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第2章 魔境への道程
(9)白虹の用途
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襲撃を受けつつも、旅程には大した問題は無く西部地方を進んでいた藍里達は、森の中の細い道から再び人が行き交う街道に入り、畑を抜けて徐々に集落の中に入って来ていた。何気なく馬車の窓にかかっているカーテンを引き開け、外の風景を確認した藍里は、率直な感想を漏らす。
「随分、周りの様子が賑やかになってきたわね」
「そうですね。デスナール子爵領内でも、子爵家の館があるザルベスの近郊に入りましたから」
「ふぅん……」
セレナの説明を聞いて、そのまま興味深そうに外を眺めていた藍里に、向かい側に座るセレナから、控えめに声がかけられる。
「あの、アイリ様? その白虹の事ですが……」
「これがどうかした?」
ただ座っている手持ち無沙汰を紛らわせる様に、藍里が少し前に紅蓮から袋ごと取り出し、三個だけ取り出して左手の中で握って転がしていた白虹について、セレナが問いかけると、藍里が不思議そうに掌を開いてみせた。そこにある三個のビー玉状の物を改めて眺めながら、セレナがこの間抱えていた疑問を口にする。
「その……、それをこれまで通って来た道に置いてきたり、昨日は捕らえて放置してきた襲撃者の懐き入れておきましたよね? ルーカス殿下も尋ねておられましたが、それは来住家から武器として頂いて来たのでは無いのですか?」
それに藍里は苦笑いで答えた。
「確かに武器なんだけどね。このままだと別に危なく無いのよ。ほら、持ってみて?」
「はぁ……」
確かにこれまで見ても不審な所は無かった代物であり、セレナは恐れる事無く一つ受け取って、窓から差し込む日の光にかざしてみる。それは光を受けてキラキラと輝き、セレナは思わず感嘆の溜め息を漏らした。
「本当に綺麗ですね」
「やっぱりこういうのって、アルデインはともかく、リスベラントでは出回って無い?」
その問いに、セレナは白虹を藍里に返しながら、真顔で頷いた。
「そうですね。全体的に濃い色を付けたガラス玉の類はありますが、こういう輝くラメを封入したり、光を受けて虹色に光る物は、お目にかかれないと思います」
「でしょうね。そこら辺を踏まえて準備した一成さんって、界琉に負けず劣らず底意地が悪いかも……」
そこで何やらぶつぶつと独り言を言い出した藍里を、セレナが怪訝な顔で見やった。
「アイリ様?」
「ううん、何でもない。取り敢えず今の状態だったら安全だから」
「それはそれで宜しいのですが……」
「あれ? 何か他に気になる事でも?」
急に沈んだ表情になったセレナを見て藍里が尋ねると、彼女は気落ちした様子のまま話を続けた。
「いえ、大した事では無いのですが……。例の御前試合の時も、アイリ様は弓をお持ちになっていた事を、お話になっておられませんでしたし。私達は、それほど信用されていないのかと……」
確かに「敵を欺くには、まず味方から」と伯父達に主張され、御前試合でセレナ達に結構気を揉ませる結果になった事は認識していた藍里は、申し訳無さそうに言い出した。
「ああ、うん。紫焔の事か……。まあ、それを言われるとね。返す言葉が無いんだけど……。今回のこれに関しては、不必要に心配させない為って言うか、何て言うか。セレナさん。ちょっと外に声が漏れない様にして貰って良い?」
「はい。それは構いませんが……」
怪訝な顔をしながらも、セレナはすぐさま呪文を唱え、馬車の中の音が外に漏れない様にした。
「お待たせしました。どうぞ」
「本当の事を言うと、これって強いて言えば、爆弾みたいな物で」
「ばっ、爆弾!? そんな物騒な物を、紅蓮に封じて持ち歩いていらっしゃったんですか!?」
あまりにもサラッと言われた内容に、セレナが声を荒げて藍里の手元を凝視したが、その反応が十分予想できていた藍里は、困った様に肩を竦めた。
「だから、そんな風に心配されたり怒られると思って、秘密にしていたのよね~」
「ですが!」
「大丈夫。スイッチを押さない限り、絶対爆発しないから。だからあちこちにバラまいて来たんだし。いわば保険代わりよ」
「スイッチ、ですか?」
セレナは(そんな物が、それのどこに)と当惑しながら藍里の手の中の物を凝視したが、相手が落ち着き払っている為、いつまでも取り乱してはいられないと腹を括った。
「益々意味が分からなくなってきましたが……。取り敢えず、本当に安全なんですね?」
「それは大丈夫。心配しないで」
笑顔で太鼓判を押した藍里をセレナは全面的に信用する事にしたが、まだ少し信じかねる様な顔付きで呟いた。
「分かりました。この事は、他の三人には黙っている事にします。どう考えても彼らは、問答無用で取り上げそうですし。それにしても、これが爆弾……」
それに藍里も、苦笑いで応じる。
「伯父さん達の感性って、凄いわよね。使わないに越した事は無いんだけど。これって魔獣対策と言うよりは、対人間用だし」
