればそうですね……。何とか時間を取って、練習してみます」
「それじゃあ魔術師長か副魔術師長の方から、近衛軍に話を通して貰った方が良いな」
そこでシュレスタは、サイラスに向き直った。
「サイラスは、その辺りは心配要らないな?」
その問いかけに、彼が事も無げに頷く。
「はい。トレリア国に居た頃は、何度か前線に派遣させられていますので、その手の経験は一通りあります」
「一応王子様だったのに?」
思わず不思議に思ったエリーシアが口を挟むと、サイラスが自嘲気味に付け加える。
「庶子で、国王に何番目の息子かもまともに覚えて貰って無かった奴の扱いとしては、そんなものだ。……そんな事より、ただでさえお前は女なんだから、色々準備が面倒だろうし、細々とした物はさっさと済ませろよ?」
半ば強引に話題を変えたサイラスに、エリーシアは気分を害した様に言い返した。
「細々? ちょっと止めてよね。一歩間違うと公害になる臭いを撒き散らしているどこぞのご令嬢の様に、戦場に化粧品の類を山ほど抱えて行くとでも思ってるわけ?」
「そうは言ってないが……。ほら、女は毎月、色々面倒だろうし……」
かなり言いにくそうに、周囲をはばかりながら小声で囁いたサイラスだったが、エリーシアはあっけらかんと普通の声量で言い放った。
「毎月? ああ、ひょっとして、月の物の事を言ってるわけ?」
その声に、周囲の者達がギョッとして視線を向ける中、サイラスは彼女の口を手で塞ぎつつ、小声で叱りつけた。
「お前! いきなりそんな事を大声で言うな! 少しは周りを気にしろ!」
しかしエリーシアは、口から彼の手を引っ剥がして忌々しげに言い返す。
「別に、仕事に必要な事なんだから、変に隠すような事じゃ無いでしょう?」
「それは確かに、そうかもしれないがな!」
「第一、それならこっちの部屋に引き上げてから、真っ先にこっそり魔導鏡で王宮侍医団のミシェラ先生に連絡を取って、周期調整薬を頼んだもの」
「いつの間に、そんな連絡取ってたんだよ……」
「だから半年だろうが一年だろうが、従軍業務ドンと来いよ。王宮生活より、寧ろ野営生活の方が性に合うしね」
そう言ってやる気満々で胸を叩いたエリーシアに、サイラスが思わず額を押さえて呻く。
「……お前はもう少し、女としての慎みとか、恥じらいという物は持ち合わせていないのか?」
「何寝言を言ってんのよ。一々そんな物に構ってたら、仕事にあぶれるわ」
「本当に、お前って奴は……」
疲れた様に溜め息を吐いたサイラスを、ここでシュレスタが気の毒そうな顔付きで宥めた。
「サイラス、この話題は、ここら辺で止めておこうか」
「はい……」
その声で何とか気を取り直したサイラスは、真顔になって一番の懸念を訴えた。
「取り敢えず一番の問題は、『できうる限りの自衛策』だと思います」
「確かにそうだろうな……」
途端に難しい顔になったシュレスタに、サイラスが思い付くまま考えを述べる。
「武術訓練の類を一切受けていないエリーの場合、武器の類は持つだけ無駄でしょうが、術式を封じた物を武器の形にしておけば、それだけで周囲に対する威嚇にはなると思いますが」
「術式を固定した物をこっそり隠し持つより、敢えて見せびらかして威圧するって事か……。そういうのって正直、あまり趣味じゃ無いんだけど」
エリーシアは途端に嫌そうな顔になったが、サイラスは淡々と話を進めた。
「そういう考え方もあるって事だ。そもそもお前、攻守で考えれば防御系だしな」
その断定口調に、エリーシアが素直に頷く。
「それは認めるわ。日常生活では滅多に攻撃系術式を全力行使する事なんか無かったもの」
「確かにそうだろうな」
「だから攻撃対象が個人が集団かで、対処法が随分違うと思うのよ。感覚的に良く分からないから、そこの所の意見を聞かせて欲しいんだけど」
「防御系の術式に関しては、俺も意見の摺り合わせをしておこうと思っていたんだ。これまでは身辺の防護なんて、あまり真面目に考えた事は無かったからな。効率的な魔力の配分を考慮しておきたい」
二人が真剣な表情でそんな事を言い合い始めたのを見て、シュレスタはどこか安堵した表情で頷いた。
「それでは二人で考えた内容を纏めて、私か副魔術師長に提出してくれ。一応内容を確認するから」
「分かりました」
「お願いします」
そしてその場を離れて自分の机に戻ったシュレスタだったが、二人が隣り合った机で何やら真剣に意見を戦わせている姿を見て、(あの二人なら、それほど心配は要らないだろう)と安心し、自分がしておくべき仕事に取りかかった。
クラウスとガルストは早速シフトの調整や他部門との折衝準備に入り、他の三人は部屋に戻って途中の仕事を他の者に引き継ぎ、準備に取りかかる。
「エリー、これが支給備品の一覧だ。その他に持って行きたい物があれば、自分で調達して欲しい」
「分かりました」
さすがにこれまでの経験で慣れているシュレスタが、保管されている必要書類を迷わず書棚から取り出した。それをエリーシア達に渡しながら、気遣わしげに尋ねる。
「それから今更だが、馬には乗れるのか?」
