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シルバーエルフ対ダークエルフ
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「ゼロ様っ!」
リズの声に振り返ったライズが目にしたのは右肩に矢が刺さったゼロの姿だった。
「狙撃かっ!一旦退くぞ!」
ライズの指示で前線にいた全員が後退を始める。
「大丈夫です!敵を殲滅しましょう」
ライズ達を止めようとしたゼロの襟首をレナとリズが掴んで引きずりながら後方に下がる。
「大丈夫なわけないでしょう!」
「そうです!暗殺者の矢であれば毒が塗られている可能性が高いです。直ぐに解毒を!」
ゼロは踏みとどまろうとするが、レナとリズの女性とは思えないほどの力で引きずられ、戦場から引き離される。
ライズ達も残りの敵をそのままにして後退してくるが、それで終わりではなかった。
イズ、リズ、イリーナの精霊魔法に加え、レナの怒りの雷撃魔法により残された魔物達は塵1つ残さずに消滅させられていた。
「ゼロ!大丈夫か!」
地面に倒れた、というよりもレナとリズに無理やりに押し倒されたという方が正しいが、横たわっているゼロの横にライズが膝をついて右肩に刺さった矢を確認しようとするが、そのライズもレナとリズに押しのけられた。
「ゼロ様!ゼロ様!あぁ、早く治療を!」
「ゼロ!体調に変化はない?」
2人はゼロの上着を切り裂こうとするが、それをゼロが止める。
「大丈夫です。鏃は払いました。刺さっているのは矢柄だけです」
上体を起こしたゼロが右肩に刺さった矢を引き抜いた。
ゼロの言うとおりその矢の鏃は切り落とされ、鋭く尖った矢柄が突き刺さっていた。
「ゼロ様、これは?」
「はい、どうにか矢を払おうとしたのですが、モースさんの剣の切れ味が鋭過ぎて鏃を切り落としたのはいいのですが、矢の本体の勢いが死にませんでした」
ゼロは立ち上がりながら説明する。
リズはゼロから引ったくるように矢を奪い取り、ゼロの血が付いた矢柄を調べる。
ゼロを除く皆の視線がリズに集まる。
「・・・大丈夫です。毒の類は付いてません」
へたり込むリズの声をきいたレナ達が胸をなで下ろす傍らでゼロが周囲を見渡している。
「撤退しましょう」
ゼロの言葉にライズも頷いた。
「そうだな。敵も殲滅できたしな」
しかし、ゼロの表情は険しい。
「いえ、私の負けです。敵にこの隊の指揮者が私であることを見抜かれました。私程度の浅い策が通じる相手ではありませんでした。尤も、私の正体まではバレていないでしょうが、それも時間の問題でしょう」
ゼロは周囲を警戒しながら歩き出した。
「直ぐに追跡者が来ます。逃げ切れるとは思えませんが、この場から少しでも離れましょう」
ライズが肩を竦めながらゼロの後を追う。
「やっぱり俺じゃ力不足だったかな?」
「そうね、勇者や英雄はもっと勤勉な人だからね。ライズとは真逆だわ」
呆れ顔のイリーナが続き、他の者も後に続いた。
そんな中でシルバーエルフの双子のイズとリズは互いに目を合わせて頷き合っている。
「ゼロ様、私達2人はここに残って追跡者を始末します」
イズの申し出にゼロは振り返った。
「駄目です。追跡者の規模が分からない以上は危険過ぎます」
しかし、2人は決意の表情を変えない。
イズに続いてリズが口を開く。
「私達には追跡者の規模は予測できます。せいぜい5人程度です」
「その根拠は?」
「ゼロ様の暗殺に失敗し、部隊が全滅した時点でこの場でゼロ様達を抹殺するのは困難です。ならば追跡者を出して情報を集め、次の機会の策を練るはずですが、追跡者が多すぎるとその存在が容易に知られてしまいます。隠密性を保ってより正確な情報を得るためには5人程度が丁度いいのです」
「妹の言うとおりです。私達もかつてはダークエルフと呼ばれていました。そのような知識と技術、そして対抗策も会得しています。私達2人ならば追跡者の始末も容易にできます。いや、私達でなければ無理です」
「ゼロ様、兄と私にお任せください」
リズに懇願されてゼロは考える。
「・・・分かりました。シルバーエルフの2人に任せます。ただ、連隊長として1つだけ命じます。追跡者の殲滅よりも、無事に戻ることを優先することです」
ゼロの命令を聞いた双子のシルバーエルフは揃って膝をついて頭を垂れた。
