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しおりを挟む「成井田は、友達とか、その……彼女とかには下の名前で呼ばれてるの?」
他の人はどうなのだろう、と単純な興味でさつきは成井田に聞いた。友人の多い成井田は、親しみを込めて下の名前や渾名で呼ばれることが多いだろう。最も親しい相手からは、どう呼ばれているのだろうか。
しかし成井田は、さつきの質問を聞いてピクリと反応すると、押し黙った。
返事のないのを不思議に思いさつきがまた見上げると、成井田は困ったように唇を一度引き結んでからさつきの方を向いた。
「友達からは、相変わらずナルが多いですね。あと、彼女とは、うまくいかなくて。すぐに別れましたから」
えっ、とさつきは言葉に詰まる。つい先日成井田の家に行った時、大切な相手がいるのだな、と感じたばかりだった。
「でも、マグカップが……」
あの、ピンク色の可愛いマグカップは、成井田が使っているものだった? 思わずさつきは呟いて、不躾すぎることを聞いてしまったと後悔した。
「マグカップ……? もしかして俺の部屋のピンクのマグカップですか? 俺の部屋にある女物はたぶん、姉が置いていったものです。渋谷で働いてる姉がよく泊まりにくるので……」
「そう……そうだったんだ。俺、てっきり彼女がいると思って……ごめん」
相手の気持ちを考えずに踏み込んだことを聞いてしまったと縮こまるさつきに、謝らないでください、と成井田は緩く笑いかけた。
「あの時付き合った彼女が、初めて出来た彼女でした。でも、付き合っている間、ずっと何か違う感じがしてました。大学入るまで誰とも付き合ったことが無いのは恥ずかしいと思ってて、それもあって焦って付き合ったんです。ちょうど、俺の事を好きだって言ってくれたその子に、すぐにOKしました。でも、その子のことに全然興味が持てなくて。付き合ったら、普通は相手のことを一番に優先しなきゃいけないって言われて、でも出来なかったんです。毎日デートしたいと言われても、水曜日はサークルがあったし、この時しか幸崎先輩に会えなかった。俺が一番に優先したかったのは、先輩に会うことでした」
「え……」
恋人に会うことよりも、自分に会うことを優先したかった?
さつきは聞き間違いではないかと、成井田の唇をじっと見つめた。
「サークルが始まる前に二人きりで話したあの時間、すごく楽しくて。でも、あの時俺……先輩には謝らないといけないんですけど……」
西日が射し込むあの空き教室で、他のサークルメンバーが集まる前に成井田と他愛もない話をする時間は、さつきにとっても宝物のような時間だった。成井田も同じように思ってくれていたかと思うと、胸がきゅう、と柔く締め付けられるような切ない気持ちになる。嫌われていなかった、それが解っただけでも嬉しかった。
成井田はふいにさつきの手を引いて、デッキ状の通路の端に寄った。道行く人の流れから逸れた場所にさつきを引き寄せると、深呼吸をして、正直に言います、と意を決した様子で口を開く。
「あの時、先輩のことを恋愛対象として見てしまってたんです。彼女を作ったのも、その為に……焦りもあったけど、先輩への気持ちを断ち切ろうと思ったのが大きかった」
「え……?」
成井田の告白に、さつきは目を見開いた。
サークルの忘年会で、成井田に恋人が居ることを知った時、自分の心は粉々に砕けたように感じた。何もかもどうでも良くなって、酒をたくさん飲んで、飲み過ぎて……めちゃくちゃになりたいと思って、ちょうど現れたユタとの関係が始まった。
しかしその時、成井田の心は本当は、恋人のところには無かった……?
あの時、自分が成井田に抱いていたような気持ちを、成井田も抱いていたというのだろうか。
恋愛対象として見ていたということは、そういうことなのか。
「どういう、意味……?」
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