「大丈夫です。森で暮らしていた頃は普段荷馬車を使っていましたが、父に『念の為、鞍無しでも馬を乗りこなせる様にしておけ』と、練習させられたので」
「それは良かったが……。出発前に、ちゃんと鞍を置いて、乗馬練習をしておいた方が良い。軍から貸与されるのは基本的に軍馬だから、乗る位置が高いだろうし、ちゃんと指示しないと動かない可能性もある」
その指摘に、エリーシアは思わず考え込んだ。
「言われてみればそうですね……。何とか時間を取って、練習してみます」
「それじゃあ魔術師長か副魔術師長の方から、近衛軍に話を通して貰った方が良いな」
そこでシュレスタは、サイラスに向き直った。
「サイラスは、その辺りは心配要らないな?」
その問いかけに、彼が事も無げに頷く。
「はい。トレリア国に居た頃は、何度か前線に派遣させられていますので、その手の経験は一通りあります」
「一応王子様だったのに?」
思わず不思議に思ったエリーシアが口を挟むと、サイラスが自嘲気味に付け加える。
「庶子で、国王に何番目の息子かもまともに覚えて貰って無かった奴の扱いとしては、そんなものだ。……そんな事より、ただでさえお前は女なんだから、色々準備が面倒だろうし、細々とした物はさっさと済ませろよ?」
半ば強引に話題を変えたサイラスに、エリーシアは気分を害した様に言い返した。
「細々? ちょっと止めてよね。一歩間違うと公害になる臭いを撒き散らしているどこぞのご令嬢の様に、戦場に化粧品の類を山ほど抱えて行くとでも思ってるわけ?」
「そうは言ってないが……。ほら、女は毎月、色々面倒だろうし……」
かなり言いにくそうに、周囲をはばかりながら小声で囁いたサイラスだったが、エリーシアはあっけらかんと普通の声量で言い放った。
「毎月? ああ、ひょっとして、月の物の事を言ってるわけ?」
その声に、周囲の者達がギョッとして視線を向ける中、サイラスは彼女の口を手で塞ぎつつ、小声で叱りつけた。
「お前! いきなりそんな事を大声で言うな! 少しは周りを気にしろ!」
しかしエリーシアは、口から彼の手を引っ剥がして忌々しげに言い返す。
「別に、仕事に必要な事なんだから、変に隠すような事じゃ無いでしょう?」
「それは確かに、そうかもしれないがな!」
「第一、それならこっちの部屋に引き上げてから、真っ先にこっそり魔導鏡で王宮侍医団のミシェラ先生に連絡を取って、周期調整薬を頼んだもの」
「いつの間に、そんな連絡取ってたんだよ……」
「だから半年だろうが一年だろうが、従軍業務ドンと来いよ。王宮生活より、寧ろ野営生活の方が性に合うしね」
そう言ってやる気満々で胸を叩いたエリーシアに、サイラスが思わず額を押さえて呻く。
「……お前はもう少し、女としての慎みとか、恥じらいという物は持ち合わせていないのか?」
「何寝言を言ってんのよ。一々そんな物に構ってたら、仕事にあぶれるわ」
「本当に、お前って奴は……」
疲れた様に溜め息を吐いたサイラスを、ここでシュレスタが気の毒そうな顔付きで宥めた。
「サイラス、この話題は、ここら辺で止めておこうか」
「はい……」
その声で何とか気を取り直したサイラスは、真顔になって一番の懸念を訴えた。
「取り敢えず一番の問題は、『できうる限りの自衛策』だと思います」
「確かにそうだろうな……」
途端に難しい顔になったシュレスタに、サイラスが思い付くまま考えを述べる。
「武術訓練の類を一切受けていないエリーの場合、武器の類は持つだけ無駄でしょうが、術式を封じた物を武器の形にしておけば、それだけで周囲に対する威嚇にはなると思いますが」
「術式を固定した物をこっそり隠し持つより、敢えて見せびらかして威圧するって事か……。そういうのって正直、あまり趣味じゃ無いんだけど」
エリーシアは途端に嫌そうな顔になったが、サイラスは淡々と話を進めた。
「そういう考え方もあるって事だ。そもそもお前、攻守で考えれば防御系だしな」
その断定口調に、エリーシアが素直に頷く。
「それは認めるわ。日常生活では滅多に攻撃系術式を全力行使する事なんか無かったもの」
「確かにそうだろうな」
「だから攻撃対象が個人が集団かで、対処法が随分違うと思うのよ。感覚的に良く分からないから、そこの所の意見を聞かせて欲しいんだけど」
「防御系の術式に関しては、俺も意見の摺り合わせをしておこうと思っていたんだ。これまでは身辺の防護なんて、あまり真面目に考えた事は無かったからな。効率的な魔力の配分を考慮しておきたい」
二人が真剣な表情でそんな事を言い合い始めたのを見て、シュレスタはどこか安堵した表情で頷いた。
「それでは二人で考えた内容を纏めて、私か副魔術師長に提出してくれ。一応内容を確認するから」
「分かりました」
「お願いします」
そしてその場を離れて自分の机に戻ったシュレスタだったが、二人が隣り合った机で何やら真剣に意見を戦わせている姿を見て、(あの二人なら、それほど心配は要らないだろう)と安心し、自分がしておくべき仕事に取りかかった。
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