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剣を手に立ち上がれ
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「ゼローッ!」
サイノスの杖に貫かれ、遠のく意識の中でゼロは最後にレナの悲鳴を聞いた。
力尽きて大地に倒れ、鼓動と血流、呼吸が止まり、ゼロの全ての生命活動がコトリと停止する。
【・・・立ち上がれ・・剣を取れ・・・】
停止したゼロの魂にゼロの声が響き渡った。
【・・戦え・敵を倒せ・・・】
ゼロの声にゼロが反応する。
死霊術師ゼロの命に従ってゼロがゆっくりと立ち上がった。
「おっ?ゼロが立ち上がったぞ。無事だったか?」
ゼロが立ち上がるのを遠目に見たチェスターが楽観視するが、カミーラが青ざめながら首を振る。
「違う・・・あれは彼が自分自身に掛けた死霊術・・・」
「何だって?」
「自分の命が尽きた時に発動するようにした自己暗示。今の彼は死霊術師ゼロに命令されて死霊と化したゼロ・・・」
カミーラの説明を聞いたオックス達は言葉を失った。
剣を手に再び立ち上がったゼロを間近で見たレナは恐怖に震えながら立ち竦んだ。
「ゼロ・・貴方、何てことを・・・」
虚ろな様子で剣を構えるその様はレナの知るゼロではない。
生命力の欠片もない死霊と化したゼロ。
しかも、死霊術師としての能力を持ったまま、リッチやノー・ライフ・キング、それ以上の絶対的な力を有する雰囲気を纏っており、気がつけば、オメガ達の雰囲気もガラリと変わっている。
純粋なアンデッドとしての本能を剥き出しにしてサイノスを取り囲んでいるのだ。
サイノスも目の前に立つゼロを油断なく見ていた。
自らの手で倒した相手が死霊と化し、自分に干渉できるようになって剣を構えている。
神であり、恐怖という感情を持たぬサイノスに感情の揺らぎが生じた。
目の前に立つ敵は間違いなく脅威だと感じたのだ。
【戦え・戦え・倒せ・・目の前の敵を倒すまで剣を振るえ、魔力を放て・・・本能の赴くままに】
ゼロの魂に暗示のように繰り返されるゼロの言葉。
【戦え・・倒せ・・敵を殺せ!】
ゼロが目を見開いた。
目の前に立つのは倒すべき敵だ。
ゼロは目にも留まらぬ程の速さで駆け出し、サイノスの懐に飛び込んで剣を斬り上げる。
すんでのところでその切っ先を躱したサイノスだが、その斬撃のあまりの鋭さに触れてもいない髪が斬れハラハラと落ちる。
しかも、振り抜いた剣を翻して斬り下ろしてくる。
人間の脳の処理速度も筋力の限界をも超えた速さと鋭さだ。
あまりの速さに体内の筋や骨が悲鳴を上げるが筋が切れようが、骨が折れようが今のゼロに痛みは無い。
たまらずに距離を取るサイノスに追いすがり、目の前から光熱魔法を放つ。
光熱魔法が弾かれて逆にゼロの身体を焼くが、それでも止まらない。
「滅茶苦茶だ!あのままじゃゼロの身体が持たねえぞ」
見かねて援護に走ろうとするライズをオックスが止めた。
「止めろ!お前が行ったところで何もできん!」
「しかし、見てられねえ!」
「あそこで戦っているのはゼロであるが、ゼロじゃない。俺達にすら・・・とにかくゼロの邪魔をしてはいかん」
「クッ!」
「それに、俺達にも役目がある。この周りにいる雑魚共を片づけねばならん!1体たりともゼロの所には行かせん」
オックスに諭されてライズも気持ちを入れ替えた。
「それもそうだ。自分の果たすべき役割を果たせ、そんなことをゼロが言っていたな」
ライズ達は再びアンデッドの軍勢に向かい剣を構えた。
その間にもゼロの戦いは続いていた。
長年の修行と実戦により文字通り骨の髄まで染み込んだ剣と魔法の技は死霊と化しても失われることはない。
それどころか、命のリミッターを失った今、闘争本能によって戦っているゼロは人としての領域を外れ、神を追い詰めつつあった。
しかも、本能の赴くままに戦うゼロに引きずられるようにオメガ達の動きも違う。
