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儀式の間
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「行くよ」
気絶した二人には目もくれず、シルバーは扉へと進み始めた。
「ちょっと待て、ドアが閉まってる」
扉の前で止まる様子もなくさらに加速することに不安を覚えてオレは言う。
「どうせ鍵かかってるよ」
突撃。扉は木っ端みじん。そりやゴーレム吹き飛ばしてんだから、木の扉なんて余裕だよな。
扉の奥にあったのは大広間だった。
地下一階ほどの広さではないが、天井が高い。ゲームだったらラスボスが待ち受けている部屋という感じだ。
でもそこで待ち受けていたのはラスボスではなく、地面に描かれた複雑な文字列と図形、それから何かの呪文を一心に詠唱している四人の識人だった。
識人たちは複雑な魔法図形の刺繍が施された長い黒ローブを着ている。確か高位魔術士だけが身にまとう事を許される図形だったはずだ。
「なんだコレ、黒ミサか……?」
思わず呟いた。
地面の魔法陣の所々に蠟燭が立っており、この部屋の光源はそれだけ。
香が焚かれているらしく、薄闇の空間を動物の体臭のような香草のような一種独特な匂いが満たしている。
「カズ、囚われのお姫様だよ」
シルバーのライトが照らした地面に女が転がっていた。まるで魔法陣の一部であるかのように寝かされいる。
意識は失っていないようだが拘束されており、身じろぎひとつせず声も上げない。
最初に目に入ったのはトヨケではなかった。
だがライトの光の中、トヨケもすぐに見つかった。やはり同じように拘束され図形の一部にされている。
「トヨケ無事か!?」
呼び掛けるも、やはり返事はできないようだ。
トヨケたちの手首に、禍々しい装飾の金属製の腕輪が見えた。
トヨケの趣味ではなさそうだし、三人ともが全く同じ物を着けていることからして、貴人たちに着けさせられた物だろう。
腕輪の装飾の突起のひとつから赤い糸が垂れ、地面へと続いている。
「あれ血を抜いてるんだ、悪趣味だなあ」
シルバーの言葉に、オレは目を凝らした。
おそらく腕輪の内側に針が仕込まれていて、それが手首に刺さり血を出させているのだろう。
量はごくごくわずかだが、止まらず流れ続けていることを考えるとすでに危険な状態かもしれない。
トヨケの顔が蒼白であるのもそれを表している。
「魔法陣に血を与えてるのか」
てっきり、アブノーマル趣味の貴人が、ダンジョンを狩場にして平民が獲物の狩猟でもしているのだろうと考えていたのだが、どうやらそういう路線ではなさそうだ。
「生贄的なやつだね」
「早く助けないと」
オレがそう言っても、なぜかシルバーは動き出さない。
「……しまった」
「なんだ、どうした?」
シルバーの声の真剣な響きに、不安が煽られる。だがシルバーは黙り込んだまま動かない。
それまで続けていた詠唱を止めて少しの間オレたちの様子を覗っていた四人の識人たちが皆、一斉にワンドを掲げた。
そして先ほどとは違う呪文を唱え始める。雰囲気からしておそらく強力な攻撃魔法だ。
「おい、敵の攻撃も来るぞ」
「スライドブレーキはここでやるべきだった……」
「は?」
「だって、ここで突撃してきて、あの娘たちを背に庇うようにスライドブレーキするのが正しいヒーローのあり方だよ。
さっきのスライドブレーキなんて見てたの貴人のおっさん二人だけじゃないか。ブレーキ損だよ。
まあヒーローには程遠いカズには分からないのかもしれないけど」
「いや、今そんな事言ってる場合じゃないよな。
識人たちは攻撃魔法の呪文唱えてるし、トヨケたちの命は風前の灯だし。識人って学者だけあって古代魔法とか禁呪とか使えるって噂なんだぞ」
「ふーん。なんて言うかカズってフツーだよね」
「いや、普通でいいよこの場合は。普通に敵をやっつけて普通に女の子を助ける、そんな普通の展開でいいんだって」
シルバーの態度から、スライドブレーキをやり直すとか言い出しそうな予感がしてオレはそうまくし立てた。
「まーいいけどさ。じゃ、とりあえず癒しの息吹」
シルバーが魔法陣の方に向けて息を吐きかけた。
距離がある上に対象の三人はひと所にいるわけではない。
だけど、キラキラと暖かな輝きをみせる息吹が一帯を覆ったかと思えば、次の瞬間には三人の血は止まり、顔にも生気の色が戻った。
「あと、なんだっけ。識人の人たちだよね。
あの娘たち巻き込んでしまうから広範囲攻撃はダメだし、めんどくさいなあ」
言った次の瞬間に、シルバーはハンドルをぐるんぐるんと振ってグリップ……じゃなかった爪を飛ばした。
その攻撃で識人四人が倒れていた。
皆が胸の真ん中を撃ち抜かれている。
二つしかないはずのグリップだが、飛ばしたのは四つ。下の層の爪も一瞬で硬化させて連射したらしい。
「こんな普通の展開でいいの?」
シルバーがため息混じりに言った。
