きみを見つけた

山鳩由真

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 成井田が初めて幸崎こうさきさつきの名前を知ったのは、入学して最初の設計の授業を受けた時だった。
 手本として提示された、参考作品の作者の名前が、幸崎さつきだった。参考作品は、前年度実施した同じ授業の中で、優秀作だけが選ばれる。その出る課題ほぼ全ての参考作品に、幸崎さつきの名前があった。
 その時は一つ上の学年に、優秀な人がいるんだなくらいに思っていた。興味を持ちはじめたのは、学生同士の雑談を聞いてからだ。
 ある講義を受ける前、あまりガラの良くないグループのそばに、たまたま座っていた成井田は突然話題を振られた。
「君は男と出来る人?」
 急だったので、意味も解らず沈黙していると、そのグループの他の学生が勝手に会話を進めていった。
「急すぎ」
「俺は無理。おっぱいないと」
「ちんこはいいの?」
「無いほうがいいっしょ」
「修理済みならOK?」
「いや、どうしてもやんなきゃなんないならね」
「幸崎先輩ならイケるかも」
「二年のさつきさん? お前、顔が良ければ何でもいいんだね」
「あのパーカー脱がせたら、おっぱいあったりして」
「いや、ねーだろ」
「Tシャツめくりあげて、こんな貧乳でいいの? て言われたらヤれる。ショートカット女子だと思えば」
「マジかよお前、性欲強すぎ」
 二年の“幸崎先輩”……と言われても、はじめはピンと来なかった。パーカーとショートカットというキーワードを聞いて、そういえば、時々学内で線の細い学生を見掛けるが、その人のことかと思い至った。その後で、“幸崎さつき”の名前を、参考作品の作者として知っていることを思い出した。
 抜群に才能があって、中性的な容姿の先輩。
 どんな人物だろう。少し変わり者なんだろうか。
 成井田は、学内で見かけた時のさつきの姿を思い出す。どの場面を思い出しても、さつきはいつも一人でいた。
「君はどう? 一生に一度くらいは男ともやってみたくない? そういえば、君名前何だっけ?」
 ギャハハと笑いながら投げ掛けられた質問に、成井田は曖昧に笑ってやり過ごした。

 その一件以来、成井田はさつきの姿を見掛けるたび、何となく目で追うようになった。
 月曜、木曜は四限まで、水曜は五限、土曜は三限。他の曜日は解らないが、二年でこんなに受講しているのは稀だ。必修以外にも沢山受講しているさつきに、バイトをする時間や遊ぶ時間はあるのだろうか。勝手に心配をして、ふと、成井田は我に返った。いつの間にか、さつきのスケジュールを把握し始めている。愕然とした。
 これじゃあ、ストーカーじゃないか。
 どうかしてる。話したこともない先輩を、こんなに気にするなんて。
 成井田は一度冷静になろうと、頭を振った。
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