「マスターがこちら側に来てしまった。ああ、なんという喜びと悲しみ。・・・そして、湧き上がってくるこの甘美なる欲望・・。私はマスターと共に神を殺す!マスターの敵全てを殺す」
オメガは残忍な笑みを浮かべてゼロに追われるサイノスの背後に回り込み、逆にゼロの前に追い立てている。
ゼロのアンデッドの中で特に変化が著しいのはアルファと共に最古参のアンデッド、デス・ナイトのサーベルだ。
スケルトンの身体故に人間以上の可動域を持つ関節に加えて今のゼロに遅れを取らない速度でゼロと共に剣を振るう。
そしてアルファは炎撃、氷結魔法を次々と繰り出してサイノスを焼き、凍りつかせる。
しかし、その表情はバンシーであるが故か、悲しみに満ちていた。
アンデッドの軍勢掃討を指揮していたイザベラも無意識のうちにサーベルを下ろし、戦慄の表情でゼロの戦いを見た。
「なんですの・・・そんなの嫌ですのよ・・・」
プリシラも同じだ。
「ゼロ。死に流されるな・・」
ゼロの戦いを厳しい表情で見守っていた。
そして、リックスも決断した。
「セイラ、もう結界はいい。祈りを止めろ。サイノスとやらにこれ以上アンデッド軍勢を呼ぶ余裕なんかねえ。今はとにかく、ゼロさんのために力を残しておくんだ」
祈りを止めたセイラはリックスを見上げた。
「リックスさんのお話しの意味は分かります。でも、私の祈り、というか、聖なる力はゼロさんには効かないのですよ」
「そんなことは分かってる。それでも、備えておくんだ」
セイラが立ち上がってゼロの戦いの場を見れば、そこにはただ1人、戦いを見守る命ある者の姿があった。
レナの震えは止まらない。
ゼロの戦いを見る限り怖くて怖くて仕方がないのだ。
「ゼロ、貴方は呼び戻してくださいと言った。・・もう止めて・・帰ってこれなくなるわよ・・止めて、お願い・・・」
呟くレナの声はゼロには届かない。
【戦え・・剣を振るえ・・殺せ・殺せ・殺せ】
ゼロは魂に響く声のままに、殺戮本能のままに剣を振るう。
仮面は吹き飛び、剣を持つ腕も無理な方向に力が加わり皮膚が破けている。
その姿は悍ましいアンデッドそのものだ。
11体の死霊の猛攻を受け、サイノスは明確に恐怖を感じていた。
貫こうが、叩きつけようが、焼こうが、切り裂こうが立ち上がって向かってくる脅威。
死者を支配する神である自分に敵対し、向かってくる死霊達を恐れていた。
そして、最後の時が来た。
アルファ、シャドウ、ミラージュ、ジャック・オー・ランタンの魔法攻撃と同時にオメガ、サーベル、スピア、シールド、リンツが飛び掛かる。
それらの同時攻撃を受け返した瞬間、ゼロがサイノスの懐に飛び込んできた。
サイノスの杖がゼロの左肩を抉るがゼロは止まらない。
サイノスの腹に剣を突き立てながらその勢いのまま、サイノス諸共倒れ込んだ。
そして、倒れたサイノスに馬乗りになり、その首に剣を突き刺す。
決着の時、首を貫かれたサイノスはゼロを見上げて微笑んだ。
『・・・ありがとう・・・』
サイノス、憑代となったノー・ライフ・キング、いや、名前も分からぬ哀れな娘の身体が微笑みと共に崩れてゆく。
それと同時に数十万のアンデッド達の動きが止まり、一斉に姿を消した。
残ったのは不思議な静けさとプリシラ、イザベラの軍団にオックスやリックス達、そして全てを見届けたレナ。
「終わったのか・・・」
呆気ない幕切れにチェスターが途方に暮れたように呟く。
「終わりましたの?」
イザベラも勝利を実感出来ずに立ち尽くしている。
サイノスとその軍勢が姿を消したというのに、その場にいる全ての者が目の当たりにした現実を受け入れられずにいた。
サイノスを倒したゼロは大地に剣を突き立て、うずくまったままだ。
「ゼロ様っ!」
リズがゼロに向かって走り出し、オックス達もその後を追う。
ゼロに駆け寄る仲間達。
しかし、ゼロの一番近くにいたレナはその場から後ずさりゼロと距離を取り、無言で片手を上げ、オックス達を制止した。
