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番外編 人知れぬ苦労が報われる時
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「……はぁ」
久々に祐司を自宅に招いて手料理を振る舞った綾乃だったが、食事中は笑顔で食べていた彼が、ソファーに移動して腰を下ろした途端、深い溜め息を吐いたのを見て、綾乃は首を傾げた。そしてキッチンで食器を片付けながら手早く二人分のお茶を淹れ、静かにソファーに歩み寄る。
「祐司さん、随分疲れているみたいですけど、今そんなにお仕事が大変なんですか?」
「あ、いや、仕事ではそんなに問題は無いんだ。ちょっと実家関係でゴタゴタしてるだけで」
目の前のローテーブルに湯飲みを二つ置きながら綾乃が問うと、祐司は慌てて弁解した。しかしそれを聞いた綾乃は、祐司の横に座りながら怪訝な顔を見せる。
「実家って……、ええと、ひょっとして貴子さんに関してですか? この前貴子さんが入籍したって聞きましたけど、まだ何か問題でも? 榊のおばさまとも少し前に電話でお話ししましたけど、特に隆也さんと貴子さんの結婚に反対って事は言ってませんでしたが。寧ろ歓迎してたと思いましたよ?」
旧知の人物を脳裏に思い浮かべ、(うん、嫁姑問題ってありえない)と一人で確信している綾乃を眺めながら、祐司は疲れた様に声を絞り出した。
「うん、問題は榊家の方じゃない。高木家で結納を取り仕切る事になったものだから……」
その台詞に、綾乃は本気で首を傾げた。
「あの……、お二人はもう入籍されたんですよね?」
「ああ」
「じゃあどうして、今更結納を? 順番がおかしくありませんか?」
そんな彼女の真っ当な主張を受け、祐司は溜め息を吐いてからこの間の事情を語り出した。
「それが……、親父は親父なりに血の繋がらない義理の娘の姉貴の事を、俺達が考えていた以上に長年心配していたみたいで。手元に引き取らないで全く面倒をみられなかった事を『まともに祝い事の一つもやってあげられなくて』と、もの凄く申し訳なく思ってたらしいんだ。。本当は成人式の時も、振袖一式を準備しようとしてたんだが、姉貴に『地元には不愉快な思い出が多いので、地元主催の成人式なんかには出ないで仕事をしますし、振袖も着る機会はありませんから結構です』って固辞された経緯があるんだ」
「でも貴子さんが高木家に引き取られ無かった事情って、おじさま達の責任じゃありませんよね? 仕方が無いと思いますし、貴子さんもお世話になるのは気が引けたんでしょうし」
両者の立場を慮りつつ、綾乃が無難な言葉で感想を述べたが、祐司は益々暗い表情になりつつ話を続けた。
「確かに綾乃の言う通りだし、本人がそう割り切ってくれれば良いんだがな。それで今回の姉貴の結婚で親父が無茶苦茶喜んで、『私達と正式に養子縁組した事だし、貴子ちゃんが恥ずかしくない様に、準備万端支度を整えてあげよう!』って張り切ってたんだが……」
「何か問題でも?」
「『立派な婚礼箪笥三点セットを』って意気込んでも、榊さんの実家には十分な収納スペースがあるから不要だからとやんわりと言い諭されたし」
「ええと……、確かに置き場所にスペースを取りますよね? 榊のおじさまの家は、都内の住宅事情から考えると、かなり恵まれていると思いますけど」
精一杯フォローしようと頑張った綾乃だったが、祐司は淡々と話を続けた。
「『挙式披露宴の費用を出してあげるから』って申し出ても、これまで姉貴と俺達の親族は没交渉だから、招待客は殆ど姉貴の友人や仕事上の付き合いのある人になるから、自分で負担するからと固辞されて……」
「事情が事情ですから、仕方がありませんね」
