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死の森の主5

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 激しい閃光と轟音が止むとその場は静寂に包まれた。
 ゼロとイズは剣を振りかざしまま呆気に取られ、スケルトン達も立ち尽くしている。
 最前線で衝撃に巻き込まれた数体のスケルトンが自分の上腕骨や肋骨、果ては頭蓋骨を回収するために右往左往していた。
 そして、衝撃の中心地には焼け焦げたエレメンタルイーターの破片が散乱している。
 ゼロが振り返ると、そこには杖を構えて立つレナの姿があった。
 そして、彼女の背後には武装したハイエルフ達が付き従っている。

「ゼロ、エレメンタルイーターに剣による物理攻撃は無謀。奴には強力な魔法攻撃を与えないとダメよ」

 ゼロは剣を収めながらレナに近づいた。

「なぜ貴女がここに居るのですか?」

 ゼロの問いにレナは小首を傾げて微笑んだ。

「貴方がダーク・・シルバーエルフにギルドへの状況報告を頼んだでしょう?その報告を聞いたシーナさんがエレメンタルイーターの出現を疑ったのよ。で、本当にエレメンタルイーターが出たならばゼロだけでは手に余る、強力な魔術師の力が必要だ、ってことで私が来たの。確かに火の攻撃は有効だったけど、あれではまだ火力が足りない。とはいえ、貴方達の攻撃でかなり弱っていたから私の魔法でも一撃で倒せたのだけど。そうでなければもう少し手こずったわね」
「そうでしたか。いやしかし助かりました。で、後ろにいる皆さんは?」
「私はこの森の入口から最短距離でここまで来たのだけれど、その途中に彼等の集落があったので、事情を話して一緒に来てもらったのよ」

 レナの説明にハイエルフのリーダーの青年はばつが悪そうに頭を下げた。

「ゼロ殿、シルバーエルフの方々、その折りは申し訳なかった。実はレナ殿が集落に来たことで私達の行動が長老の耳に入ることになったのだ。それで我々はお婆様達に酷く叱られてしまった。シルバーエルフやゼロ殿の言うとおりだと」
「挙げ句に森の管理もろくにできない未熟者とゼロ殿と同じことをいわれてしまったよ」
「せめてもの罪滅ぼしのつもりでレナ殿に付いて来たが、全く出る幕がありませんでした。エルフとして恥ずかしい限りです」

 他のハイエルフ達も一様に謝罪の言葉を口にした。

 とりあえず戦いは終わったのでゼロはスケルトン達を戻す一方で背後に控えていたバンシーを見た。

「次は貴女です」
「はい?」
「貴女、喋れたのですか?」
「はい、私も主様に長く仕えて主様と共に成長しました。結果、こうして話すことが出来るようになりました。これで今まで以上に主様のお役に立てますわ」

 上位のアンデッドとして力を得たバンシーは自我を得てその結果、言葉を操れるようになったらしい。
 一方でスケルトンナイトやスペクターは同じように自我を得たものの、その身体の構造上言葉を発することはできないそうだ。
 それを伝えたバンシーは優雅なカーテシーを披露した後に冥界の狭間に帰っていった。

 アンデッド達を戻した後にゼロが周囲を見渡せばそこかしこでハイエルフとシルバーエルフが話しをしている。
 これからは共に森の管理者として協力していけるだろう。
 長年のわだかまりを取り除くにはこれまた長い年月がかかるかもしれないが、彼等にはその時間は十分にあるのだ。

「それでは、イズさん、リズさん。今回の依頼は達成された。で宜しいですか?まあ、レナさんの助力つきでのことでしたが」

 ゼロの言葉にイズとリズは互いに顔を見合わせた後にゼロの前に膝をついた。
 他のシルバーエルフやハイエルフも同様に頭を垂れる。

「この度のこと、本当にありがとうございました。今後は共に協力して森を蘇らせてみせます」
「ゼロ様にはどれほど感謝しても足りません」

 2人の言葉を聞いたゼロは安心したように頷く。

「それでは、後のことはお任せして、私はここで失礼させていただきます」

 いつもどおりの素っ気なさにレナは呆れを通り越して諦め顔だ。
 むしろ慌てたのはイズ達だった。

「そんな!是非とも集落にお立ち寄りください。長老達からも御礼が!」
「そうです!そんなに急いで帰らなくても宜しいではありませんか」

 イズもリズもゼロ達を引き留めようとするが、ゼロは首を振る。

「仕事が終わったら長居はしない。がモットーですので。それに、折角精霊達が再び元気を取り戻してきたのですから、死霊の気を纏う私がいると悪影響ですよ」

と言い残して歩き出してしまう始末だ。
 イズは助けを求めるようにレナを見たが、彼女も諦めの表情で首を振り、ゼロの後を追って歩き出す。
 引き留めることができなかったイズ達はゼロ達の背を見送ることしか出来なかった。

「兄様・・」
「仕方あるまい、無理に引き留めることもできまい」
「そうですけど・・・」

 リズはどこか悲しそうにゼロを見送っている。
 その様子を横目で見たイズが口を開く。

「お前が望むならばゼロ様について行っても良いのだぞ?」
「えっ?そんな、私は・・・」

 頬を赤らめる妹の姿にイズは苦笑する。

「だてに双子の兄ではないぞ。私ですらゼロ様の友になれれば、と思う程だ。お前の気持ちなどお見通しだ。お前がゼロ様について行くことを望むならば、森や集落のことは大丈夫だ、旅立っても良いのだぞ」

 しかし、リズは首を振る。

「いいえ、今は止めておきます。今は森を蘇らせることが先です。その責任を成さずしてあの方について行くことはできません」

 そうこうしている間にゼロ達の姿は見えなくなっていた。

「さあ、これからが大変ですよ」

 決意に満ちたリズの声に他のエルフ達も力強く頷いた。
 彼等の森の管理者としての責務はこれからが本番なのである。


 ゼロがエルフ達と別れた2日後、ゼロとレナは未だエルフの森に居た。

「で?ゼロは道に迷ったと?」

 冷たいレナの視線に恐縮したゼロが肩を落とす。

「すみません。来た時と違うルートですし、何よりもイズさん達の案内で来たものですから」
「ならば、何故帰りの案内を頼まなかったの?」
「はい、なんというか、これで失礼します、と言った手前、やっぱり案内してくださいとは言えませんで」

 レナは深いため息をついた。

「前々から思っていたけど、ゼロって本当に救いようのないバカね」

 レナの言葉をゼロは否定出来なかった。
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