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隠し通路

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 地下一階はフロアの四隅に魔石を使った照明が灯っており、薄ぼんやりとした明るさがある。
 だがここから先に明かりはなく、探索者は携行できる灯火を用意する必要がある。

「どこにその魔法トラップがあるって?」

 ランタンに火を入れながら訊く。

「ほら、あそこだよ」

 シルバーはハンドルを切ってカゴの向きで階段を降りて右手側の壁を示した。
 フロアはほぼ正方形だ。正面の壁が北で、シルバーが指した右手の壁は東になる。
 四方の壁の中央にはそれぞれ通路が口を開いている。

「あの通路か?」

 東の通路を指さす。ここからだとランタンを掲げても通路の奥は暗くて見えない。

「ううん、その少し右」

「何もないけどな」

 見た目にはただの壁だ。しかし違和感があるのは確かにそのあたりのような気もする。

「通路を隠しているんだと思う。幻術解除する?」

「出来るんなら頼む」

 シルバーは壁の方へと移動した。自然体というか、全く警戒している様子はない。
 壁の前で止まると「ふうぅぅぅ」と息を吐いた。
 次の瞬間、何かが粉々にくだけた。
 目には見えないが、そこにあった魔力の結界か何かをシルバーが破壊したのだろう。

「お、通路だ」

 たった今まで壁と見えていた所に、ぽっかりと通路が口を開いていた。

「ほらね」

「いや、そういえばここに通路あったわ。なんで忘れてたんだろ」

 東の壁だけは通路が二つあった事をたった今思い出した。

「視覚だけじゃなくて、認識にも働きかけるタイプの魔法罠マジックトラップみたいだね」

「高度なヤツだな」

「僕の解魔の息リリースブレスにかかればチョロいもんだけどね」

 オレも通路の入り口まで行ってランタンを掲げて中を覗き込む。
 何の変哲もない廊下だ。少し先で右に折れているのが見える。

「だけど、ますます嫌な予感がする」

 トヨケが戻らないと聞いた時、調査隊が新しい階層を発見したのだろうとオレは考えていた。
 未探索のダンジョンは解除されていない罠や魔物の宝庫だ。
 このシルベネートのダンジョンが初心者向けのような扱いをされているのは、隅々まで探索がされていてほとんどの罠や隠し通路などが発見、解除されているからだ。魔物も強力なヤツはすでに退治されている。

 だから今回の件は、未探索フロアを発見したトヨケたちがそこで何らかのトラブルに巻き込まれて身動きが取れなくなっているのではないかとオレは考えていた。
 しかし依頼者たちに貴人がいると聞いて、また違った種類の嫌な予感が沸き上がってきた。
 もちろん貴人が皆悪いワケではないだろう。非道な輩はきっと一部なのだろう。
 だけどヤツらは権力を持ち過ぎているし、庶民を人間だとは思っていない。昨夜の体験でオレはその事を痛烈に思い知った。

 そして通路が一つ、誰かの手で人為的に通路が隠されていたのだ。事態は黄色信号じゃない。すでに赤信号だ。

「じゃあ乗って」

 シルバーが言った。

「へ?」

「何してんの、早くしないとチーズバーガー冷めちゃうよ」

「いや乗れと言われても、ダンジョンを下っていくわけだからな。自転車に乗ってダンジョン探索とか聞いたことないだろ?」

「何言ってんの。ディーバーが自転車乗らないで、どうやって配達するんだよ」

「いや、そもそもこの通路でいいのか?」

「いい。それは僕の広範囲探査ナビゲーションで確認したよ。間違いなくこの先に探してる人たちがいる」

 この道は元々隠し通路だったと聞いている。
 他の通路はどこを選んでもある場所では交わり、また幾つかの分岐を持ちながらもが順当にフロアを下っていくルートを取るのに対し、この通路だけは独立したルートを取っていた。
 つまりこの先にトヨケがいるのなら、他の通路は全てハズレということになるのだ。

「分かった」

 素直に従うことにした。
 階段を降りることが出来るのは先ほど確認しているし、シルバーがすごい力を持っている事は間違いない。

「じゃあ行くよ。あ、ランタンは置いてって大丈夫。むしろ何も持たない方がいいよ」

 シルバーはライトを点灯させた。
 LEDだからとかどうとかを論じるのがバカらしくなるくらいに明るい光で辺りが照らし出された。

「今度はしっかり漕いでね」
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