ゼロ達が撤退した森の中にイズとリズは残った。
「ゼロ様が私達に任せてくれた。嬉しいことですね、兄様」
「ああ、ゼロ様の背中を追ってここまで来たが、ようやく私達を認めてくれたのかな。お前の言うとおり嬉しい限りだ」
「でも兄様、この程度で満足してはダメですよ。私達はまだまだゼロ様のお側でお役に立たなければいけませんから」
「当たり前だ。この程度の敵に手間取っていては話にならん。早々に片付けるぞ」
「当然です。感じられるのはダークエルフが6人ですね。シルバーエルフの実力を見せてやりましょう」
2人は森の中に姿を消した。
静寂に包まれた森の中で殺気や気配、物音すらも消した隠密者達の静かなる闘いが繰り広げられた。
ゼロ達を追ってきた追跡者はリズが察知したとおりダークエルフが6人、分散して姿を隠しながら進んできた。
最初に犠牲になったのは最後尾を行くダークエルフの指揮官だった。
数百年に渡って裏稼業に身を置き続け、スパイや暗殺者として生きてきた彼だが、その生涯の幕切れは一瞬のことであった。
木の枝から地面に飛び降りた瞬間、突然背後に立ったイズに口を塞がれて喉元を切り裂かれた。
気管ごと切られて悲鳴を上げることの出来ないまま意識が遠のく。
絶命した彼を静かに横たえたイズは木の枝に飛び移り、次の目標に向かって飛んだ。
黒いボディースーツを身に纏ったダークエルフの女は木の枝の上に潜んで周囲を見渡していた。
その彼女の背後に音もなく飛び降りたリズは矢筒から取り出していた矢をダークエルフの女の左肩甲骨の隙間から心臓に向かって一気に差し込む。
心臓を貫かれたダークエルフの女は即死し、脱力して枝から落ちそうになったところを更に1本の矢で首ごと木に植えつけられた。
イズとリズの奇襲を受けたダークエルフ達は突然の襲撃で2人を失った時、自分達が追跡者でなく狙われる側に立たされていることを知り、直ちに反撃の体勢を取る。
4人は密集することなく散り散りになって敵の数、装備、能力を探ろうとするが、その間にまた1人、眉間を矢で射抜かれて倒れた。
見えざる敵は自分達よりも上手で隠密性に優れている。
残されたダークエルフは残りの3人の中の1人を逃がして情報を持ち帰ることを優先することを決めた。
仲間を犠牲にしても情報を持ち帰ることが諜報員のセオリーであり、イズとリズもダークエルフ達の考えが手に取るように分かる。
2人は双子ならではの意志の疎通により無言のままでそれぞれの役割を判断した。
イズが息を潜めて気配を消し、リズがダークエルフを仕留めるために動く。
本来ならば近接戦闘に長けたイズが敵を殲滅し、リズが情報を持ち帰ろうとする1人を仕留めるべきだが、既に弓矢を持つ者がいることが知られている以上はリズが前面に出てこちらの戦力を相手に気取られない方がいいのだ。
残るダークエルフの内2人は囮になるためか、互いに距離を取りながらもその姿を晒している。
反撃を防ぐためにはこの2人を同時に倒さなければならないが、弓矢では同時に倒すことはできない。
リズは弓を背負い、短剣を抜き、更にナイフを口に咥えた。
呼吸を止めて気配を殺し、木の枝の上に移動する。
真下にいるダークエルフはリズの存在に気付いているはずだが、その素振りを見せない。
自分が餌であることに徹しているのだろう。
(自らの命をも犠牲にする、見上げた覚悟ね。でも、私の生きる覚悟はその上を行くわ)
リズは真下のダークエルフ目掛けて飛び降りた。
それを待ち構えていたダークエルフが剣を突き上げると共に離れた位置にいるもう1人が落下中のリズに向かってナイフを投げた。
ダークエルフの剣とナイフがリズに突き刺さろうとするその瞬間、リズは密かに枝に括りつけていた細いロープを張って一瞬だけ空中に停止し、攻撃のタイミングをずらす。
剣とナイフを躱したリズはロープを手放して真下のダークエルフの首に短剣を突き立てると同時に咥えていたナイフをもう1人のダークエルフに投擲してその右目を潰す。
1人目のダークエルフは即死し、右目を潰されたダークエルフが僅かに怯んだ一瞬の隙を逃さず、リズは弓を構え直して矢を放ち、その矢がダークエルフの眉間を貫いた。
リズが2人のダークエルフを同時に仕留めたその隙を狙って隠れていた最後の1人が脱兎の如く駆け出した。
リズは即座に追撃の矢を放つが間に合わず、放たれた矢は空を切った。
逃げ切れたっ!
