33 / 49
第3章 陰謀
(6)急転直下
しおりを挟む
藍里達が少し離れた木立の陰から、こっそりと様子を窺っていると、どうやら広場らしき所で待ち構えていたらしいバーンの所に、家畜達を引き連れてきた男達の中でも、まとめ役らしき男が挨拶の為か歩み寄った。
「やあ、今回も随分連れて来たな。馬に牛に猪に狼か? ご苦労な事だ」
腕組みした上、尊大な物言いで出迎えたバーンだったが、相手はそれを気にした素振りは見せず、素っ気なく応じる。
「まあ、連れて来るだけなら、大した手間じゃありませんから。そっちの猪や狼を生け捕りにする時には、何人か酷い怪我人が出たみたいですがね」
「大事の前だ。それ位、仕方がないだろう。寧ろ陰ながら偉業に関われた事を、感謝するべきだな」
しかしここで相手がはっきりと不愉快そうに顔をしかめたにも関わらず、ふんぞり返っていたバーンはそれに気が付かないまま、作業の進み具合を見守った。
バーンが同行して来た者が五人程居るらしく、獣達を引き連れてきた来たほぼ同数の者達と一緒になって、不思議な空間の方へと家畜達を追いやっていた。木製の檻に入れてあった猪や狼などは、扉を開けた瞬間突かれたり噛まれたりしそうになってさすがに難儀していたが、ごく小さな魔術を使って炎を出して誘導する様子を眺めながら、バーンがふと思い出した様に目の前の男に尋ねた。
「ところでここに来る道すがら、殿下達の消息について、何か聞き込んで来なかったか?」
その問いに彼は少し驚いた様に目を見張り、次いで静かに首を振った。
「いえ、領内から森に入るまでは、そんな話は少しも。もし殿下が森を脱出していたら、かなりの騒ぎになっていると思いますが」
しかしその答えは予想の範疇の物であり、バーンは怒り出したりはせずに真剣な表情で考え込んだ。
「そうなるとやはりウィル共々、魔獣にきれいさっぱりやられちまったのか? それはそれで手間が省けて嬉しいが、ちゃんと死体を持って行かないと、後でオランデュー伯爵に何を言われるか分からないからな」
「少し魔獣の状態が落ち着いたら、捜索に出ますか?」
「そうだな。あっさりと入口付近でくたばってくれたら、手間がかからなかったものを……。どこまで忌々しい奴」
そんなろくでもない相談をして、無意識に舌打ちしたバーンの背後から、突如として鋭い声が響き渡った。
「それは悪かったな! だが、バーン! 仮にも子爵家の一員だと言うつもりなら、他人に頼らず自分自身の手で俺の息の根を止めた上で、死体を引きずって行く位の気概を見せろ!」
「なっ! ウィラード!?」
「それに殿下まで……」
既に長剣を抜き去った状態で怒りも露わに広場に足を踏み入れてきたウィルの背後から、ぞろぞろと同行者達が現れた為、その場に居合わせた者は揃って蒼白になった。しかしそんな彼らに向かって、ルーカスがお愛想笑いを振り撒く。
「どうした? 幽霊にでも出くわした様な顔をして。行方不明になった俺達を、皆で探してくれていたんじゃないのか?」
「あ、は、はい、それはもう!」
「皆で心配しておりました」
「皆様、良くご無事で!」
このままごまかせるかもと思ったのか、つい何人かが釣られた様に愛想笑いを浮かべつつ心にも無い事を口走った為、忽ちルーカスは憤怒の形相になって、こめかみに青筋を浮かべた。
「世迷い言はそれ位にしておけ。この状況下で妄言を吐けるとはある意味天晴れだが、もう言い逃れはできないぞ」
その宣言に後が無いと漸く悟った面々は瞬時に殺気を漲らせ、それを煽る様にバーンが叫んだ。
「ちいっ!! こうなったら手っ取り早く、全員殺してしまえ! 下手に強い魔術を使ったら忽ち魔獣が寄って来るから、こいつらは大して魔術を使えないぞ! 数はこっちの人数がはるかに上だ!」
「おう!」
「やっちまおうぜ!」
「死体を探す手間が省けたぞ!」
