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作られた英雄
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ゼロは意識が無い危険な状況のままで風の都市の治療院に運び込まれた。
ゼロの身体を詳細に確認した医師は
「身体に付いた毒は全て取り除いてあるからこれ以上の浸食の心配はないが、それ以前に浴びた毒と負傷でいつ死んでも不思議ではない。今は本人の生命力に賭けるしかない」
と説明し、ゼロはそのまま入院となった。
その知らせを受けた風の都市の冒険者ギルドでシーナが顔面蒼白になり、そのまま倒れるという事態になったが、その後にギルドの休憩室で目を覚ましたシーナは気丈に振る舞い、ドラゴン・ゾンビ出現の厄災の後始末の事務処理に当たっていた。
「ゼロさんに教わったことです。元気になったゼロさんに胸を張っておかえりなさいと言うために私の仕事は全うします」
ゼロが出発する時に感じた言いようのない不安。
あの時に無理にでもゼロを引き止めればよかったと思う反面、ゼロが北に行かなければ被害は甚大なものになっていた筈だというジレンマ。
そして何よりもシーナが引き止めたとしてもゼロはそれを振り切ってでも旅立っただろう。
シーナに限ったことではない、自分の為すべきことを見つけたゼロを止めることは誰にもできないだろう。
だからこそ、ゼロのことを誰よりも理解しているつもりのシーナは直ぐにでもゼロが運ばれた治療院に駆けつけたい気持ちを抑えて自分の仕事を全うしていた。
王国を震撼させたドラゴン・ゾンビは聖騎士団と魔導部隊、そしてそれに同行した金等級冒険者2人によって撃退され、危機は回避された。
聖騎士団が現場に到着した時、そこにいたのは前脚を1本失ったドラゴン・ゾンビだった。
それでもドラゴン・ゾンビを倒し、消滅させるまでに聖騎士数十名と金等級冒険者1人が犠牲になった。
ドラゴン・ゾンビの脅威とはそれ程のものであり、天災にも等しい被害をもたらすものだ。
今回のドラゴン・ゾンビの出現による被害は百人以上の鉱山夫等と金等級冒険者と数十名の聖騎士。
多大な被害であることには変わりはないが、それでもドラゴン・ゾンビの出現による被害としては無に等しいと言える。
本来であればいくつもの町が犠牲になってもおかしくないのだ。
それなのに、いち早く危険を察知し、町の住民全てを無事に避難させて被害を最小限に抑えたのはある冒険者達の活躍であり、国は聖騎士団の活躍の他にその冒険者達を大々的に宣伝した。
その知らせを受けた人々はその冒険者達を新たなる英雄と称え、7人の英雄、七英雄と呼んだ。
国が祭り上げた7人の英雄は、魔導師、神官、レンジャー、槍戦士、魔術師、武闘僧侶、斥候の7人。
この7人に対して国は勲章の授与を決め、ギルド本部に対して全員の冒険者等級の昇級をすることを通告した。
しかし、真に称えられるべき者の名は意図的に消されており、命をかけ、瀕死の中にいる彼には何の報いもなかった。
レナは銀等級、セイラとアイリアは紫等級、レオン、カイル、ルシア、マッキは青等級になった。
「俺達は英雄なんかじゃない!ゼロさんがいなければ俺達は何もできなかった。真の英雄はゼロさんだ!俺達は英雄なんて名乗ることはできない!」
自分達だけが昇級して勲章を授与され、さらには英雄などともてはやされることに憤慨したレオンはそれを伝えたシーナに抗議した。
彼のパーティーメンバーやセイラ達も同じ気持ちだが、レナは違う気持ちだった。
祭り上げられることに頑として納得しないレオン達に対してシーナは泣きながら土下座して懇願した。
「撃退されたとはいえ、ドラゴン・ゾンビ出現の事実という国民の不安を和らげるために英雄になる人が必要なんです。しかもレオンさん達は多くの住民を助けたという揺るぎない実績があるんです。お願いします、ゼロさんのためにも受け入れて下さい」
「ゼロさんのため?」
「ゼロさんは英雄になることなど微塵も考えていません。ネクロマンサーは人々の尊敬の対象になってはいけないと本気で思っている人なんです。そんなゼロさんにこんなことをお願いしても絶対に受け入れてくれませんし、却って彼を困らせるだけなんです。それに・・・」
言いよどんだシーナの言葉をレナが続けた。
「それに、多くの民を救った英雄が黒等級のネクロマンサーとは、国として政治的に受け入れられないってことでしょう?」
「はい」
