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クロウの本領

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 石の壁に囲まれた部屋。
 窓も無くひんやりとした室内を照らすのは部屋の中央に置かれた机の上のランタンの光のみであり、この部屋が何処にあるのか、今が昼なのか、夜なのかすらも分からない。
 グレイに捕らえられたネクロマンサーの女はその部屋の椅子に縛り付けられて身動き一つできないでいる。
 猿ぐつわを噛まされて頭すらも固定された彼女に許されるのは視線のみで限られた範囲を見ることと、周囲の音を聞くこと。
 もう1つ、室内には何やら香のような香りが漂っており、猿ぐつわを噛まされた彼女は否が応でもその香りを吸わされてしまう。
 そんな彼女の正面では1人の男が薄い笑みを浮かべながら彼女を見ている。

「まず、お話しを聞く前に貴女に伝えておくことがあります。この尋問においては貴女が何を話そうと、それは自由です。貴女が私の質問にさえ答えてくだされば、例えそれが虚偽の供述でも構いません。貴女が沈黙を試みない限りは私は強行手段を取ったりはしません」

 クロウは全てを引きずり込む闇のような冷たい視線で女を見据える。

「今から貴女の猿ぐつわを外しますが、自殺などという馬鹿なことを考えないでください。もし、それをお考えならば無駄ですよ。貴女が自殺を試みようとしても、私はどんな手を使っても貴女を治療してさしあげますし、蘇生もします。何度でもです。・・・まあ、私にとってはその方が都合が良いのですがね。貴女が自殺を試み、私が治療、蘇生する。それを繰り返す間に貴女の精神は崩壊していきます。その過程において私は貴女から必要な情報を引き出させていただくだけですから」

 ゆっくりと立ち上がり、女に近づくクロウ。
 女の前に立ち、真っ直ぐに女の目を見る。

「この尋問がお互いにとって有意義なものになることを願いますよ」

 クロウの目から視線を外すことができない女の目は恐怖に染まっていた。

 クロウによる尋問は夜通し行われ、夜明け前には終了した。
 ネクロマンサーの女はクロウの底の無い闇のような迫力に恐怖し、沈黙することなく多くのことを供述したため、拷問による尋問は行われなかった。

 クロウは引き出した供述の中から真偽を見極めて僅かな真実を特定する。
 更には嘘を組み合わせ、自分で収集した情報を照らし合わせてその矛盾を削り取り、残された情報から真実を導き出す。
 聖務監督官としての本領を発揮したクロウは尋問を終えて数刻、太陽が天頂に差し掛かる頃には情報の精査を終えて確度の高い情報をイザベラに報告した。

 議会棟の一室でクロウから提出された報告書を読むイザベラ。
 目の前にはクロウがお茶を飲みながら座っている。

「流石はクロウですわ。僅かな時間でこれほど精度の高い情報を引きずり出すとはね。でも、大した情報はありませんのね」

 渡された報告書に目を通したイザベラはいささか不満げだ。

「彼女もある意味では利用され、使い捨てにされる駒の1つだったようですね。あまり大きな情報は持っていませんでした。ただ、敵の正体とその目的の一端くらいの情報は得られました。今後の作戦の参考にはなると思います」
「そうですわね。情報というのは例えそれが1の情報であっても0とは大違いです。あとはその情報をどう生かすか、ですわね」

 クロウの報告書の内容を記憶したイザベラが報告書に火を点けて灰にした丁度その時、2人がいる部屋の扉がノックされ、若い聖騎士がイザベラを呼びに来た。

「最終局面が近いです。各指揮官を集めて作戦会議を開きますの。そろそろあのおバカネクロマンサーも到着する筈ですし。あの男にも十分に働いて貰わなければなりませんの」
「やれやれ、グレイさんといい、ゼロさんといい、使い減りしない都合のいい存在として扱ってますね。2人が気の毒だ」

 クロウがため息をつくとイザベラは心外そうな表情を浮かべた。

「まあ、ゼロはそうかもしれませんが、グレイはリングルンドの家に相応しいように大切に育てていますのよ」
「それはそれで大変だ」
「それに・・・」
「?」
「使い勝手のよい駒というならば、貴方も一緒ですのよ」

 イザベラに言われてクロウは笑いながら肩を竦めた。

「さて、私は会議に行きますけど、クロウはどうします?」
「そうですね、もう少しこの周辺の情報を探ってみますよ」

 お茶を飲みながら笑うクロウを見たイザベラは頷いて立ち上がると扉に向かって歩き出すが、ふと足を止めて振り返った。

「そういえば、捕縛したネクロマンサーはどうしましたの?」
「本来ならばこの戦いが終わった後にイバンスに引き渡すのが筋なのでしょうが・・・公式には戦闘で討ち取ったという扱いになっていますからね。どちらにせよ、もうネクロマンサーとしても魔術師としても使い物にはなりませんよ」

 イザベラは冷たい視線をクロウに向けた。

「ならば貴方のお好きになさい。貴方にとってはまだ使い道があるのでしょう?」

 クロウは何も言わずに笑いながらお茶をすする。
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