そう口々に叫ぶなり、得物を手にして自分達に突進してきた男達を見て、ルーカスは心底呆れ返った呟きを漏らした。
「こいつら、馬鹿か?」
「人並みの判断力があるなら、こんな馬鹿な事はしませんから」
「それもそうか」
律儀に応じたジークにルーカスが真顔で頷いているうちに、藍里は彼らの一歩前に出て、勢い良い藍華を振りかざした。
「同感! 聖騎士が魔術に頼るばかりの代物だと思ってたら、痛い目見るわよ!? 少なくとも、私は魔術抜きでもやる気満々だからね! はぁあぁぁ-ーっ!! っと、うりゃあぁぁ-ーっ!!」
「ぐわぁっ!!」
「げえぇぇっ!!」
突進してきた男の一人が振り下ろした刃先で肩をざっくり切り裂かれ、振り回した勢いそのままに、反対側の石突きで眉間を強打された男は、そのまま仰向け地面に倒れて沈黙した。
「魔術が使えなくて不利なのって、寧ろ向こうの方じゃありませんか?」
セレナの素朴な疑問に、ジークは生真面目に指示を出す。
「無駄話は、全員叩きのめしてからだ」
「確かにな。さっさと制圧するぞ」
「了解」
そして淡々と向かってくる男達を、大した魔術を使わずに武力だけで制圧し始めた所で、バーンが暴走した。
「くっ、こいつら散々馬鹿にしやがって! 食らえ! ディクス、バン、レ、リーグァ!」
彼が呪文を唱えると同時に巨大な炎の壁が出現し、為す術がない家畜達を飲み込みながら、素早い動きでルーカス達に迫った。それを見た瞬間ジークが、普段だったら間違っても口にしない悪態を吐き出す。
「何しやがる! この穀潰しの低脳野郎が!」
正直、この魔術がどうこうと言うより、普段謹厳実直を絵に描いた様なジークの暴言に、藍里は勿論、ルーカス達も揃って度肝を抜かれた。そんな面々の前でジークが難無くその炎を無力化させると、バーンが忌々しげに喚いてくる。
「ちっ、外したか。だが俺だって、これ位はできるんだぞ!!」
「これ位防ぐなど造作も無い! それより、さっきの魔術の行使でそれなりの魔力を放出したから、ここに魔獣が寄って来るぞ!」
バーンの台詞に感銘を受けるどころか怒りの形相で怒鳴り返したジークだったが、途端にバーンはせせら笑った。
「はっ! あいつらはお前達を襲わせる為に、殆どをデスナール領の方に誘導しておいたんだ。今の魔術を察知して来るにしても、暫く時間がかかる。その前にお前達を始末してトンズラすれば良いだけの話だ。そんな事も分からないのか!?」
「ちっ! 貴様ら本当に、どこまで頭が足りないんだ! それは、これまでに発生させた魔獣の話だろう。少し前からそこに入って行った、獣達に関してはどうなんだ?」
「え?」
まだ分かっていないバーン達に、ジークが盛大に舌打ちしてから指摘すると、それを聞いた男達は漸くその危険性に気付いたらしく、瞬時に青ざめた。しかしそれと同時に、先程まで次々と獣達が飲み込まれて行った不思議な空間から、異形な物が唸り声を上げながら、次々飛び出して来る。
「グルゥッッ!」
「ブシャァ-ーッ!」
「ギェエアァ-ッ!」
「う、うわぁっ!! 魔獣がっ!!」
「こっちに来るなぁぁーっ!!」
「誰か! 助けてくれぇぇっ!!」
当然魔獣達は手当たり次第に目についた人間や家畜、同様の魔獣に襲いかかり、その場の収拾が付かなくなった。
予め予想していた為、いち早く獣が出入りしている空間から距離を取っていた藍里達だったが、バーン達のあまりの無様ぶりに、襲いかかってくる魔獣を避けながら、呆れ果てた叫びを上げる。
「こいつら、本当に馬鹿だな!」
「もの凄く同感!」
「二人とも、昨日と同様、必要なら魔術を使って対応して下さい!」
「分かった」
「任せて!」
本音を言えば、保護する立場の二人を伴って、さっさとこの場を離脱したかったジークだったが、そうも言っていられずに続けざまに指示を出した。