レナの言葉にシーナが頷くが、これは確かに政治的な判断としてはやむを得ないことだ。
ドラゴン・ゾンビの脅威から人々を守ったのが多くのアンデッドを従えるネクロマンサーとは、政治的にもそうだが、国民の信仰を守るためにも公にはできないのだ。
レナは土下座するシーナを立ち上がらせた。
「分かりました。私は今回に限り、その任を引き受けます。現実的にはドラゴン・ゾンビを倒したのは聖騎士団達だし、英雄と言っても町の人々を無事に逃がしたという実績だけのささやかな英雄でしょう?」
そう言ってレナが受諾するとなると、固辞していたレオン達も受け入れざるを得ない状況になった。
それでも納得がいかないのはセイラだ。
「私も信仰を守るためならば身分不相応な英雄として祭り上げられることも吝かではありません。ただ、文字通り命がけで戦ったゼロさんがなにも報われないのは納得がいきません」
セイラの意見はシーナを含めて全員が同じ気持ちであるが、現実的に国からの勲章は与えられない、ある意味で最高位の黒等級のゼロを昇級させることもできないのだ。
「非常に下品ではありますが、ゼロさんに対しては金銭面で報いさせていただきます。これはギルド職員としての私のプライドをかけて実行して見せます」
シーナの決意の表情を見たレオン達は今度こそ納得してシーナの願いを受け入れた。
「こうなったら英雄になろうぜ。いつかは英雄になることを夢見ていたんだ。確かに今回は名ばかりの作り上げられた英雄だが、これから自分達で努力して真の英雄と呼ばれるようになろう」
レオンの言葉にルシアも笑った。
「そうね、先に英雄に祭り上げられたけど、その名に恥じないように精進しないとね。これは凄いプレッシャーだわ」
その言葉に他のメンバーも同意した。
セイラとアイリアも互いに頷きあう。
「私達も、今まで頑張ってきたんですから」
「そうね、英雄の名に恥じないようにこれからも頑張りましょう」
6人は英雄の名に恥じない努力をする決意を固めたが、最初に英雄になることを受け入れたレナだけは違っていた。
(私が英雄になるのは今回だけ。今後この英雄の名を汚そうが、貶めようとそれは私の自由)
レナは言葉にこそ出さないが、レオン達とは別の道を進むことを決意していた。
そしてここに七英雄と呼ばれる新たな英雄達が誕生した。
ゼロの意識はまだ戻らない。
ゼロの身体を詳細に確認した医師は
「身体に付いた毒は全て取り除いてあるからこれ以上の浸食の心配はないが、それ以前に浴びた毒と負傷でいつ死んでも不思議ではない。今は本人の生命力に賭けるしかない」
と説明し、ゼロはそのまま入院となった。
その知らせを受けた風の都市の冒険者ギルドでシーナが顔面蒼白になり、そのまま倒れるという事態になったが、その後にギルドの休憩室で目を覚ましたシーナは気丈に振る舞い、ドラゴン・ゾンビ出現の厄災の後始末の事務処理に当たっていた。
「ゼロさんに教わったことです。元気になったゼロさんに胸を張っておかえりなさいと言うために私の仕事は全うします」
ゼロが出発する時に感じた言いようのない不安。
あの時に無理にでもゼロを引き止めればよかったと思う反面、ゼロが北に行かなければ被害は甚大なものになっていた筈だというジレンマ。
そして何よりもシーナが引き止めたとしてもゼロはそれを振り切ってでも旅立っただろう。
シーナに限ったことではない、自分の為すべきことを見つけたゼロを止めることは誰にもできないだろう。
だからこそ、ゼロのことを誰よりも理解しているつもりのシーナは直ぐにでもゼロが運ばれた治療院に駆けつけたい気持ちを抑えて自分の仕事を全うしていた。
王国を震撼させたドラゴン・ゾンビは聖騎士団と魔導部隊、そしてそれに同行した金等級冒険者2人によって撃退され、危機は回避された。
聖騎士団が現場に到着した時、そこにいたのは前脚を1本失ったドラゴン・ゾンビだった。
それでもドラゴン・ゾンビを倒し、消滅させるまでに聖騎士数十名と金等級冒険者1人が犠牲になった。
ドラゴン・ゾンビの脅威とはそれ程のものであり、天災にも等しい被害をもたらすものだ。
今回のドラゴン・ゾンビの出現による被害は百人以上の鉱山夫等と金等級冒険者と数十名の聖騎士。
多大な被害であることには変わりはないが、それでもドラゴン・ゾンビの出現による被害としては無に等しいと言える。
本来であればいくつもの町が犠牲になってもおかしくないのだ。
