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隣国からの指名依頼

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 普段と変わらない冒険者ギルドの午後。
 1人でふらりと立ち寄ったゼロはギルド内を見渡すが、見知った者も居らず、シーナも受付の奥で忙しそうに書類仕事をしている。
 依頼の掲示板を見ても特異な依頼は張り出されていない。
 地下水道の魔鼠退治も徹底的に行ったので、数ヶ月は大丈夫だろう。
 薬草採取等いくつかのお使いクエストのような余り物の依頼はあるが、この程度ならば新米冒険者が引き受けるだろうし、彼等のためにも残しておいた方が良さそうだ。

 めぼしい依頼も無いので今日のところは引き上げようかと思い始めた頃、ギルドの窓から一羽の鳥が飛び込んできてカウンターに舞い降りる。
 ギルド間の至急の通信連絡に用いられる郵便鳥だ。
 郵便鳥が運んできた文書を確認した若い受付職員は掲示板の前にゼロが立っているのを確認するとシーナに話し掛けながら文書を手渡している。
 
(・・・嫌な予感がします)

 ゼロの嫌な予感は大抵の場合が現実のものとなるが、今回もそうなりそうだ。
 運命の道標がゼロを仕事へと誘っているのか、それとも運命の歯車がゼロを困難へと引き込もうとしているのか、文書を確認したシーナが少し驚いたような表情をしながら手招きしている。
 一つため息をついて受付に近づくゼロ。
 それを呼び寄せるシーナの笑顔は達人の域を超えて最早神の領域だ。

「ゼロさん。西のイバンス王国の冒険者ギルドから指名依頼が来ましたよ」
「はい?」

 アイラス王国の西の隣国がイバンス王国だ。
 山あいに囲まれて国土も狭い小国で、アイラス王国の大貴族の所領程の規模だ。
 国力も弱く、軍事力も脆弱であるが、山に囲まれた攻め辛い地形と豊富な鉱山を資本とした外交力に長け、周辺国と友好な関係を築いて国を守っている。
 現国王である女王のシンシア・イバンスは14歳とアイラス国王よりも若い。
 そんなイバンス王国の冒険者ギルドからゼロを指名した依頼だ。

「どういうことですか?如何に小国とはいえ、それなりの冒険者はいるのではありませんか?」

 ゼロの疑問は尤もである。
 確かにゼロは数年前に魔王を討伐した。
 しかし、その情報は秘匿され、ごく限られた者しか知らない事実である。
 つまり、先方は魔王を討ち果たした冒険者を望んでいるものではない。
 そうなれば、答えは1つしかない。

「そう・・・ですね。どうやらネクロマンサーとしてのゼロさんの力が必要なようです」

 シーナがゼロに依頼文を差し出す。
 内容を確認したところ、確かにネクロマンサーのゼロに対する依頼だ。
 イバンス王国のある街の鉱山で古い遺跡が掘り当てられたが、その遺跡から大量のアンデッドが溢れ出してきた。
 鉱山の作業員と街の住民に大きな被害が出たが、軍と依頼を受けた冒険者達により騒ぎは鎮められ、遺跡の入口も封鎖したが、周辺の小さな洞窟等から這い出してくるアンデッドが後を絶たず、街が脅威に曝されている。
 原因を突き止めるべく冒険者達が遺跡に潜ったが、誰も帰ってこなかった。
 
「なるほど、そこで死霊術師の私に。ということですか」

 ゼロは頷いた。
 確かにこれは特殊な専門知識を持つネクロマンサーの出番かもしれない。
 魔王を討伐した実績は知られていなくとも、黒等級のネクロマンサーの存在を知る者は多い。
 
「確かに、周辺国のギルドの情報を見てもネクロマンサーの冒険者さんが所属しているギルドはいくつかありますが、皆さん中位以下の方で、上位冒険者はゼロさんしかいませんね。もしかすると、世界中を探してもゼロさん以上の方は居ないかもしれませんね」

 そう話すシーナは少しだけ嬉しそうだ。
 尤も、彼女はゼロが足下にも及ばない程のネクロマンサー、ゼロの師匠のフェイレスの存在を知らない。

「どうしますか?」

 一応ゼロに伺いをたてるが、シーナはゼロが断らない事を知っている。

「そうですね。お役に立てるかどうか分かりませんが、行ってみます」

 予想どおり、引き受けるゼロ。
 依頼の内容から相当に危険で困難な仕事であることは分かる。
 ただ、シーナはゼロのことを心配することを止めた。
 自分がゼロのことを待つと決めたのだから、心配する気持ちも自分の中に仕舞い込んだのだ。
 それに、ゼロは必ず帰ってくると信じているからこそ、仕事に出るゼロを笑顔で見送り、笑顔で迎えると決めた。

「分かりました。依頼受諾の郵便鳥を飛ばしますね。ところで、1人で行かれますか?」

 ゼロの指名依頼だ、以前のゼロならば1人で行くと言い始め、それをレナに見つかって叱られるということがお約束だった。

「そうですね、レナさんとイズさん、リズさんに同行をお願いしてみます」

 ゼロにしては珍しく複数で臨むようだ。

「それでは、風の都市のギルドから4人の冒険者が向かうと返信しますね」
「いや、まだレナさん達が引き受けてくれるかどうか分かりませんよ」

 ゼロの言葉にシーナは呆れ顔だ。

(あの3人が引き受けないわけないじゃないですか。たとえ国王陛下に直々に呼ばれていてもあの3人ならその予定を反故にしてもゼロさんについて行きますよ)

 シーナの思いどおり、ゼロに同行を打診された3人は

「何を言ってるの?まあ、私に聞いてきただけマシになったかしら」
「私達がお供するのは当然だと思いますが」
「断られてもついて行きますし、逃げても追いかけていきますよ」

と、当然の如く同行することになった。
 
 翌朝、旅の準備を整えた4人はシーナの笑顔に見送られて西へと旅立った。
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