「セレナは二人に付いて、討ち漏らした時のフォローを」
「分かりました」
「ウィル、生き証人が全員居なくなったら拙い。腹が立つが、連中を死なせない程度に助けるぞ」
「本当に腹が立つな!」
「気持ちは分かるが、ここは抑えろ! 俺はお前以上に不本意なんだ!」
互いに腹を立てて怒鳴り合いながらも、ジークとウィルは逃げ惑っている男達を救出、及び身柄を確保するべく動き出した。そんな一気に混沌としてきた現場でも、藍里は嬉々として小手先の魔術で魔獣の動きを抑えつつ、藍華でとどめを刺していく。
「アム、シェス、タ、ニューム」
「グアッ!?」
また一頭突進してきた猪もどきに向かって、木の根元に転がっていた大きめの石を魔術で転がすと、それをものの見事にひずめで踏みつけた魔獣がバランスを崩す。そこにすかさず藍里は藍華を突き出した。
「とりぁあぁぁっ!!」
「ギェェッ!」
「また一丁上がり、っと!!」
そこで他に向かって来ている魔獣は居ないかと、周囲を見回した藍里に向かって、セレナとルーカスから焦り気味の口調で警告された。
「アイリ様!避けて下さい!」
「行ったぞ!!」
「え?」
慌てて声のした方に視線を向けると、少し離れた所で熊もどきに襲われてパニックになったらしい男の、流れ弾ならぬ魔術による見当外れの衝撃波が、ほぼ一直線に藍里目掛けて向かって来る所だった。
「うわっ! ちょっとタンマ!! 圧、障、解!」
殆ど条件反射で藍華を放り出し、目の前で腕を交差させた上で、紅蓮の防御魔術を起動させた藍里だったが、身体への衝撃は綺麗に相殺する事ができたものの、さすがに衝撃波そのものを弾き返したり周囲に受け流す事はできず、そのまま後方に弾き飛ばされる。
(取り敢えず紅蓮で防御はできたけど、拙い! 防ぎ切れない!)
結構距離はあるものの、このまま一直線に後方に飛ばされた場合、そこに存在する物を思い出して、飛ばされながら藍里は青ざめた。同様に藍里が弾き飛ばされたのを見て、セレナとルーカスが悲鳴交じりの叫び声を上げる。
「アイリ、回避しろ! 飛び込むぞ!?」
「アイリ様!!」
ルーカスが指摘するまでもなく、自分の背後に存在している物を認識していた藍里だったが、そのまま為す術なく一直線に、先程複数の魔獣が飛び出して来た、不思議な揺らぎを見せる空間に向かって飛んで行き、その姿を消した。
「やあ、今回も随分連れて来たな。馬に牛に猪に狼か? ご苦労な事だ」
腕組みした上、尊大な物言いで出迎えたバーンだったが、相手はそれを気にした素振りは見せず、素っ気なく応じる。
「まあ、連れて来るだけなら、大した手間じゃありませんから。そっちの猪や狼を生け捕りにする時には、何人か酷い怪我人が出たみたいですがね」
「大事の前だ。それ位、仕方がないだろう。寧ろ陰ながら偉業に関われた事を、感謝するべきだな」
しかしここで相手がはっきりと不愉快そうに顔をしかめたにも関わらず、ふんぞり返っていたバーンはそれに気が付かないまま、作業の進み具合を見守った。
バーンが同行して来た者が五人程居るらしく、獣達を引き連れてきた来たほぼ同数の者達と一緒になって、不思議な空間の方へと家畜達を追いやっていた。木製の檻に入れてあった猪や狼などは、扉を開けた瞬間突かれたり噛まれたりしそうになってさすがに難儀していたが、ごく小さな魔術を使って炎を出して誘導する様子を眺めながら、バーンがふと思い出した様に目の前の男に尋ねた。
「ところでここに来る道すがら、殿下達の消息について、何か聞き込んで来なかったか?」
その問いに彼は少し驚いた様に目を見張り、次いで静かに首を振った。
「いえ、領内から森に入るまでは、そんな話は少しも。もし殿下が森を脱出していたら、かなりの騒ぎになっていると思いますが」
しかしその答えは予想の範疇の物であり、バーンは怒り出したりはせずに真剣な表情で考え込んだ。