それなのに、いち早く危険を察知し、町の住民全てを無事に避難させて被害を最小限に抑えたのはある冒険者達の活躍であり、国は聖騎士団の活躍の他にその冒険者達を大々的に宣伝した。
その知らせを受けた人々はその冒険者達を新たなる英雄と称え、7人の英雄、七英雄と呼んだ。
国が祭り上げた7人の英雄は、魔導師、神官、レンジャー、槍戦士、魔術師、武闘僧侶、斥候の7人。
この7人に対して国は勲章の授与を決め、ギルド本部に対して全員の冒険者等級の昇級をすることを通告した。
しかし、真に称えられるべき者の名は意図的に消されており、命をかけ、瀕死の中にいる彼には何の報いもなかった。
レナは銀等級、セイラとアイリアは紫等級、レオン、カイル、ルシア、マッキは青等級になった。
「俺達は英雄なんかじゃない!ゼロさんがいなければ俺達は何もできなかった。真の英雄はゼロさんだ!俺達は英雄なんて名乗ることはできない!」
自分達だけが昇級して勲章を授与され、さらには英雄などともてはやされることに憤慨したレオンはそれを伝えたシーナに抗議した。
彼のパーティーメンバーやセイラ達も同じ気持ちだが、レナは違う気持ちだった。
祭り上げられることに頑として納得しないレオン達に対してシーナは泣きながら土下座して懇願した。
「撃退されたとはいえ、ドラゴン・ゾンビ出現の事実という国民の不安を和らげるために英雄になる人が必要なんです。しかもレオンさん達は多くの住民を助けたという揺るぎない実績があるんです。お願いします、ゼロさんのためにも受け入れて下さい」
「ゼロさんのため?」
「ゼロさんは英雄になることなど微塵も考えていません。ネクロマンサーは人々の尊敬の対象になってはいけないと本気で思っている人なんです。そんなゼロさんにこんなことをお願いしても絶対に受け入れてくれませんし、却って彼を困らせるだけなんです。それに・・・」
言いよどんだシーナの言葉をレナが続けた。
「それに、多くの民を救った英雄が黒等級のネクロマンサーとは、国として政治的に受け入れられないってことでしょう?」
「はい」
レナの言葉にシーナが頷くが、これは確かに政治的な判断としてはやむを得ないことだ。
ドラゴン・ゾンビの脅威から人々を守ったのが多くのアンデッドを従えるネクロマンサーとは、政治的にもそうだが、国民の信仰を守るためにも公にはできないのだ。
レナは土下座するシーナを立ち上がらせた。
「分かりました。私は今回に限り、その任を引き受けます。現実的にはドラゴン・ゾンビを倒したのは聖騎士団達だし、英雄と言っても町の人々を無事に逃がしたという実績だけのささやかな英雄でしょう?」
そう言ってレナが受諾するとなると、固辞していたレオン達も受け入れざるを得ない状況になった。
それでも納得がいかないのはセイラだ。
「私も信仰を守るためならば身分不相応な英雄として祭り上げられることも吝かではありません。ただ、文字通り命がけで戦ったゼロさんがなにも報われないのは納得がいきません」
セイラの意見はシーナを含めて全員が同じ気持ちであるが、現実的に国からの勲章は与えられない、ある意味で最高位の黒等級のゼロを昇級させることもできないのだ。
「非常に下品ではありますが、ゼロさんに対しては金銭面で報いさせていただきます。これはギルド職員としての私のプライドをかけて実行して見せます」
シーナの決意の表情を見たレオン達は今度こそ納得してシーナの願いを受け入れた。
「こうなったら英雄になろうぜ。いつかは英雄になることを夢見ていたんだ。確かに今回は名ばかりの作り上げられた英雄だが、これから自分達で努力して真の英雄と呼ばれるようになろう」
レオンの言葉にルシアも笑った。
「そうね、先に英雄に祭り上げられたけど、その名に恥じないように精進しないとね。これは凄いプレッシャーだわ」
その言葉に他のメンバーも同意した。
セイラとアイリアも互いに頷きあう。
「私達も、今まで頑張ってきたんですから」
「そうね、英雄の名に恥じないようにこれからも頑張りましょう」
6人は英雄の名に恥じない努力をする決意を固めたが、最初に英雄になることを受け入れたレナだけは違っていた。
(私が英雄になるのは今回だけ。今後この英雄の名を汚そうが、貶めようとそれは私の自由)
レナは言葉にこそ出さないが、レオン達とは別の道を進むことを決意していた。
そしてここに七英雄と呼ばれる新たな英雄達が誕生した。
ゼロの意識はまだ戻らない。
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