ダークエルフがそう思ったのも束の間、予め逃走路を予測して潜んでいたイズが草むらから飛び出し、すれ違いざまにダークエルフの頭を斬り飛ばした。
頭部を失った身体は更に5歩ほど走り続けた後に力を失って倒れた。
「終わったな。リズ、怪我はないか?」
イズは周囲を見回しながら剣を納めた。
「当然です。この程度の敵にかすり傷でも受けようものではゼロ様と共に戦うことはできません。でも、ゼロ様に名付けていただいたシルバーエルフの名の象徴する髪を敵の血で汚したのは不本意です」
リズはダークエルフの返り血を浴び、戦いで乱れた銀色の長い髪を払った。
ここにシルバーエルフとダークエルフ、同族でありながら呼び名の違うエルフ達の戦いが幕を閉じた。
「彼等も私達と同じ森に生まれていれば・・。いえ、私達のようにゼロ様に出会えていれば、剣を交えることもなかったでしょうに」
リズは膝をつき、戦いに倒れたエルフ達のために精霊の祈りを捧げた。
「肉体は大地に還り、魂は精霊へと昇華することを精霊の子の名の下に願う・・・」
全身に返り血を纏い、血に染まりながら祈りを捧げるそのリズの姿は妖艶な美しさに満ちていた。
リズの声に振り返ったライズが目にしたのは右肩に矢が刺さったゼロの姿だった。
「狙撃かっ!一旦退くぞ!」
ライズの指示で前線にいた全員が後退を始める。
「大丈夫です!敵を殲滅しましょう」
ライズ達を止めようとしたゼロの襟首をレナとリズが掴んで引きずりながら後方に下がる。
「大丈夫なわけないでしょう!」
「そうです!暗殺者の矢であれば毒が塗られている可能性が高いです。直ぐに解毒を!」
ゼロは踏みとどまろうとするが、レナとリズの女性とは思えないほどの力で引きずられ、戦場から引き離される。
ライズ達も残りの敵をそのままにして後退してくるが、それで終わりではなかった。
イズ、リズ、イリーナの精霊魔法に加え、レナの怒りの雷撃魔法により残された魔物達は塵1つ残さずに消滅させられていた。
「ゼロ!大丈夫か!」
地面に倒れた、というよりもレナとリズに無理やりに押し倒されたという方が正しいが、横たわっているゼロの横にライズが膝をついて右肩に刺さった矢を確認しようとするが、そのライズもレナとリズに押しのけられた。
「ゼロ様!ゼロ様!あぁ、早く治療を!」
「ゼロ!体調に変化はない?」
2人はゼロの上着を切り裂こうとするが、それをゼロが止める。
「大丈夫です。鏃は払いました。刺さっているのは矢柄だけです」
上体を起こしたゼロが右肩に刺さった矢を引き抜いた。
ゼロの言うとおりその矢の鏃は切り落とされ、鋭く尖った矢柄が突き刺さっていた。
「ゼロ様、これは?」
「はい、どうにか矢を払おうとしたのですが、モースさんの剣の切れ味が鋭過ぎて鏃を切り落としたのはいいのですが、矢の本体の勢いが死にませんでした」
ゼロは立ち上がりながら説明する。
リズはゼロから引ったくるように矢を奪い取り、ゼロの血が付いた矢柄を調べる。
ゼロを除く皆の視線がリズに集まる。
「・・・大丈夫です。毒の類は付いてません」
へたり込むリズの声をきいたレナ達が胸をなで下ろす傍らでゼロが周囲を見渡している。
「撤退しましょう」
ゼロの言葉にライズも頷いた。
「そうだな。敵も殲滅できたしな」
しかし、ゼロの表情は険しい。
「いえ、私の負けです。敵にこの隊の指揮者が私であることを見抜かれました。私程度の浅い策が通じる相手ではありませんでした。尤も、私の正体まではバレていないでしょうが、それも時間の問題でしょう」
ゼロは周囲を警戒しながら歩き出した。
「直ぐに追跡者が来ます。逃げ切れるとは思えませんが、この場から少しでも離れましょう」
