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呪われた鉱山1

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 翌日、一行は鉱山宿舎が見下ろせる丘の上にいた。
 大きく開いた鉱山の入口の前にいくつもの宿舎が建ち並んでいる。
 建物に大きな損壊は認められない。

「なんだこれは!」

 丘の上から見下ろすレオンが思わず声を上げた。
 彼等が目にしたのは敷地内を徘徊する無数のゾンビの集団、その数は見えるだけで数十体に及ぶ。

「やはり、ここの人々は全滅しているようですね。しかし、何があったんだ」

 カイルの表情も青ざめている。
 そんな中で冷静に状況を観察していたレナが異変に気付いた。

「ちょっと変ね。ゾンビの殆どが敷地から出ようとしていない?街道方向に向かっても引き返してくるわ」

 レナの言うとおり、ゾンビ達は徘徊しているようでありながらも敷地から遠く離れようとしていない。
 まるでその場に縛られているようだ。

「何らかの呪いの類?」

 だとするとゾンビをこの場に留める必要がある何者かがいる。

「でも、昨夜のゾンビはここを離れていましたよね?」

 セイラが疑問を投げかける。
 その点に関してはレナも合点がいかない。

「どうしますか?殲滅・・・は難しいかな?」

 カイルが意見を伺うが、皆が判断しかねている。

「昨日のゾンビと同じならば毒を持っているから接近戦は危険だと思うけど、魔法での遠距離攻撃で殲滅することは不可能ではないわ。でも、あまり得策ではないかもしれない」

 レナの判断にレオンが首を傾げた。

「どういうことですか?」
「確かに宿舎は全滅、人々はゾンビに変質してしまっている。ここに対してはもう手遅れなのだけど、ここ以外に被害が広がっていない。将来的には分からないけど、今のうちに専門家の意見を聞いて被害拡大防止の措置を取るべきだと思うの」
「なるほど」

 7人が話し合っていたその時

「あんたら、冒険者か?」

 付近の木の影から男の声がした。
 冒険者が7人もいて接近に気づかなかったのだ、全員に緊張が走り各々が武器を構えた。

「待ってくれ、俺はゾンビじゃない!鉱山から逃れて隠れていたんだ。抵抗はしないから助けてくれ」

 木の影から手だけを見せて必死に助けを求めている者、確かに人間のようだ。

「姿を見せなさい!話はそれからよ!」

 レナの警告に

「分かった。出て行くから攻撃しないでくれ」

恐る恐る姿を表したのは1人の男、着ている服から鉱山で強制労働に就いている罪人のようだ。

「貴方、リックス?」

 レナが驚愕の表情を浮かべた。

「ああ?あんた、もしかしてレナか?」

 その男の姿を見てセイラとアイリアも緊張の表情を浮かべている。
 そう、その男こそかつて新米冒険者を襲っていたパーティーの1人でゼロに捕縛されたシーフだった。

「久しぶりだな。元気そうで何よりだ。って、もしかしてそっちの2人は!」

 セイラとアイリアは頷く。

「そうか、あの時の2人か。道理で恐い顔で睨んでいるわけだ。謝ってすむ事じゃないが、あの時はすまなかったな」

 話しながらリックスと呼ばれた男は頭を下げるが、3人の表情は固いままだ。

「何故貴方が?ここで何があったの?」

 警戒を解かないままレナが問いかける。

「許して貰えないのは当然だがな。俺は俺なりに心を入れ替えて刑に服していたんだ。何時になるか分からないが自由になったらまた最初からやり直そうと思ってな。そんな訳でここで働いていたんだが、1ヶ月位前に鉱山に入っていた奴等が突然ゾンビになって出てきたんだよ」
「なら貴方はなぜ無事なの?」
「あの日、俺は休息日で鉱山には入っていなかったんだ。で、ゾンビになった連中が他の奴らを襲ってみんなゾンビになっちまった。難を逃れた俺は無事だった何人かを連れて森に逃げ込んだんだ」

 確かにリックスの姿は薄汚れていて体臭も酷い。
 危険察知能力の高いシーフならば納得がいく。

「それで俺は変に動いては危険だと思って森に潜んでいたんだが、他の連中はプレッシャーに耐えかねて逃げ出そうとしてゾンビに襲われたんだ」
「それで貴方はここで何が起きているか分かっているの?」
「ゾンビになった奴等は不思議とこの場を離れようとしないんだ。で、たまに鉱山の中に入るゾンビがいるんだが、一度入ったら二度と出てこない。鉱山の中で何が起きているのかはさっぱり分からないんだ」

 黙って聞いていたレオンが口を挟む。

「俺達は昨夜ここから南の街道でゾンビに襲われた。心当たりはあるか?」
「体格の良い奴だったろ?そいつは最後まで俺と一緒にいたゴルって奴だ。3日位前にゾンビに襲われてな、ゾンビ化する前に南に逃げたからな」

 リックスの話しを聞いて7人は頷きあう。
 鉱山の中で何が起きているかは不明だが、事態はかなり深刻だ。
 事案解明よりも現状の報告を優先した方が良いということで全員の意見が一致する。
 その上でレナが方針を示す。

「直ぐに北の町に戻って状況の報告と専門家を呼び寄せて指示を受けることが良いと思う」
「レナさん、さっきから専門家って・・・」

 レナの提案にセイラが口を挟んだ。

「風の都市に居るでしょう?腕利きのネクロマンサーが。アンデッドに関しては彼の右に出る者はいないわ」

 レナの言葉にリックスを除く全員が同じ人物を思い浮かべた。

「よし、直ぐに町に戻ろう」

 レオンの声を聞いたリックスが土下座して頼み込む。

「頼む、俺も連れていってくれ。町で衛士に引き渡して貰って構わない。いくら俺が悪党だったからといってもゾンビになんかなりたくねえ。俺は何年かかってもやり直したいんだ。今度こそ真っ当な冒険者になりたいんだ。頼む、見捨てないでくれ」

 事情を聞いたレオンはレナとセイラとアイリアに判断を委ねる。
 3人は揃って頷いた。
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