「そうなるとやはりウィル共々、魔獣にきれいさっぱりやられちまったのか? それはそれで手間が省けて嬉しいが、ちゃんと死体を持って行かないと、後でオランデュー伯爵に何を言われるか分からないからな」
「少し魔獣の状態が落ち着いたら、捜索に出ますか?」
「そうだな。あっさりと入口付近でくたばってくれたら、手間がかからなかったものを……。どこまで忌々しい奴」
そんなろくでもない相談をして、無意識に舌打ちしたバーンの背後から、突如として鋭い声が響き渡った。
「それは悪かったな! だが、バーン! 仮にも子爵家の一員だと言うつもりなら、他人に頼らず自分自身の手で俺の息の根を止めた上で、死体を引きずって行く位の気概を見せろ!」
「なっ! ウィラード!?」
「それに殿下まで……」
既に長剣を抜き去った状態で怒りも露わに広場に足を踏み入れてきたウィルの背後から、ぞろぞろと同行者達が現れた為、その場に居合わせた者は揃って蒼白になった。しかしそんな彼らに向かって、ルーカスがお愛想笑いを振り撒く。
「どうした? 幽霊にでも出くわした様な顔をして。行方不明になった俺達を、皆で探してくれていたんじゃないのか?」
「あ、は、はい、それはもう!」
「皆で心配しておりました」
「皆様、良くご無事で!」
このままごまかせるかもと思ったのか、つい何人かが釣られた様に愛想笑いを浮かべつつ心にも無い事を口走った為、忽ちルーカスは憤怒の形相になって、こめかみに青筋を浮かべた。
「世迷い言はそれ位にしておけ。この状況下で妄言を吐けるとはある意味天晴れだが、もう言い逃れはできないぞ」
その宣言に後が無いと漸く悟った面々は瞬時に殺気を漲らせ、それを煽る様にバーンが叫んだ。
「ちいっ!! こうなったら手っ取り早く、全員殺してしまえ! 下手に強い魔術を使ったら忽ち魔獣が寄って来るから、こいつらは大して魔術を使えないぞ! 数はこっちの人数がはるかに上だ!」
「おう!」
「やっちまおうぜ!」
「死体を探す手間が省けたぞ!」
そう口々に叫ぶなり、得物を手にして自分達に突進してきた男達を見て、ルーカスは心底呆れ返った呟きを漏らした。
「こいつら、馬鹿か?」
「人並みの判断力があるなら、こんな馬鹿な事はしませんから」
「それもそうか」
律儀に応じたジークにルーカスが真顔で頷いているうちに、藍里は彼らの一歩前に出て、勢い良い藍華を振りかざした。
「同感! 聖騎士が魔術に頼るばかりの代物だと思ってたら、痛い目見るわよ!? 少なくとも、私は魔術抜きでもやる気満々だからね! はぁあぁぁ-ーっ!! っと、うりゃあぁぁ-ーっ!!」
「ぐわぁっ!!」
「げえぇぇっ!!」
突進してきた男の一人が振り下ろした刃先で肩をざっくり切り裂かれ、振り回した勢いそのままに、反対側の石突きで眉間を強打された男は、そのまま仰向け地面に倒れて沈黙した。
「魔術が使えなくて不利なのって、寧ろ向こうの方じゃありませんか?」
セレナの素朴な疑問に、ジークは生真面目に指示を出す。
「無駄話は、全員叩きのめしてからだ」
「確かにな。さっさと制圧するぞ」
「了解」
そして淡々と向かってくる男達を、大した魔術を使わずに武力だけで制圧し始めた所で、バーンが暴走した。
「くっ、こいつら散々馬鹿にしやがって! 食らえ! ディクス、バン、レ、リーグァ!」
彼が呪文を唱えると同時に巨大な炎の壁が出現し、為す術がない家畜達を飲み込みながら、素早い動きでルーカス達に迫った。それを見た瞬間ジークが、普段だったら間違っても口にしない悪態を吐き出す。
「何しやがる! この穀潰しの低脳野郎が!」
正直、この魔術がどうこうと言うより、普段謹厳実直を絵に描いた様なジークの暴言に、藍里は勿論、ルーカス達も揃って度肝を抜かれた。そんな面々の前でジークが難無くその炎を無力化させると、バーンが忌々しげに喚いてくる。