「『挙式と披露宴の会場確保や、仲人を含めた手配をしてあげよう』と考えても、榊さんの方で早々と会場は押さえていたらしくて。仲人も、榊さんの仕事上の付き合いから既に依頼済みで。……はっきり言って、俺達側で主導する事柄が殆ど無い状態なんだ」
そんな詳細を聞かされて、綾乃は何と言えば良いものかと少し悩んだ挙句、なるべく明るい口調で口にしてみた。
「あ、あのっ! それはそれで、楽で宜しいんじゃないかと思うんですけど!」
「『この期に及んで、貴子ちゃんにしてあげる事が何も無いなんて』っていじけて、親父が鬱々と塞ぎ込まなければな」
「…………」
遠い目をしながら説明された高木家の『事情』に、綾乃は竜司の心境を思って無言で項垂れた。そんな恋人の反応を見て、祐司は宥める様に苦笑交じりに話を続ける。
「それで、それをお袋か姉貴から伝え聞いたらしい榊さんが、『それでは順序が前後してしまいますが、まだ親同士の顔合わせはしていませんでしたから、それを兼ねて結納をしませんか? それでお義父さんの気が済まれるなら、両親共々予定は空けますから。それでそちらで諸々を手配して頂きたいのですが』って申し出てくれて、それに親父が嬉々として飛び付いたって訳だ」
それを聞いた綾乃は、未だに祐司には秘密だが“初恋のかっこいいお兄ちゃん”である隆也の、万事そつが無く頼りになる人柄を思い出し、満面の笑みで頷いた。
「良かったですね。さすが隆也さん! 結婚相手の実家への気配りも万全だわ」
しかし祐司はハイテンションな綾乃とは真逆に、がっくりと項垂れた。
「それで順調に事が進めば、万々歳なんだが……」
「え? まだ何か問題でも?」
「当の親父が、全然使い物にならない」
「はい?」
言われた意味が咄嗟に分からなかった綾乃が尋ね返すと、祐司は顔を上げて、真顔で訴え始めた。
「『結納で使う品物は? 会場は? 料理は? 服装は?』って一々テンパって、文字通り右往左往。お袋はお袋で『貴子がこんな優しい心配りができる、良い人と結婚できるなんて』って感極まって、十分おきに思考停止状態に陥ってる」
「……その情景が、目に見える様です」
以前彼の実家で顔を合わせた事のある、如何にも人の良さそうな夫婦の顔を思い浮かべた綾乃は、(そうだろうなぁ)と心の底から納得した。
「電話で進行状況を聞いてもなかなか要領を得ないから、何となく心配になって実家に様子を見に行ったら、話を聞いてから週が変わっても全く準備が進んでいなくて。さすがにキレて『そんなのは挙式披露宴を執り行うホテルなら、今時結納プランとかも設定してるだろ! 結納品とかも全部丸ごと準備してるし、スタッフも慣れてるから問題無い。榊さん側の都合を聞いて、そこに頼むぞ! 服装は和服正装、必要ならレンタルする。小物備品一式確認しておけ、分かったな!』って一喝して、その週のうちに俺が全部手配した」
「……ご苦労様です」
息子に叱り付けられている夫婦の姿までバッチリ想像できてしまった綾乃は、祐司の苦労を労った。それで幾分平常心を取り戻したらしい祐司は、再度小さく溜め息を吐いてから、苦笑気味に話を続ける。
「まあ、大した苦労じゃないさ。これ位で、親父達の気が済むならな。それに姉貴へのご祝儀の一部だと思えば、どうって事は無い。後は高木家側の親戚で、招待する人への事情説明と根回しかな?」
「それって何ですか?」
「実はそれも親父が気にして。『榊さん側と比べてこちらの親族が極端に少なかったりしたら、貴子ちゃんがあちらさんの手前、結婚してから肩身の狭い思いをしないだろうか』って気にし始めて」
それを聞いて、微笑ましく思った綾乃は、小さく笑いながら感想を述べた。
「さっきも聞きましたけど、お父さんは相当貴子さんの事を気にかけてたんですね」