レナ達の前でゼロが剣を手に立ち上がった。
サイノスの杖に貫かれ、遠のく意識の中でゼロは最後にレナの悲鳴を聞いた。
力尽きて大地に倒れ、鼓動と血流、呼吸が止まり、ゼロの全ての生命活動がコトリと停止する。
【・・・立ち上がれ・・剣を取れ・・・】
停止したゼロの魂にゼロの声が響き渡った。
【・・戦え・敵を倒せ・・・】
ゼロの声にゼロが反応する。
死霊術師ゼロの命に従ってゼロがゆっくりと立ち上がった。
「おっ?ゼロが立ち上がったぞ。無事だったか?」
ゼロが立ち上がるのを遠目に見たチェスターが楽観視するが、カミーラが青ざめながら首を振る。
「違う・・・あれは彼が自分自身に掛けた死霊術・・・」
「何だって?」
「自分の命が尽きた時に発動するようにした自己暗示。今の彼は死霊術師ゼロに命令されて死霊と化したゼロ・・・」
カミーラの説明を聞いたオックス達は言葉を失った。
剣を手に再び立ち上がったゼロを間近で見たレナは恐怖に震えながら立ち竦んだ。
「ゼロ・・貴方、何てことを・・・」
虚ろな様子で剣を構えるその様はレナの知るゼロではない。
生命力の欠片もない死霊と化したゼロ。
しかも、死霊術師としての能力を持ったまま、リッチやノー・ライフ・キング、それ以上の絶対的な力を有する雰囲気を纏っており、気がつけば、オメガ達の雰囲気もガラリと変わっている。
純粋なアンデッドとしての本能を剥き出しにしてサイノスを取り囲んでいるのだ。
サイノスも目の前に立つゼロを油断なく見ていた。
自らの手で倒した相手が死霊と化し、自分に干渉できるようになって剣を構えている。
神であり、恐怖という感情を持たぬサイノスに感情の揺らぎが生じた。
目の前に立つ敵は間違いなく脅威だと感じたのだ。
【戦え・戦え・倒せ・・目の前の敵を倒すまで剣を振るえ、魔力を放て・・・本能の赴くままに】
ゼロの魂に暗示のように繰り返されるゼロの言葉。
【戦え・・倒せ・・敵を殺せ!】
ゼロが目を見開いた。
目の前に立つのは倒すべき敵だ。
ゼロは目にも留まらぬ程の速さで駆け出し、サイノスの懐に飛び込んで剣を斬り上げる。
すんでのところでその切っ先を躱したサイノスだが、その斬撃のあまりの鋭さに触れてもいない髪が斬れハラハラと落ちる。
しかも、振り抜いた剣を翻して斬り下ろしてくる。
人間の脳の処理速度も筋力の限界をも超えた速さと鋭さだ。
あまりの速さに体内の筋や骨が悲鳴を上げるが筋が切れようが、骨が折れようが今のゼロに痛みは無い。
たまらずに距離を取るサイノスに追いすがり、目の前から光熱魔法を放つ。
光熱魔法が弾かれて逆にゼロの身体を焼くが、それでも止まらない。
「滅茶苦茶だ!あのままじゃゼロの身体が持たねえぞ」
見かねて援護に走ろうとするライズをオックスが止めた。
「止めろ!お前が行ったところで何もできん!」
「しかし、見てられねえ!」
「あそこで戦っているのはゼロであるが、ゼロじゃない。俺達にすら・・・とにかくゼロの邪魔をしてはいかん」
「クッ!」
「それに、俺達にも役目がある。この周りにいる雑魚共を片づけねばならん!1体たりともゼロの所には行かせん」
オックスに諭されてライズも気持ちを入れ替えた。
「それもそうだ。自分の果たすべき役割を果たせ、そんなことをゼロが言っていたな」
ライズ達は再びアンデッドの軍勢に向かい剣を構えた。
その間にもゼロの戦いは続いていた。
長年の修行と実戦により文字通り骨の髄まで染み込んだ剣と魔法の技は死霊と化しても失われることはない。
それどころか、命のリミッターを失った今、闘争本能によって戦っているゼロは人としての領域を外れ、神を追い詰めつつあった。
しかも、本能の赴くままに戦うゼロに引きずられるようにオメガ達の動きも違う。
「マスターがこちら側に来てしまった。ああ、なんという喜びと悲しみ。・・・そして、湧き上がってくるこの甘美なる欲望・・。私はマスターと共に神を殺す!マスターの敵全てを殺す」