ライズが肩を竦めながらゼロの後を追う。
「やっぱり俺じゃ力不足だったかな?」
「そうね、勇者や英雄はもっと勤勉な人だからね。ライズとは真逆だわ」
呆れ顔のイリーナが続き、他の者も後に続いた。
そんな中でシルバーエルフの双子のイズとリズは互いに目を合わせて頷き合っている。
「ゼロ様、私達2人はここに残って追跡者を始末します」
イズの申し出にゼロは振り返った。
「駄目です。追跡者の規模が分からない以上は危険過ぎます」
しかし、2人は決意の表情を変えない。
イズに続いてリズが口を開く。
「私達には追跡者の規模は予測できます。せいぜい5人程度です」
「その根拠は?」
「ゼロ様の暗殺に失敗し、部隊が全滅した時点でこの場でゼロ様達を抹殺するのは困難です。ならば追跡者を出して情報を集め、次の機会の策を練るはずですが、追跡者が多すぎるとその存在が容易に知られてしまいます。隠密性を保ってより正確な情報を得るためには5人程度が丁度いいのです」
「妹の言うとおりです。私達もかつてはダークエルフと呼ばれていました。そのような知識と技術、そして対抗策も会得しています。私達2人ならば追跡者の始末も容易にできます。いや、私達でなければ無理です」
「ゼロ様、兄と私にお任せください」
リズに懇願されてゼロは考える。
「・・・分かりました。シルバーエルフの2人に任せます。ただ、連隊長として1つだけ命じます。追跡者の殲滅よりも、無事に戻ることを優先することです」
ゼロの命令を聞いた双子のシルバーエルフは揃って膝をついて頭を垂れた。
ゼロ達が撤退した森の中にイズとリズは残った。
「ゼロ様が私達に任せてくれた。嬉しいことですね、兄様」
「ああ、ゼロ様の背中を追ってここまで来たが、ようやく私達を認めてくれたのかな。お前の言うとおり嬉しい限りだ」
「でも兄様、この程度で満足してはダメですよ。私達はまだまだゼロ様のお側でお役に立たなければいけませんから」
「当たり前だ。この程度の敵に手間取っていては話にならん。早々に片付けるぞ」
「当然です。感じられるのはダークエルフが6人ですね。シルバーエルフの実力を見せてやりましょう」
2人は森の中に姿を消した。
静寂に包まれた森の中で殺気や気配、物音すらも消した隠密者達の静かなる闘いが繰り広げられた。
ゼロ達を追ってきた追跡者はリズが察知したとおりダークエルフが6人、分散して姿を隠しながら進んできた。
最初に犠牲になったのは最後尾を行くダークエルフの指揮官だった。
数百年に渡って裏稼業に身を置き続け、スパイや暗殺者として生きてきた彼だが、その生涯の幕切れは一瞬のことであった。
木の枝から地面に飛び降りた瞬間、突然背後に立ったイズに口を塞がれて喉元を切り裂かれた。
気管ごと切られて悲鳴を上げることの出来ないまま意識が遠のく。
絶命した彼を静かに横たえたイズは木の枝に飛び移り、次の目標に向かって飛んだ。
黒いボディースーツを身に纏ったダークエルフの女は木の枝の上に潜んで周囲を見渡していた。
その彼女の背後に音もなく飛び降りたリズは矢筒から取り出していた矢をダークエルフの女の左肩甲骨の隙間から心臓に向かって一気に差し込む。
心臓を貫かれたダークエルフの女は即死し、脱力して枝から落ちそうになったところを更に1本の矢で首ごと木に植えつけられた。
イズとリズの奇襲を受けたダークエルフ達は突然の襲撃で2人を失った時、自分達が追跡者でなく狙われる側に立たされていることを知り、直ちに反撃の体勢を取る。
4人は密集することなく散り散りになって敵の数、装備、能力を探ろうとするが、その間にまた1人、眉間を矢で射抜かれて倒れた。
