上 下
24 / 196

黒等級冒険者ゼロ

しおりを挟む
黒等級に昇級してもゼロの日常は何も変わらなかった。
 むしろ人々からの視線は一層厳しいものになっていた。
 今まではゼロのことを知らない人ならば認識票に記された職業を見なければ魔術師か魔法剣士と思っていたところが、黒色の認識票を持つことにより銅等級に上がることの出来ない者と分かってしまうからである。
 酷い場合では依頼を受けた村に入れてもらえず、村の外に野営して依頼に当たったこともあった。
 また、盗賊討伐の依頼を受けた筈が、ゼロのアンデッドに恐怖した盗賊が依頼を出した町に助けを求めて逃げ込み、町民に保護されるという笑い話にもならないこともあった。
 それでもゼロは黙々と依頼を受け、依頼主からまで軽蔑の目を向けられながらも彼等のために戦い続けた。
 やがて
「風の都市のギルドには黒等級のネクロマンサーがいる」
との噂が近隣に行き渡っていた。
 しかし、風の都市の冒険者ギルドは一貫して
「彼は信頼のおける冒険者である」
との姿勢を崩さず、ゼロの身分を保証した。
 
 今日もゼロは地下水道の魔鼠退治を終えてギルドに報告に戻ってきた。

「指定エリアの魔物を掃討しました。魔鼠が25です。他にスライムが3体いましたが、魔鼠の死体処理をさせるために放置してきました。魔鼠の死体に対スライムの薬を混ぜてきましたから放っておいても勝手に分解される筈です。念のために来週にでももう一度潜って確認してきます」

 ゼロの報告をシーナが笑顔で受ける。

「はい、確認しました。ありがとうございます」

 今日はシーナの機嫌がやけに良い。

「ゼロさんがマメに地下水道の依頼を受けてくれるので役所から感謝の連絡がきました。風の都市の地下水道は清潔で水の質も良くなった、だそうです」
「そうですか、それは良かったですね」
「はい、風が優しく水の綺麗な都市だなんて、とても素敵なことですし、私も少しでもそのお手伝いをしてると思うとちょっと誇らしいです。これもゼロさんのおかげです」
「いえ、私は受けた依頼をこなしているだけですよ」

 言いながらゼロはカウンターに出された僅かな報奨金を受け取った。
 さて、今日はここまでにして明日に備えようかと思ったとき、隣のカウンターからの声が耳に留まる。

「・・ゼロさんのことでしょうか?」
「名前は存じ上げませんが、ネクロマンサーが所属していると聞きました。その方にお願いしたい依頼があるのです」

 カウンターの前に立つのは1人の老紳士、受付の新米職員と話をしている。
 ゼロとシーナは顔を見合わせた。
 シーナはゼロに目配せをして新米職員のカウンターに移動して老紳士に声を掛ける。

「あの、ネクロマンサーのゼロさんならば丁度そちらに居りますが?」

 シーナに案内されて老紳士がゼロに向き合い、隙のない礼をする。

「これは僥倖でありました。是非とも貴方を指名してお願いしたい依頼があるのです」

 ゼロは頷いた。

「お話しを伺いましょう。ただその前にギルドに依頼を出してください。ギルドを経由しないと依頼を受けることはできませんので。手続きが済むまで私は待機しています」

 ゼロは一礼してギルドの隅の椅子に移動した。

「あらためまして、私はエルフォード家に仕えるマイルズと申します」

 エルフォード家とは風の都市一帯に影響を持つ3大貴族の1つであった。
 もちろんゼロはそんなことは知らない。
 シーナからの事前情報を得ていたため、貴族からの依頼であることを把握していた。
 マイルズと名乗った老紳士は聞くとエルフォード家の執事とのことであった。

「貴方のネクロマンサーとしての力をお貸しいただきたいのです」

 マイルズから聞いた依頼内容は、数ヶ月前からエルフォード家の屋敷に亡霊が出るようになったことについての調査だった。
 亡霊が出るようになり、高齢の当主であるエレナ・エルフォードの体調が悪くなり、命の危険があるとのことで、必要に応じて亡霊を討伐して欲しいとのことであった。
 依頼を確認したゼロは首を傾げた。