「いやいやいや。貴人識人相手にして、こんな一瞬で勝ってしまうのって絶対に普通じゃないだろ」
気絶した二人には目もくれず、シルバーは扉へと進み始めた。
「ちょっと待て、ドアが閉まってる」
扉の前で止まる様子もなくさらに加速することに不安を覚えてオレは言う。
「どうせ鍵かかってるよ」
突撃。扉は木っ端みじん。そりやゴーレム吹き飛ばしてんだから、木の扉なんて余裕だよな。
扉の奥にあったのは大広間だった。
地下一階ほどの広さではないが、天井が高い。ゲームだったらラスボスが待ち受けている部屋という感じだ。
でもそこで待ち受けていたのはラスボスではなく、地面に描かれた複雑な文字列と図形、それから何かの呪文を一心に詠唱している四人の識人だった。
識人たちは複雑な魔法図形の刺繍が施された長い黒ローブを着ている。確か高位魔術士だけが身にまとう事を許される図形だったはずだ。
「なんだコレ、黒ミサか……?」
思わず呟いた。
地面の魔法陣の所々に蠟燭が立っており、この部屋の光源はそれだけ。
香が焚かれているらしく、薄闇の空間を動物の体臭のような香草のような一種独特な匂いが満たしている。
「カズ、囚われのお姫様だよ」
シルバーのライトが照らした地面に女が転がっていた。まるで魔法陣の一部であるかのように寝かされいる。
意識は失っていないようだが拘束されており、身じろぎひとつせず声も上げない。
最初に目に入ったのはトヨケではなかった。
だがライトの光の中、トヨケもすぐに見つかった。やはり同じように拘束され図形の一部にされている。
「トヨケ無事か!?」
呼び掛けるも、やはり返事はできないようだ。
トヨケたちの手首に、禍々しい装飾の金属製の腕輪が見えた。
トヨケの趣味ではなさそうだし、三人ともが全く同じ物を着けていることからして、貴人たちに着けさせられた物だろう。
腕輪の装飾の突起のひとつから赤い糸が垂れ、地面へと続いている。
「あれ血を抜いてるんだ、悪趣味だなあ」
シルバーの言葉に、オレは目を凝らした。
おそらく腕輪の内側に針が仕込まれていて、それが手首に刺さり血を出させているのだろう。
量はごくごくわずかだが、止まらず流れ続けていることを考えるとすでに危険な状態かもしれない。
トヨケの顔が蒼白であるのもそれを表している。
「魔法陣に血を与えてるのか」
てっきり、アブノーマル趣味の貴人が、ダンジョンを狩場にして平民が獲物の狩猟でもしているのだろうと考えていたのだが、どうやらそういう路線ではなさそうだ。
「生贄的なやつだね」
「早く助けないと」
オレがそう言っても、なぜかシルバーは動き出さない。
「……しまった」
「なんだ、どうした?」
シルバーの声の真剣な響きに、不安が煽られる。だがシルバーは黙り込んだまま動かない。
それまで続けていた詠唱を止めて少しの間オレたちの様子を覗っていた四人の識人たちが皆、一斉にワンドを掲げた。
そして先ほどとは違う呪文を唱え始める。雰囲気からしておそらく強力な攻撃魔法だ。
「おい、敵の攻撃も来るぞ」
「スライドブレーキはここでやるべきだった……」
「は?」
「だって、ここで突撃してきて、あの娘たちを背に庇うようにスライドブレーキするのが正しいヒーローのあり方だよ。
さっきのスライドブレーキなんて見てたの貴人のおっさん二人だけじゃないか。ブレーキ損だよ。
まあヒーローには程遠いカズには分からないのかもしれないけど」
「いや、今そんな事言ってる場合じゃないよな。
識人たちは攻撃魔法の呪文唱えてるし、トヨケたちの命は風前の灯だし。識人って学者だけあって古代魔法とか禁呪とか使えるって噂なんだぞ」
「ふーん。なんて言うかカズってフツーだよね」
「いや、普通でいいよこの場合は。普通に敵をやっつけて普通に女の子を助ける、そんな普通の展開でいいんだって」
シルバーの態度から、スライドブレーキをやり直すとか言い出しそうな予感がしてオレはそうまくし立てた。
「まーいいけどさ。じゃ、とりあえず癒しの息吹」
シルバーが魔法陣の方に向けて息を吐きかけた。
距離がある上に対象の三人はひと所にいるわけではない。
だけど、キラキラと暖かな輝きをみせる息吹が一帯を覆ったかと思えば、次の瞬間には三人の血は止まり、顔にも生気の色が戻った。
「あと、なんだっけ。識人の人たちだよね。
あの娘たち巻き込んでしまうから広範囲攻撃はダメだし、めんどくさいなあ」
言った次の瞬間に、シルバーはハンドルをぐるんぐるんと振ってグリップ……じゃなかった爪を飛ばした。
その攻撃で識人四人が倒れていた。
皆が胸の真ん中を撃ち抜かれている。
二つしかないはずのグリップだが、飛ばしたのは四つ。下の層の爪も一瞬で硬化させて連射したらしい。
「こんな普通の展開でいいの?」
シルバーがため息混じりに言った。
「いやいやいや。貴人識人相手にして、こんな一瞬で勝ってしまうのって絶対に普通じゃないだろ」
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