見えざる敵は自分達よりも上手で隠密性に優れている。
残されたダークエルフは残りの3人の中の1人を逃がして情報を持ち帰ることを優先することを決めた。
仲間を犠牲にしても情報を持ち帰ることが諜報員のセオリーであり、イズとリズもダークエルフ達の考えが手に取るように分かる。
2人は双子ならではの意志の疎通により無言のままでそれぞれの役割を判断した。
イズが息を潜めて気配を消し、リズがダークエルフを仕留めるために動く。
本来ならば近接戦闘に長けたイズが敵を殲滅し、リズが情報を持ち帰ろうとする1人を仕留めるべきだが、既に弓矢を持つ者がいることが知られている以上はリズが前面に出てこちらの戦力を相手に気取られない方がいいのだ。
残るダークエルフの内2人は囮になるためか、互いに距離を取りながらもその姿を晒している。
反撃を防ぐためにはこの2人を同時に倒さなければならないが、弓矢では同時に倒すことはできない。
リズは弓を背負い、短剣を抜き、更にナイフを口に咥えた。
呼吸を止めて気配を殺し、木の枝の上に移動する。
真下にいるダークエルフはリズの存在に気付いているはずだが、その素振りを見せない。
自分が餌であることに徹しているのだろう。
(自らの命をも犠牲にする、見上げた覚悟ね。でも、私の生きる覚悟はその上を行くわ)
リズは真下のダークエルフ目掛けて飛び降りた。
それを待ち構えていたダークエルフが剣を突き上げると共に離れた位置にいるもう1人が落下中のリズに向かってナイフを投げた。
ダークエルフの剣とナイフがリズに突き刺さろうとするその瞬間、リズは密かに枝に括りつけていた細いロープを張って一瞬だけ空中に停止し、攻撃のタイミングをずらす。
剣とナイフを躱したリズはロープを手放して真下のダークエルフの首に短剣を突き立てると同時に咥えていたナイフをもう1人のダークエルフに投擲してその右目を潰す。
1人目のダークエルフは即死し、右目を潰されたダークエルフが僅かに怯んだ一瞬の隙を逃さず、リズは弓を構え直して矢を放ち、その矢がダークエルフの眉間を貫いた。
リズが2人のダークエルフを同時に仕留めたその隙を狙って隠れていた最後の1人が脱兎の如く駆け出した。
リズは即座に追撃の矢を放つが間に合わず、放たれた矢は空を切った。
逃げ切れたっ!
ダークエルフがそう思ったのも束の間、予め逃走路を予測して潜んでいたイズが草むらから飛び出し、すれ違いざまにダークエルフの頭を斬り飛ばした。
頭部を失った身体は更に5歩ほど走り続けた後に力を失って倒れた。
「終わったな。リズ、怪我はないか?」
イズは周囲を見回しながら剣を納めた。
「当然です。この程度の敵にかすり傷でも受けようものではゼロ様と共に戦うことはできません。でも、ゼロ様に名付けていただいたシルバーエルフの名の象徴する髪を敵の血で汚したのは不本意です」
リズはダークエルフの返り血を浴び、戦いで乱れた銀色の長い髪を払った。
ここにシルバーエルフとダークエルフ、同族でありながら呼び名の違うエルフ達の戦いが幕を閉じた。
「彼等も私達と同じ森に生まれていれば・・。いえ、私達のようにゼロ様に出会えていれば、剣を交えることもなかったでしょうに」
リズは膝をつき、戦いに倒れたエルフ達のために精霊の祈りを捧げた。
「肉体は大地に還り、魂は精霊へと昇華することを精霊の子の名の下に願う・・・」
全身に返り血を纏い、血に染まりながら祈りを捧げるそのリズの姿は妖艶な美しさに満ちていた。
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