「ちっ、外したか。だが俺だって、これ位はできるんだぞ!!」
「これ位防ぐなど造作も無い! それより、さっきの魔術の行使でそれなりの魔力を放出したから、ここに魔獣が寄って来るぞ!」
バーンの台詞に感銘を受けるどころか怒りの形相で怒鳴り返したジークだったが、途端にバーンはせせら笑った。
「はっ! あいつらはお前達を襲わせる為に、殆どをデスナール領の方に誘導しておいたんだ。今の魔術を察知して来るにしても、暫く時間がかかる。その前にお前達を始末してトンズラすれば良いだけの話だ。そんな事も分からないのか!?」
「ちっ! 貴様ら本当に、どこまで頭が足りないんだ! それは、これまでに発生させた魔獣の話だろう。少し前からそこに入って行った、獣達に関してはどうなんだ?」
「え?」
まだ分かっていないバーン達に、ジークが盛大に舌打ちしてから指摘すると、それを聞いた男達は漸くその危険性に気付いたらしく、瞬時に青ざめた。しかしそれと同時に、先程まで次々と獣達が飲み込まれて行った不思議な空間から、異形な物が唸り声を上げながら、次々飛び出して来る。
「グルゥッッ!」
「ブシャァ-ーッ!」
「ギェエアァ-ッ!」
「う、うわぁっ!! 魔獣がっ!!」
「こっちに来るなぁぁーっ!!」
「誰か! 助けてくれぇぇっ!!」
当然魔獣達は手当たり次第に目についた人間や家畜、同様の魔獣に襲いかかり、その場の収拾が付かなくなった。
予め予想していた為、いち早く獣が出入りしている空間から距離を取っていた藍里達だったが、バーン達のあまりの無様ぶりに、襲いかかってくる魔獣を避けながら、呆れ果てた叫びを上げる。
「こいつら、本当に馬鹿だな!」
「もの凄く同感!」
「二人とも、昨日と同様、必要なら魔術を使って対応して下さい!」
「分かった」
「任せて!」
本音を言えば、保護する立場の二人を伴って、さっさとこの場を離脱したかったジークだったが、そうも言っていられずに続けざまに指示を出した。
「セレナは二人に付いて、討ち漏らした時のフォローを」
「分かりました」
「ウィル、生き証人が全員居なくなったら拙い。腹が立つが、連中を死なせない程度に助けるぞ」
「本当に腹が立つな!」
「気持ちは分かるが、ここは抑えろ! 俺はお前以上に不本意なんだ!」
互いに腹を立てて怒鳴り合いながらも、ジークとウィルは逃げ惑っている男達を救出、及び身柄を確保するべく動き出した。そんな一気に混沌としてきた現場でも、藍里は嬉々として小手先の魔術で魔獣の動きを抑えつつ、藍華でとどめを刺していく。
「アム、シェス、タ、ニューム」
「グアッ!?」
また一頭突進してきた猪もどきに向かって、木の根元に転がっていた大きめの石を魔術で転がすと、それをものの見事にひずめで踏みつけた魔獣がバランスを崩す。そこにすかさず藍里は藍華を突き出した。
「とりぁあぁぁっ!!」
「ギェェッ!」
「また一丁上がり、っと!!」
そこで他に向かって来ている魔獣は居ないかと、周囲を見回した藍里に向かって、セレナとルーカスから焦り気味の口調で警告された。
「アイリ様!避けて下さい!」
「行ったぞ!!」
「え?」
慌てて声のした方に視線を向けると、少し離れた所で熊もどきに襲われてパニックになったらしい男の、流れ弾ならぬ魔術による見当外れの衝撃波が、ほぼ一直線に藍里目掛けて向かって来る所だった。
「うわっ! ちょっとタンマ!! 圧、障、解!」
殆ど条件反射で藍華を放り出し、目の前で腕を交差させた上で、紅蓮の防御魔術を起動させた藍里だったが、身体への衝撃は綺麗に相殺する事ができたものの、さすがに衝撃波そのものを弾き返したり周囲に受け流す事はできず、そのまま後方に弾き飛ばされる。
(取り敢えず紅蓮で防御はできたけど、拙い! 防ぎ切れない!)
