きみを見つけた

山鳩由真

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「ケヴィン・ローチを知ってる?」

 待ち合わせ場所から、タクシーで目的地に向かう道すがら、ユタはさつきに聞いた。黒いチェスターコートの下にノーカラーシャツと深みのあるテラコッタカラーのニットを着たユタは、カジュアルだが上品で、人目を惹く艶やかな男だ。目にかかる髪の間からの視線を直に受け取るだけで、さつきはドキリと胸が高鳴る。ユタはハッとする程の美形で、表情の変化が乏しいため一見冷たい印象を受ける。しかし、あまり感情を表に出さないユタの表情が変わる瞬間を、さつきは知っていた。前後不覚になる程激しく交わる時、恍惚としたユタの潤んだ瞳はゾッとするほど美しく蕩ける。
 その時を思い出してざわめく心中を気付かれないようにと、さつきは目を泳がせてユタの問いに答えた。
「はい。アメリカの建築家、ということくらいしか知りませんが……」
「充分だよ。コウちゃんは勤勉だね。名前を聞いて、すぐに思いあたる子は稀じゃないかな」
 そう言ってユタは微笑み、さつきの髪を優しく撫でた。
「コウちゃんの言う通り、ローチはサーリネンやミースに師事したアメリカの建築家だ。オークランド博物館とか、フォード財団ビルが有名かな。これから行くのは、そのローチ設計のビルの中にあるバーだよ」
 ユタはローチ設計の建築物を二、三点、手元の端末画面に映してさつきに見せた。そこには、巨大なビルの吹き抜け部分に配置された、緑あふれる庭園の写真などがあった。
「日本にも、ローチ氏設計の建物があったんですね」
「うん。コウちゃんが気に入ってくれるといいな」
 さつきの滑りの良い髪を、一すくい指先で弄ると、ユタはほんのりと口角を上げて見せた。


 ユタについて入ったのは、地上四十一階のバーラウンジだった。夜色がよく見えるように照度を落とされた店内に入ると、壁一面のガラス越しに大都市の夜景が広がって見え、さつきは思わず息を飲んだ。
「高いところ、大丈夫?」
 窓側を向いて二脚並んで置かれたソファ席を案内されると、さつきは巨大な窓から一歩下がって眼下を恐る恐る見た。宝石のように煌めく無数の光の粒の洪水に圧倒される反面、飲み込まれそうな恐ろしさもあった。
「大丈夫です」
 腰を引きながらソファに座るさつきを見て、ユタはクスリと笑う。
「大丈夫。堕ちるときは一緒だよ」
 浅く腰かけた身体を引き寄せて、ユタはさつきのこめかみにキスをした。まるで恋人のような扱いに、さつきは赤面して目を伏せる。
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