教科書通りの恋を教えて

2.教師と生徒 3

「先生は、オメガだからといって色んな行動を諦めることはないと思っています。今は薬の種類もたくさん出ていて自分の体質にあう薬をきちんと飲めば発情もコントロールできるから、日常生活にはなんの問題もありません。実体験として、先生の周りではヒートを突然発症したオメガはいないし、統計でも、それによる事件数の頻度は極めて少ないです。飛行機事故よりはちょっと多い、くらいです。映画や漫画の描写でよく見たことがあるかもしれませんが、オメガの発情を必要以上に怖がることはないと思ってください」
「それって、先生もですか？」
　じっと話を聞いていた生徒が一人、手をあげて質問をした。その子はベータで、オメガの子と仲の良い生徒だった。恐る恐る質問する生徒を安心させるように優しく笑って郁は答えた。
「先生も、もちろん突発的なヒートになったことは一度もありません。ちゃんと薬を飲んでいるからね」
　教師でも自分の性別種を公言する人は少ない。わざわざ知らせて無用なトラブルを招くのを避ける、という考えもある。保護者から、オメガは担任にしないで欲しい、と早速学校に匿名で言われたりもしている。それは明らかに偏見からくる意見なので、それを受けて自分が担任を外されることはなかったが、何の問題も起こしていないのにただ性別種がオメガというだけでそんな意見を持つ人間がいることが悲しい。それでも、自分の性別種は公言しようと思っている。オメガということを恥じていないし、オメガでもちゃんとできるということを示したい。今はまだ、オメガに対する差別が残っていると感じることがままあるが、将来的には無くなって欲しいと願っている。性教育で性別種と身体の仕組みの違いを子供たちに教える中で、昔は性別種での差別があり、現代でも問題になっていることを取り上げている。自分が率先して公言することで、少しずつでも偏見をなくしていけたら良いと思う。
　それに、オメガでも、工夫をして過ごせば、ほとんど制限されずに何でもできることをオメガの子に伝えたいとも思っていた。
　他に質問は、とクラスを見回すと室見が真っ直ぐに手をあげた。