結構距離はあるものの、このまま一直線に後方に飛ばされた場合、そこに存在する物を思い出して、飛ばされながら藍里は青ざめた。同様に藍里が弾き飛ばされたのを見て、セレナとルーカスが悲鳴交じりの叫び声を上げる。
「アイリ、回避しろ! 飛び込むぞ!?」
「アイリ様!!」
ルーカスが指摘するまでもなく、自分の背後に存在している物を認識していた藍里だったが、そのまま為す術なく一直線に、先程複数の魔獣が飛び出して来た、不思議な揺らぎを見せる空間に向かって飛んで行き、その姿を消した。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
ユーズド・カー
ACE
恋愛
19歳の青年、海野勇太には特殊なフェチがあった。
ある日、ネット掲示板でErikaという女性と知り合い、彼女の車でドライブ旅に出かけることとなる。
刺激的な日々を過ごす一方で、一人の女性を前に様々な葛藤に溺れていく。
全てに失望していた彼が非日常を味わった先で得られたものとは…。
”普通の人生”に憧れてやまない青年と”普通の人生”に辟易する女性のひと夏の物語。
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~
白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。
日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。
ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。
目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ!
大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。
【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】
護国の鳥
凪子
ファンタジー
異世界×士官学校×サスペンス!!
サイクロイド士官学校はエスペラント帝国北西にある、国内最高峰の名門校である。
周囲を海に囲われた孤島を学び舎とするのは、十五歳の選りすぐりの少年達だった。
首席の問題児と呼ばれる美貌の少年ルート、天真爛漫で無邪気な子供フィン、軽薄で余裕綽々のレッド、大貴族の令息ユリシス。
同じ班に編成された彼らは、教官のルベリエや医務官のラグランジュ達と共に、士官候補生としての苛酷な訓練生活を送っていた。
外の世界から厳重に隔離され、治外法権下に置かれているサイクロイドでは、生徒の死すら明るみに出ることはない。
ある日同級生の突然死を目の当たりにし、ユリシスは不審を抱く。
校内に潜む闇と秘められた事実に近づいた四人は、否応なしに事件に巻き込まれていく……!
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
ポリ 外丸
ファンタジー
普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。
海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。
その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。
もう一度もらった命。
啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。
前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる