教科書通りの恋を教えて

山鳩由真

文字の大きさ
上 下
53 / 108

16.西条 4

しおりを挟む
 それを聞いた西条は郁から離れると、はーっと息を吐いてテーブルに突っ伏した。
「わかってたけど、つらいな。全然割りきれなくてさ。何にもしてやれなくて、なんで俺は番じゃないのに、こんなに不毛な恋をしちまってるのかって、一緒に暮らしてる間、何度思ったことか……でも、室見が迎えに来てくれたお陰でようやく吹っ切るきっかけになったというか。あーもう。お前のせいじゃないんだ。そんな顔するなって」

「……好きになって、くれてたのか……? 恋愛的な意味で……?」

「そうだよ。少なくとも、事故直後のお前はほっとけなくて、ほっとけないやつの面倒見たくなるのはずっと俺の性分だと思ってたけど……。たぶん好きだった。いくら校長に言われたからって、好きじゃなきゃ同居まで提案しないよな。一緒にいた時間、楽しかった」
 西条にはじめてそう打ち明けられて、郁は戸惑う。西条は八年弱も、番のいる郁につきあってくれていた。まったくそれに気づかずに、ずっと西条の好意に甘えて励まされたりしていた。西条を見ることができず、両手で持ったココアのカップを見つめる。
「ごめん……」
「いや、俺が勝手に好きだっただけだから。それに、今は一応相手もいるし、室見とお前に横恋慕するつもりはないから、郁がよければ頼ってほしいな」
「相談にのってもらえるとありがたい……けど……」
 もう吹っ切れているとは言ってくれているが、自分を好きでいてくれた人間に、番の相手のことなどを相談して頼るのは無神経すぎるのではないか。迷って口をつぐむ郁に、西条は明るく言う。
「今の同居人、教え子なんだ」
 テーブルに肘をたてて、西条はニッと笑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

獣人王と番の寵妃

沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――

処理中です...