オメガは残忍な笑みを浮かべてゼロに追われるサイノスの背後に回り込み、逆にゼロの前に追い立てている。
ゼロのアンデッドの中で特に変化が著しいのはアルファと共に最古参のアンデッド、デス・ナイトのサーベルだ。
スケルトンの身体故に人間以上の可動域を持つ関節に加えて今のゼロに遅れを取らない速度でゼロと共に剣を振るう。
そしてアルファは炎撃、氷結魔法を次々と繰り出してサイノスを焼き、凍りつかせる。
しかし、その表情はバンシーであるが故か、悲しみに満ちていた。
アンデッドの軍勢掃討を指揮していたイザベラも無意識のうちにサーベルを下ろし、戦慄の表情でゼロの戦いを見た。
「なんですの・・・そんなの嫌ですのよ・・・」
プリシラも同じだ。
「ゼロ。死に流されるな・・」
ゼロの戦いを厳しい表情で見守っていた。
そして、リックスも決断した。
「セイラ、もう結界はいい。祈りを止めろ。サイノスとやらにこれ以上アンデッド軍勢を呼ぶ余裕なんかねえ。今はとにかく、ゼロさんのために力を残しておくんだ」
祈りを止めたセイラはリックスを見上げた。
「リックスさんのお話しの意味は分かります。でも、私の祈り、というか、聖なる力はゼロさんには効かないのですよ」
「そんなことは分かってる。それでも、備えておくんだ」
セイラが立ち上がってゼロの戦いの場を見れば、そこにはただ1人、戦いを見守る命ある者の姿があった。
レナの震えは止まらない。
ゼロの戦いを見る限り怖くて怖くて仕方がないのだ。
「ゼロ、貴方は呼び戻してくださいと言った。・・もう止めて・・帰ってこれなくなるわよ・・止めて、お願い・・・」
呟くレナの声はゼロには届かない。
【戦え・・剣を振るえ・・殺せ・殺せ・殺せ】
ゼロは魂に響く声のままに、殺戮本能のままに剣を振るう。
仮面は吹き飛び、剣を持つ腕も無理な方向に力が加わり皮膚が破けている。
その姿は悍ましいアンデッドそのものだ。
11体の死霊の猛攻を受け、サイノスは明確に恐怖を感じていた。
貫こうが、叩きつけようが、焼こうが、切り裂こうが立ち上がって向かってくる脅威。
死者を支配する神である自分に敵対し、向かってくる死霊達を恐れていた。
そして、最後の時が来た。
アルファ、シャドウ、ミラージュ、ジャック・オー・ランタンの魔法攻撃と同時にオメガ、サーベル、スピア、シールド、リンツが飛び掛かる。
それらの同時攻撃を受け返した瞬間、ゼロがサイノスの懐に飛び込んできた。
サイノスの杖がゼロの左肩を抉るがゼロは止まらない。
サイノスの腹に剣を突き立てながらその勢いのまま、サイノス諸共倒れ込んだ。
そして、倒れたサイノスに馬乗りになり、その首に剣を突き刺す。
決着の時、首を貫かれたサイノスはゼロを見上げて微笑んだ。
『・・・ありがとう・・・』
サイノス、憑代となったノー・ライフ・キング、いや、名前も分からぬ哀れな娘の身体が微笑みと共に崩れてゆく。
それと同時に数十万のアンデッド達の動きが止まり、一斉に姿を消した。
残ったのは不思議な静けさとプリシラ、イザベラの軍団にオックスやリックス達、そして全てを見届けたレナ。
「終わったのか・・・」
呆気ない幕切れにチェスターが途方に暮れたように呟く。
「終わりましたの?」
イザベラも勝利を実感出来ずに立ち尽くしている。
サイノスとその軍勢が姿を消したというのに、その場にいる全ての者が目の当たりにした現実を受け入れられずにいた。
サイノスを倒したゼロは大地に剣を突き立て、うずくまったままだ。
「ゼロ様っ!」
リズがゼロに向かって走り出し、オックス達もその後を追う。
ゼロに駆け寄る仲間達。
しかし、ゼロの一番近くにいたレナはその場から後ずさりゼロと距離を取り、無言で片手を上げ、オックス達を制止した。
レナ達の前でゼロが剣を手に立ち上がった。
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