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特務兵との戦い3

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 アンデッドを従えるゼロの姿を見てアランとイザベラは剣を構えながらその緊張を高める。

「スケルトンナイトにバンシー、スペクター。上位アンデッドを複数操るか。ただ者ではないぞ」
「ええ、分かっていますわ。私もネクロマンサーを相手にするのは初めてですもの」

 彼等が警戒するのも当然である。
 今までもネクロマンサーの冒険者は存在したが、人々から蔑まれるその特殊性から殆どが成長する前に命を落とすか、上級冒険者になる前にその職を捨てていた。
 頑なにネクロマンサーであり続けて上級者に登りつめたのがゼロであり、だからこそ聖務院も看過できない存在であるのだ。
 過去にはゼロ以上のネクロマンサーは数多く存在したことも事実である。
 しかし、それは長い歴史の中でのことであり、今現在、ネクロマンサーとしての存在ならば彼等の目の前に立つゼロを上回るネクロマンサーは少なくとも王国内にはいない。
 如何に手練れの特務兵の2人と言えどもそのような敵と戦うのは初めてであるのだ。
 どんなに実力的に優位であろうと初めて対峙する相手を警戒しないでは特務兵は務まらない。

「落ち着け。個々にしてみればアンデッドは脅威ではない。奴の力もたかがしれている。真に警戒すべきは」
「彼等の連携ですわね」

 特務兵2人を目の前にしてもゼロの表情は変わらない。
 極めて冷静に2人の動きを観察している。

「聖務院の貴方達とは今後も相見えることもあるでしょうからあまり手の内を晒したくないのですが、そうも言ってられませんね」
「こっちもごめん被りますわ。ここで貴方の息の根を止めてみせます」
「死霊術師の戦い方、嫌というほど味わわせてあげますよ」

 ゼロは更に2体のスペクターを召喚した。
 これでゼロの手駒はスペクター3体、スケルトンナイト2体、そしてレナの護衛についているバンシーとスケルトンナイト。
 先に動いたのはゼロだ、3体のスペクターが同時にイザベラに襲いかかり真空魔法をイザベラに叩きつけた。
 イザベラは四方から来る真空波を難なく躱し、サーベルで反撃する。
 サーベルの刃が間近にいたスペクターを捉えるもそこは精神体のアンデッドだけありその刃はスペクターの体をすり抜ける。
 イザベラの足が止まった瞬間、横合いから氷の塊が彼女に降り注ぐ。
 それを躱しながら氷が飛来した方を見ればバンシーが笑みを浮かべている。

「チッ、忌々しいですわね!」

 イザベラが舌打ちする。

「彼等は自我がありますから自分で判断して行動してくれるんです。敵に回すと厄介ですよ。」

 ゼロが冷たい目のままで静かに語る。
 その間隙を突いてアランがゼロに切りかかるが、スケルトンナイトのサーベルに弾かれ、更に別のスケルトンナイトの槍がアランを襲う。
 難なく躱したアランだが、いつの間にか死角に入り込んでいたゼロの剣が迫る。

「クッ!」

 間一髪でゼロの剣を躱したアランは間合いを取り直した。
 その間もスペクター3体を相手にしていたイザベラだが、スペクターの攻撃に晒されて激しく身体を捌きながらも精神を集中していた。
 そんなイザベラの狙いに気付いたアランもスケルトンナイトと切り結びながらスケルトンナイトを誘導する。
 イザベラとアランの連携で5体のアンデッドが一定の範囲内に誘い込まれた時、その周辺が眩い光に包まれた。

「トルシアの神よその加護により汚れし者共を縛れ」
「シーグルの女神よ、祝福の光で彼等に救いの手を差し伸べたまえ」

 アランの結界とイザベラの強力な広範囲浄化の祈りだ。
 結界に縛られたアンデッド達を浄化の光が捕らえた。
 身動きできず、光に包まれたスペクターとスケルトンナイトが姿を消した。

「私達を剣技だけだなんて思わないでください。これでも神官騎士のはしくれですの。アンデッドを扱う貴方には厄介な相手でしょうね?」

 イザベラが嘲笑うがゼロの表情は変わらない。

「そう思いますか?」

 ゼロがその手を掲げた。

「我が忠実な隣人達よ、生と死の狭間の門を開け」

 ゼロの声に呼応して地中からサーベルや槍を携えたスケルトンナイト2体が、空間に生じた歪みからスペクター3体が現れた。
 他人には判別できないが、いずれも浄化の光に包まれた個体だ。

「何故ですの?浄化されたのではありませんの?」

 動揺するイザベラにゼロが冷たい笑みを見せる。

「浄化なんてされてませんよ。確かに聖なる光に捕らえられて危なかったですけど。どんなに強力な浄化の祈りでも上位アンデッドを浄化するにはある程度の時間がかかりますよね。その前に彼等には冥界の狭間に逃れて貰ったんです」
「なんですって?」
「私の目の届かない所でならいざ知らず、私の監視下にある以上は彼等を浄化することは出来ません。そして私の力が続く限り何度でも現れます」
「そんなの、キリがないではありませんか!」
「分かりましたか?次々と湧き出るアンデッドの脅威、死霊術師を相手に戦う恐ろしさの一端を。さあ、戦いはこれからですよ」

 更にゼロは2体のウィル・オー・ザ・ウィスプを召喚した。
 闇夜やダンジョンにさ迷う個体と比べ物にならない大きさと魔力だ。

「これは、思っていたよりも骨が折れそうですわね」
「ああ、しかし、現状でも十分に対処できる筈だ。油断するなよ」
「私、どのような雑魚でも余裕を持っても油断はしませんの。結局はあのネクロマンサーを仕留めればいいだけのことですわ」

 アンデッドでは特務兵の2人には歯が立たず、ゼロ1人では彼等に敵わない。
 確かにこの状況下にあっても劣勢に立たされているのはゼロの方だった。

「さて、戦いを続けましょうか?」

 ゼロが魔力を高めながら剣を構えたその時、ゼロの背後に歩み寄る者がいた。

「待ちなさい、私も戦います」

 回復したレナだ。

「まったく、あんな希少な薬を使って。貴方に返さなければならない借りが増える一方だわ」

 いつもの不機嫌顔でゼロを見た。

「貴女はいつもその表情ですね」
「私にこんな顔をさせているのはゼロ自身よ」

 レナはゼロの横に立つ。

「私とレナさん、これで2対2ですね。少しは力の差が縮まり・・」
    「おいおい、ゼロじゃねえか?こんな所で何してんだ?」
「本当、久しぶりねゼロ」

 ゼロの声を遮って戦いの場に2人の戦士が現れた。
 銀等級冒険者のライズとイリーナの2人だ。

「次から次へと邪魔者が増えますわね。ホント、忌々しい」

 イザベラから余裕の表情が消えた。
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