「そうだな。それで、世間一般並みに招待する範囲の父方母方両方の親族に、俺と孝司で手分けして声をかけて、事情説明して出席をお願いしてる最中なんだ。未だに宇田川家に、隔意を持ってる人も多いしな。親父とお袋はさっきも言った通り、未だに使い物にならないし」
「本当に、お疲れさまです」
しみじみと同情する声をかけてから、綾乃は何を思ったか「ふふっ」と小さく笑いを漏らした。それを湯飲みに手を伸ばしてお茶を飲んでいた祐司が耳にして、不思議そうに尋ねる。
「綾乃、何がおかしいんだ?」
その問いかけに、綾乃は満々の笑みで答えた。
「祐司さんは、ご両親や貴子さんが大好きで、この間皆の為に頑張ってたんですね」
「大好きって……、家族だからこれ位当然だろう?」
祐司にしてみれば凄く当たり前の事を言われて、どうしてそんなに嬉しそうなんだろうと益々怪訝な顔になった。しかし彼のそんな戸惑いなど物ともせず、綾乃が笑顔のまま力強く主張を続ける。
「血が繋がっていても、もっと素っ気ない家族だっていますよ。現に、貴子さんの父方って、とんでもない人達じゃないですか」
「……まあな」
「でもそんな人達とは真逆に、家族の為にそんなに頑張る祐二さんって、素敵ですから」
宇田川家の事を思い出して一瞬苦々しい思いに駆られた祐司だったが、綾乃の台詞を聞いてついからかい混じりに聞いてみた。
「今回の事で、惚れ直したとか?」
「はい、惚れ直しました! 家族思いで優しい祐司さんって、格好良い上にとっても素敵で魅力的です! 貴子さんの為に、頑張って下さいね!」
てっきり照れまくると思っていた綾乃に、笑顔のまま力一杯断言されてしまった祐司は、一瞬固まった後、片手で口元を押さえて綾乃から僅かに視線を逸らした。
「……ああ、うん。そうか。頑張るよ」
そして「結婚祝い、何が良いかな~」と上機嫌で考えを巡らせている綾乃の横で、祐司は(俺、これだけで奔走した甲斐があったかも)と、普段だと照れたり恥ずかしがってなかなか口にして貰えない、彼女のストレートな言葉を聞けた幸運を、密かに噛みしめたのだった。
久々に祐司を自宅に招いて手料理を振る舞った綾乃だったが、食事中は笑顔で食べていた彼が、ソファーに移動して腰を下ろした途端、深い溜め息を吐いたのを見て、綾乃は首を傾げた。そしてキッチンで食器を片付けながら手早く二人分のお茶を淹れ、静かにソファーに歩み寄る。
「祐司さん、随分疲れているみたいですけど、今そんなにお仕事が大変なんですか?」
「あ、いや、仕事ではそんなに問題は無いんだ。ちょっと実家関係でゴタゴタしてるだけで」
目の前のローテーブルに湯飲みを二つ置きながら綾乃が問うと、祐司は慌てて弁解した。しかしそれを聞いた綾乃は、祐司の横に座りながら怪訝な顔を見せる。
「実家って……、ええと、ひょっとして貴子さんに関してですか? この前貴子さんが入籍したって聞きましたけど、まだ何か問題でも? 榊のおばさまとも少し前に電話でお話ししましたけど、特に隆也さんと貴子さんの結婚に反対って事は言ってませんでしたが。寧ろ歓迎してたと思いましたよ?」
旧知の人物を脳裏に思い浮かべ、(うん、嫁姑問題ってありえない)と一人で確信している綾乃を眺めながら、祐司は疲れた様に声を絞り出した。
「うん、問題は榊家の方じゃない。高木家で結納を取り仕切る事になったものだから……」
その台詞に、綾乃は本気で首を傾げた。
「あの……、お二人はもう入籍されたんですよね?」
「ああ」
「じゃあどうして、今更結納を? 順番がおかしくありませんか?」
そんな彼女の真っ当な主張を受け、祐司は溜め息を吐いてからこの間の事情を語り出した。
