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再会

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 その日の早朝、風の都市の各所に設置された鐘がけたたましく鳴り響いた。
 冒険者召集の合図。
 この鐘を聞いた冒険者はすべからくギルドに応集しなければならないギルドの規則。
 即ち何らかの非常事態が発生している合図である。
 因みにこの鐘は都市の治安を守る衛士隊も召集される合図でもある。

 ギルド内は依頼で不在にしている以外の冒険者が集まっていた。
 その数85名、ギルドに所属する冒険者の約半数であった。
 その全員が緊張の面持ちでいた。
 やがて集まっている冒険者の前にギルド長が立つ。
 背後にはギルド職員も集合していた。

「冒険者諸君、非常事態が起きている。魔物の群れがこの風の都市を目指している。明日の夕刻にも300を超える魔物がこの都市に襲いかかってくるだろう」

 ギルド長の言葉に集まった冒険者達はどよめいた。

「しかも、この群れはただの群れではない。統率者がいて幾つかの群れに別れた、言わば軍勢のような群れだ」
「どういうことだ?なぜ、そんな群れができて、しかもこんなギリギリまで気付かれずに都市まで近づいた?」

 ある冒険者の質問にギルド長は答える。

「かつて、100年ほど前に伝説の勇者に魔王が討たれた戦いがあった。その際に敗北し、散り散りになった魔兵の生き残りが稀に軍勢を整えて都市を襲うことがある。奴らは統率が取れているが故に標的とした都市へと気付かれないように深い森や険しい山岳を越えて進軍してくるのだ。そして、奴らの目的は一つ、都市を殲滅し、自分達のものにすることだ」

 冒険者は説明に聞き入る。

「当然ながら首長は王国軍の出動を要請したが、この都市から一番近くに駐屯する隊が到着するのは早くて明後日、とても間に合わない。また、衛士隊も総出で対応に当たるが、彼等は軍隊ではない、野戦には対応できないし、治安維持の任務上、都市の外壁や出入り門の防衛が精一杯だ。そこで、ギルドの規則と契約に則り、諸君に都市を出て魔物達を迎え撃ってもらう」

 ギルドの規則と契約とは、所属するギルドがある都市に非常事態が発生した時にギルドの指定した任務に就かなければならないというものだった。

「しかしよ、此処に集まっている俺達は100にも満たない数だ、しかも戦闘職じゃない者や駆け出しの新人だっている。とてもじゃないが統率の取れた300の魔物を相手にはできないぞ」

 冒険者は頷き合う。
 それぞれ非常事態であることは理解できるが、リスクが高すぎる。

「分かっている。だから、我々職員の中で戦いの経験がある者も参加する。その数30、更に衛士隊から60名の部隊がこちらと共闘する。それでも数の上では不利だが、後は諸君の奮闘に期待するしかない。だが、望みが無いわけでもない、我々は1日間だけ持ちこたえれば王国軍が到着する」
「話は分かった、しかし、編成はどうする?俺達は軍隊じゃないから組織戦は不慣れな奴ばかりだぞ?それに、敵の構成も分からなければ、それぞれ得手不得手の魔物がいるぜ」

 冒険者の尤もな質問にギルド長は頷く。

「奴らの編成は斥候に出た冒険者からの報告で把握できている。都市の西から向かっているオークキングに率いられた60体程のオークの群れが本隊と見られる、他に北からは120体程のゴブリンの群れ、率いているのはホブゴブリンだろう。そして、南と北西からはそれぞれ60体程のコボルドの群れ、コボルドには統率者は居ないらしい。が向かっている。南側のコボルドは衛士隊が迎えるから他の3方の約240体が我々の持ち分だ。誰が何処に向かうかは今から皆の希望を聞いて決めたいと思う。皆は自分の力を考えて何処に向かうのがいいか判断して貰いたい」

 ギルド長は冒険者達を見回した。

「では、最初に敵の本隊、西に行ってくれる者は?」

 一度は数十人の冒険者が手を挙げたが、ざわめきと共に1人を残して全員が手を下げた。
 残された1人とはゼロだった。
 ギルド長は声を上げた。

「皆、思うところもあるだろうが、そのような確執は二の次にして考えて欲しい。西から来るのは敵の本隊だぞ」

 冒険者達は顔を見合わせるも再び手を挙げる者はいなかった。
 それを見届けてゼロが口を開いた。

「西側は私1人で引き受けます。そうすれば他の2箇所に人員を回せるでしょう。実際のところ、私は他の皆さんと共に戦うのには向いていません。それに、私1人でも全く勝機が無いわけでもありません。知っての通り私は死霊術師です。アンデッド達を召喚して戦うことができます。仮に私が突破されたとしても、最低でも3分の2程度は数を減らして見せます。それならば都市の守りを固める衛士隊の皆さんでも対処できるでしょう」

 ギルド長は渋い顔をしながらも頷いた。

「分かった、西の敵はゼロに任せ・・・」
「待って下さい。私も西に向かいます」

 ギルド長の言葉を遮って1人の冒険者が立ち上がった。
 濃い紫色の魔術師のローブに帽子は高位の魔術師の証しでありながら、それを身に纏うのは若い女性魔術師だった。
 首に下げられた認識票は青等級。
 彼女の名はレナ・ルファード、かつて洗脳されて犯罪に荷担していたところをゼロに救われ、その罪の処罰により王都の魔導院での矯正教育を受けた魔術師だった。
 以前は紫等級だったが、ギルドとしての処分として降格し、現在は青等級になっていた。

「私の魔法ならばゼロさんやアンデッド達とも共闘できます」

 ゼロは基本的に人の顔を覚えるのが苦手という欠点があり、最初にレナが立ち上がった時にも彼女を思い出せずにいたが、彼女の声を聞く間に徐々に思い出した。

「貴女はあの時の魔術師でしたか」

 ゼロの言葉にレナは頷きながら

「あの日の借りを返します」

ゼロの目をしっかりと見据えて答えた。

 結局、西から来る本隊はゼロとレナの2人が迎え撃つことになり、北西と北の2箇所を残りの冒険者とギルド職員が受け持つことになった。

 そして、戦いの準備を整えた冒険者達はそれぞれの配置箇所に向かって出発した。
 都市から打って出ることにより、魔物の群れとの衝突は明日の朝になる予測だった。
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