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サラのお願い
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今、何て言ったの?
ハルが照れくさいって?
うそでしょう。
意外なハルの一言にサラの方がなぜかうろたえる。
「照れくさいって、そんな真顔で言われても……」
それに全然、照れている感じには見えないし。
サラはうーん、と首を傾げた。
が、ちょっとした悪戯心がわいてきたのか、サラはにっと笑ってハルにつめより上目遣いで見上げた。
思わず調子に乗ってハルの両腕をつかむ。
「サラって呼んで」
「いやだって」
一歩足を後ろに引いたハルを背後の木に押しつける。何だかハルを追いつめている感じで、サラの心に優越感がむくむくと込み上げてきた。
これまでハルに冷たくされたり、意地悪されたり、どきどきさせられたりしたのだ。少しくらいハルを困らせてみたい、戸惑うハルの反応をもう少し見てみたいと思ってしまった。
「ねえ、私の目を見て言ってみて」
「しつこい!」
と、声を上げると、ハルはふいっと横をむいてしまった。その顔はどこか赤い。
サラの胸がきゅんと鳴った。
え? ハルが顔を赤らめるなんて……こんな顔をするハルなんて初めて見たわ。
本当に恥ずかしいのね。
思わず手を伸ばし、ハルの柔らかそうな髪に触れそっとなでる。
手を振り払われることも、嫌がられることはなかった。
最初に出会った頃のとげとげしさも、近寄りがたさもだいぶなくなって、こうして見るとどこにでもいる普通の少年にしか見えないから不思議。
だけど、ハルはレザンの元暗殺者。
たくさんの人を殺してきたなんて、信じられないかも。
でも、さすがにこのくらいにしてあげないと、ハルがかわいそうかもね。
反撃されたら怖いし。
「……分かったわ」
と、サラは頬をふくらませた。その瞬間ハルが口の端を持ち上げふっと笑ったことに気づく。
も、もしかして恥ずかしそうに顔を赤らめたのも、困ったように横を向いてしまったのも演技なの!
サラは、はあ、とため息をつく。
そもそも、ハルを困らせてやりたいと思ったのが間違いであった。ハルの反応があまりにも可愛く思えて、ついつい悪戯をしてしまったが、相手は自分よりも一枚も二枚も上手だったことを忘れていた。
これはもう自然に名前を呼んでくれるのを待つしかないってことね。
もうそれでいいわ。
それよりも、本当にハルにお願いしたいことは別にあった。
「あのね、今日はハルにお願いが……」
「断る」
言いかけたサラの言葉を途中で、それも即座にハルは遮る。
「まだ何も言ってない」
「剣を教えろって言いたいんだろう」
「そう! そうなのよ。よくわかったわね。ね、いいでしょう?」
「断ると言ったはずだ」
「どうして?」
しかし、今度こそは引き下がらないと、サラは真剣な顔でハルを仰ぎ見る。
「基本ぐらいならいいでしょう? それに、何でも教えてくれるって言ったじゃない」
「何でもとは言ってない」
「言ったわよ」
「言ってない。そんなに剣を振り回したければ、騎士団にでも入れば?」
サラは唇を尖らせた。
それができるのならとっくにそうしているわよ、とでも言いたげだ。
それに、騎士団に入団できるのは男子のみ。おそらくこの先も例外はないだろう。それをわかっていて言うのだからやっぱり意地が悪い。
「それでも、私が少しでも剣の扱いを覚えていれば、ハルに迷惑を掛けることもなくなると思うの」
「俺が守ってやるっと言っただろう。それでも不満? それとも俺では頼りない?」
「そうではないけれど……」
ハルが照れくさいって?
うそでしょう。
意外なハルの一言にサラの方がなぜかうろたえる。
「照れくさいって、そんな真顔で言われても……」
それに全然、照れている感じには見えないし。
サラはうーん、と首を傾げた。
が、ちょっとした悪戯心がわいてきたのか、サラはにっと笑ってハルにつめより上目遣いで見上げた。
思わず調子に乗ってハルの両腕をつかむ。
「サラって呼んで」
「いやだって」
一歩足を後ろに引いたハルを背後の木に押しつける。何だかハルを追いつめている感じで、サラの心に優越感がむくむくと込み上げてきた。
これまでハルに冷たくされたり、意地悪されたり、どきどきさせられたりしたのだ。少しくらいハルを困らせてみたい、戸惑うハルの反応をもう少し見てみたいと思ってしまった。
「ねえ、私の目を見て言ってみて」
「しつこい!」
と、声を上げると、ハルはふいっと横をむいてしまった。その顔はどこか赤い。
サラの胸がきゅんと鳴った。
え? ハルが顔を赤らめるなんて……こんな顔をするハルなんて初めて見たわ。
本当に恥ずかしいのね。
思わず手を伸ばし、ハルの柔らかそうな髪に触れそっとなでる。
手を振り払われることも、嫌がられることはなかった。
最初に出会った頃のとげとげしさも、近寄りがたさもだいぶなくなって、こうして見るとどこにでもいる普通の少年にしか見えないから不思議。
だけど、ハルはレザンの元暗殺者。
たくさんの人を殺してきたなんて、信じられないかも。
でも、さすがにこのくらいにしてあげないと、ハルがかわいそうかもね。
反撃されたら怖いし。
「……分かったわ」
と、サラは頬をふくらませた。その瞬間ハルが口の端を持ち上げふっと笑ったことに気づく。
も、もしかして恥ずかしそうに顔を赤らめたのも、困ったように横を向いてしまったのも演技なの!
サラは、はあ、とため息をつく。
そもそも、ハルを困らせてやりたいと思ったのが間違いであった。ハルの反応があまりにも可愛く思えて、ついつい悪戯をしてしまったが、相手は自分よりも一枚も二枚も上手だったことを忘れていた。
これはもう自然に名前を呼んでくれるのを待つしかないってことね。
もうそれでいいわ。
それよりも、本当にハルにお願いしたいことは別にあった。
「あのね、今日はハルにお願いが……」
「断る」
言いかけたサラの言葉を途中で、それも即座にハルは遮る。
「まだ何も言ってない」
「剣を教えろって言いたいんだろう」
「そう! そうなのよ。よくわかったわね。ね、いいでしょう?」
「断ると言ったはずだ」
「どうして?」
しかし、今度こそは引き下がらないと、サラは真剣な顔でハルを仰ぎ見る。
「基本ぐらいならいいでしょう? それに、何でも教えてくれるって言ったじゃない」
「何でもとは言ってない」
「言ったわよ」
「言ってない。そんなに剣を振り回したければ、騎士団にでも入れば?」
サラは唇を尖らせた。
それができるのならとっくにそうしているわよ、とでも言いたげだ。
それに、騎士団に入団できるのは男子のみ。おそらくこの先も例外はないだろう。それをわかっていて言うのだからやっぱり意地が悪い。
「それでも、私が少しでも剣の扱いを覚えていれば、ハルに迷惑を掛けることもなくなると思うの」
「俺が守ってやるっと言っただろう。それでも不満? それとも俺では頼りない?」
「そうではないけれど……」
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