「それが……、親父は親父なりに血の繋がらない義理の娘の姉貴の事を、俺達が考えていた以上に長年心配していたみたいで。手元に引き取らないで全く面倒をみられなかった事を『まともに祝い事の一つもやってあげられなくて』と、もの凄く申し訳なく思ってたらしいんだ。。本当は成人式の時も、振袖一式を準備しようとしてたんだが、姉貴に『地元には不愉快な思い出が多いので、地元主催の成人式なんかには出ないで仕事をしますし、振袖も着る機会はありませんから結構です』って固辞された経緯があるんだ」
「でも貴子さんが高木家に引き取られ無かった事情って、おじさま達の責任じゃありませんよね? 仕方が無いと思いますし、貴子さんもお世話になるのは気が引けたんでしょうし」
両者の立場を慮りつつ、綾乃が無難な言葉で感想を述べたが、祐司は益々暗い表情になりつつ話を続けた。
「確かに綾乃の言う通りだし、本人がそう割り切ってくれれば良いんだがな。それで今回の姉貴の結婚で親父が無茶苦茶喜んで、『私達と正式に養子縁組した事だし、貴子ちゃんが恥ずかしくない様に、準備万端支度を整えてあげよう!』って張り切ってたんだが……」
「何か問題でも?」
「『立派な婚礼箪笥三点セットを』って意気込んでも、榊さんの実家には十分な収納スペースがあるから不要だからとやんわりと言い諭されたし」
「ええと……、確かに置き場所にスペースを取りますよね? 榊のおじさまの家は、都内の住宅事情から考えると、かなり恵まれていると思いますけど」
精一杯フォローしようと頑張った綾乃だったが、祐司は淡々と話を続けた。
「『挙式披露宴の費用を出してあげるから』って申し出ても、これまで姉貴と俺達の親族は没交渉だから、招待客は殆ど姉貴の友人や仕事上の付き合いのある人になるから、自分で負担するからと固辞されて……」
「事情が事情ですから、仕方がありませんね」
「『挙式と披露宴の会場確保や、仲人を含めた手配をしてあげよう』と考えても、榊さんの方で早々と会場は押さえていたらしくて。仲人も、榊さんの仕事上の付き合いから既に依頼済みで。……はっきり言って、俺達側で主導する事柄が殆ど無い状態なんだ」
そんな詳細を聞かされて、綾乃は何と言えば良いものかと少し悩んだ挙句、なるべく明るい口調で口にしてみた。
「あ、あのっ! それはそれで、楽で宜しいんじゃないかと思うんですけど!」
「『この期に及んで、貴子ちゃんにしてあげる事が何も無いなんて』っていじけて、親父が鬱々と塞ぎ込まなければな」
「…………」
遠い目をしながら説明された高木家の『事情』に、綾乃は竜司の心境を思って無言で項垂れた。そんな恋人の反応を見て、祐司は宥める様に苦笑交じりに話を続ける。
「それで、それをお袋か姉貴から伝え聞いたらしい榊さんが、『それでは順序が前後してしまいますが、まだ親同士の顔合わせはしていませんでしたから、それを兼ねて結納をしませんか? それでお義父さんの気が済まれるなら、両親共々予定は空けますから。それでそちらで諸々を手配して頂きたいのですが』って申し出てくれて、それに親父が嬉々として飛び付いたって訳だ」
それを聞いた綾乃は、未だに祐司には秘密だが“初恋のかっこいいお兄ちゃん”である隆也の、万事そつが無く頼りになる人柄を思い出し、満面の笑みで頷いた。
「良かったですね。さすが隆也さん! 結婚相手の実家への気配りも万全だわ」
しかし祐司はハイテンションな綾乃とは真逆に、がっくりと項垂れた。
「それで順調に事が進めば、万々歳なんだが……」
「え? まだ何か問題でも?」
「当の親父が、全然使い物にならない」
「はい?」
言われた意味が咄嗟に分からなかった綾乃が尋ね返すと、祐司は顔を上げて、真顔で訴え始めた。
「『結納で使う品物は? 会場は? 料理は? 服装は?』って一々テンパって、文字通り右往左往。お袋はお袋で『貴子がこんな優しい心配りができる、良い人と結婚できるなんて』って感極まって、十分おきに思考停止状態に陥ってる」
「……その情景が、目に見える様です」