「内容は分かりました。確かに相手が亡霊ならば私でもお役に立てるでしょう。ただ、本来ならばこの手のものは聖職者に依頼した方が良いのでは?」
「はい、実はゼロ殿に依頼を出す前に高位の神官様にお願いをしたのですが、解決に至らなかったのです。そこでネクロマンサーのゼロ殿にお願いをしようとなったのです。聞くところによればゼロ殿はこの度黒等級に昇級したとのことで、これは有り難い誤算でした」
「なるほど」
「つきましては、依頼を受けていただけるならば、速やかに当家にお越しいただきたい。出来れば今すぐに、当家の馬車で同行していただきたいのですが。何分にも主人のエレナ・エルフォードは高齢であります、時間的な余裕はないのです」

 ゼロは話を聞いて即答した。

「承知しました。直ぐに行きましょう」

 立ち上がるとカウンターで依頼受諾の手続きを済ませる。
 今回はシーナでなく新米職員が取り扱った。
 ゼロがギルドから出るとギルドの前の道には豪華な装飾の馬車が停まっており、傍らにマイルズが待機していた。

「よろしくお願いします。ご案内しますのでお乗りください」

 マイルズに促されて馬車に乗り込むが、乗り慣れていないせいで全く落ち着きがなく完全に挙動不審である。
 ゼロに続いてマイルズも馬車に乗り込んでゼロの向かいに座る。
 実はこのとき、貴族の馬車になんか乗ったことのないゼロはどこに座ればよいか分からずに進行方向と逆を向いて座る従者用の席に座ってしまっていた。
 しかし、優秀な執事のマイルズはそれを指摘するような無粋なことはせずに黙って主賓席に座る。
 そんな様子をギルド内から覗き見ていたシーナは笑いが堪えられなかった。

「まったく、困ったものです。黒等級と上位冒険者になったのですからもう少しスマートにしてもらわないと。今度教えてあげる必要がありますね」

 走り去る馬車を見送ったシーナは決意を新たにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

職業選択の自由~とある死霊術師の旅路~

新米少尉
ファンタジー
これは職業「死霊術師」として生きた男の歩んだ道。 既投稿作品の「職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~」「職業選択の自由~死霊に支配された王国~」の結末の短編です。 申し訳ありませんが、本編だけでは成立せず、前記作品(少なくともネクロマンサーを選択した男)を読んでくれた方にしか分からない内容です。

異世界八険伝

AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ! 突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!

職業選択の自由~神を信じない神官戦士~

新米少尉
ファンタジー
 その男は神を信じていない。この世界に神が存在していることは事実であり、彼もその事実は知っている。しかし、彼にとって神が実在している事実など興味のないことだった。そもそも彼は神の救いを求めたり、神の加護を受けようなどという考えがない。神に縋るのではなく、自分の人生は自分で切り開いていこうと心に決め、軍隊に入り戦いの日々に明け暮れていた。そんな彼が突然の転属命令で配属されたのは国民の信仰を守るべき部隊であった。これは神を信じていない神官戦士の物語。 職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~の外伝です。

パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ
ファンタジー
クラウス・アイゼンシュタイン、二十五歳、C級冒険者。滅んだとされる死霊術士の末裔だ。 勇者パーティーに「荷物持ち」として雇われていた彼は、突然パーティーを追放されてしまう。 S級モンスターがうろつく危険な場所に取り残され、途方に暮れるクラウス。 そんな彼に救いの手を差しのべたのは、五百年前の勇者親子の霊魂だった。 五百年前に不慮の死を遂げたという勇者親子の霊は、その地で自分たちの意志を継いでくれる死霊術士を待ち続けていたのだった。 魔王討伐を手伝うという条件で、クラウスは最強の女勇者リリスをその身に憑依させることになる。 S級モンスターを瞬殺できるほどの強さを手に入れたクラウスはどうなってしまうのか!? 「凄いのは俺じゃなくて、リリスなんだけどなぁ」 落ちこぼれ死霊術士と最強の美少女勇者(幽霊)のコンビが織りなす「死霊術」ファンタジー、開幕!

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...