「そうですね。本来の用途で使わない様に祈る事にします」
そんな会話を交わしているうちに、藍里一行はデスナール子爵領のほぼ中央に位置するザルベスに入り、当初から予定されていた表敬訪問の為、デスナール子爵家の館へと向かった。
「随分、周りの様子が賑やかになってきたわね」
「そうですね。デスナール子爵領内でも、子爵家の館があるザルベスの近郊に入りましたから」
「ふぅん……」
セレナの説明を聞いて、そのまま興味深そうに外を眺めていた藍里に、向かい側に座るセレナから、控えめに声がかけられる。
「あの、アイリ様? その白虹の事ですが……」
「これがどうかした?」
ただ座っている手持ち無沙汰を紛らわせる様に、藍里が少し前に紅蓮から袋ごと取り出し、三個だけ取り出して左手の中で握って転がしていた白虹について、セレナが問いかけると、藍里が不思議そうに掌を開いてみせた。そこにある三個のビー玉状の物を改めて眺めながら、セレナがこの間抱えていた疑問を口にする。
「その……、それをこれまで通って来た道に置いてきたり、昨日は捕らえて放置してきた襲撃者の懐き入れておきましたよね? ルーカス殿下も尋ねておられましたが、それは来住家から武器として頂いて来たのでは無いのですか?」
それに藍里は苦笑いで答えた。
「確かに武器なんだけどね。このままだと別に危なく無いのよ。ほら、持ってみて?」
「はぁ……」
確かにこれまで見ても不審な所は無かった代物であり、セレナは恐れる事無く一つ受け取って、窓から差し込む日の光にかざしてみる。それは光を受けてキラキラと輝き、セレナは思わず感嘆の溜め息を漏らした。
「本当に綺麗ですね」
「やっぱりこういうのって、アルデインはともかく、リスベラントでは出回って無い?」
その問いに、セレナは白虹を藍里に返しながら、真顔で頷いた。
「そうですね。全体的に濃い色を付けたガラス玉の類はありますが、こういう輝くラメを封入したり、光を受けて虹色に光る物は、お目にかかれないと思います」
「でしょうね。そこら辺を踏まえて準備した一成さんって、界琉に負けず劣らず底意地が悪いかも……」
そこで何やらぶつぶつと独り言を言い出した藍里を、セレナが怪訝な顔で見やった。
「アイリ様?」
「ううん、何でもない。取り敢えず今の状態だったら安全だから」
「それはそれで宜しいのですが……」
「あれ? 何か他に気になる事でも?」
急に沈んだ表情になったセレナを見て藍里が尋ねると、彼女は気落ちした様子のまま話を続けた。
「いえ、大した事では無いのですが……。例の御前試合の時も、アイリ様は弓をお持ちになっていた事を、お話になっておられませんでしたし。私達は、それほど信用されていないのかと……」
確かに「敵を欺くには、まず味方から」と伯父達に主張され、御前試合でセレナ達に結構気を揉ませる結果になった事は認識していた藍里は、申し訳無さそうに言い出した。
「ああ、うん。紫焔の事か……。まあ、それを言われるとね。返す言葉が無いんだけど……。今回のこれに関しては、不必要に心配させない為って言うか、何て言うか。セレナさん。ちょっと外に声が漏れない様にして貰って良い?」
「はい。それは構いませんが……」
怪訝な顔をしながらも、セレナはすぐさま呪文を唱え、馬車の中の音が外に漏れない様にした。
「お待たせしました。どうぞ」
「本当の事を言うと、これって強いて言えば、爆弾みたいな物で」
「ばっ、爆弾!? そんな物騒な物を、紅蓮に封じて持ち歩いていらっしゃったんですか!?」
あまりにもサラッと言われた内容に、セレナが声を荒げて藍里の手元を凝視したが、その反応が十分予想できていた藍里は、困った様に肩を竦めた。
「だから、そんな風に心配されたり怒られると思って、秘密にしていたのよね~」
「ですが!」
「大丈夫。スイッチを押さない限り、絶対爆発しないから。だからあちこちにバラまいて来たんだし。いわば保険代わりよ」
「スイッチ、ですか?」
セレナは(そんな物が、それのどこに)と当惑しながら藍里の手の中の物を凝視したが、相手が落ち着き払っている為、いつまでも取り乱してはいられないと腹を括った。
「益々意味が分からなくなってきましたが……。取り敢えず、本当に安全なんですね?」
「それは大丈夫。心配しないで」
笑顔で太鼓判を押した藍里をセレナは全面的に信用する事にしたが、まだ少し信じかねる様な顔付きで呟いた。
「分かりました。この事は、他の三人には黙っている事にします。どう考えても彼らは、問答無用で取り上げそうですし。それにしても、これが爆弾……」
それに藍里も、苦笑いで応じる。
「伯父さん達の感性って、凄いわよね。使わないに越した事は無いんだけど。これって魔獣対策と言うよりは、対人間用だし」
「そうですね。本来の用途で使わない様に祈る事にします」
そんな会話を交わしているうちに、藍里一行はデスナール子爵領のほぼ中央に位置するザルベスに入り、当初から予定されていた表敬訪問の為、デスナール子爵家の館へと向かった。
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