以前彼の実家で顔を合わせた事のある、如何にも人の良さそうな夫婦の顔を思い浮かべた綾乃は、(そうだろうなぁ)と心の底から納得した。
「電話で進行状況を聞いてもなかなか要領を得ないから、何となく心配になって実家に様子を見に行ったら、話を聞いてから週が変わっても全く準備が進んでいなくて。さすがにキレて『そんなのは挙式披露宴を執り行うホテルなら、今時結納プランとかも設定してるだろ! 結納品とかも全部丸ごと準備してるし、スタッフも慣れてるから問題無い。榊さん側の都合を聞いて、そこに頼むぞ! 服装は和服正装、必要ならレンタルする。小物備品一式確認しておけ、分かったな!』って一喝して、その週のうちに俺が全部手配した」
「……ご苦労様です」
息子に叱り付けられている夫婦の姿までバッチリ想像できてしまった綾乃は、祐司の苦労を労った。それで幾分平常心を取り戻したらしい祐司は、再度小さく溜め息を吐いてから、苦笑気味に話を続ける。
「まあ、大した苦労じゃないさ。これ位で、親父達の気が済むならな。それに姉貴へのご祝儀の一部だと思えば、どうって事は無い。後は高木家側の親戚で、招待する人への事情説明と根回しかな?」
「それって何ですか?」
「実はそれも親父が気にして。『榊さん側と比べてこちらの親族が極端に少なかったりしたら、貴子ちゃんがあちらさんの手前、結婚してから肩身の狭い思いをしないだろうか』って気にし始めて」
それを聞いて、微笑ましく思った綾乃は、小さく笑いながら感想を述べた。
「さっきも聞きましたけど、お父さんは相当貴子さんの事を気にかけてたんですね」
「そうだな。それで、世間一般並みに招待する範囲の父方母方両方の親族に、俺と孝司で手分けして声をかけて、事情説明して出席をお願いしてる最中なんだ。未だに宇田川家に、隔意を持ってる人も多いしな。親父とお袋はさっきも言った通り、未だに使い物にならないし」
「本当に、お疲れさまです」
しみじみと同情する声をかけてから、綾乃は何を思ったか「ふふっ」と小さく笑いを漏らした。それを湯飲みに手を伸ばしてお茶を飲んでいた祐司が耳にして、不思議そうに尋ねる。
「綾乃、何がおかしいんだ?」
その問いかけに、綾乃は満々の笑みで答えた。
「祐司さんは、ご両親や貴子さんが大好きで、この間皆の為に頑張ってたんですね」
「大好きって……、家族だからこれ位当然だろう?」
祐司にしてみれば凄く当たり前の事を言われて、どうしてそんなに嬉しそうなんだろうと益々怪訝な顔になった。しかし彼のそんな戸惑いなど物ともせず、綾乃が笑顔のまま力強く主張を続ける。
「血が繋がっていても、もっと素っ気ない家族だっていますよ。現に、貴子さんの父方って、とんでもない人達じゃないですか」
「……まあな」
「でもそんな人達とは真逆に、家族の為にそんなに頑張る祐二さんって、素敵ですから」
宇田川家の事を思い出して一瞬苦々しい思いに駆られた祐司だったが、綾乃の台詞を聞いてついからかい混じりに聞いてみた。
「今回の事で、惚れ直したとか?」
「はい、惚れ直しました! 家族思いで優しい祐司さんって、格好良い上にとっても素敵で魅力的です! 貴子さんの為に、頑張って下さいね!」
てっきり照れまくると思っていた綾乃に、笑顔のまま力一杯断言されてしまった祐司は、一瞬固まった後、片手で口元を押さえて綾乃から僅かに視線を逸らした。
「……ああ、うん。そうか。頑張るよ」
そして「結婚祝い、何が良いかな~」と上機嫌で考えを巡らせている綾乃の横で、祐司は(俺、これだけで奔走した甲斐があったかも)と、普段だと照れたり恥ずかしがってなかなか口にして貰えない、彼女のストレートな言葉を聞けた幸運を、密かに噛みしめたのだった。
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