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虚ろな心
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歓楽街は夜にこそ、真の姿をみせる。
闇を彩る無数の灯りが店先に飾られ、人々が行き交い喧噪が入り乱れる。
「ねえあなた、私と遊ばない」
呼び止められたハルは、眉根を険しくさせたまま振り返る。
どうやら、先ほどのシンとの飲み比べで負け、醜態をさらしたという苛立ちがまだおさまらないらしい。
「彼に、ふられちゃって、退屈してるの」
ひとりの女が建物の壁に寄りかかりながら、じっとこちらを見つめていた。
たどたどしい、アルガリタ語であった。
声をかけてきた女もこの国の者ではなかった。
艶のある褐色の肌と、真っ直ぐな黒髪に黒い瞳。小柄な身体つき。
おそらく、東の大陸アイザカーンの者。
声をかけた女は、ハルの容貌に息を飲んだ。というよりも、相手があまりにもきれいな顔立ちすぎて、尻込みをしたという様子であった。
さらに、声をかけた女がためらったもう一つの理由。それは、ハルがアルガリタの人間でないと分かったからだ。
「異国の人だったのね。な、なんでもないわ。冗談よ。気にしないで……」
言葉が通じないと思ったのか、女はやはり慣れないアルガリタ語で慌てて両手を胸の前で振り立ち去ろうとする。
しかし、去って行こうとする女の腕をハルはつかんで引き寄せ、そのまま、路地裏に引き込んだ。
「な……何……っ」
「俺に抱かれたくて、声をかけてきたんだろ?」
あからさまなハルの物言いに、女はかっと顔を赤くさせた。が、ふと女の黒い瞳が驚きに見開かれる。
なぜなら、ハルの口から見事なアイザカーンの言葉が淀みなく流れたからであった。
「あなた……言葉」
「分かるよ。だからあんたも遠慮なく自国の言葉で喋ればいい」
女は一瞬、自分の国の言葉を耳にして安堵の表情を浮かべる。が、すぐにハルから視線をそらして身じろいだ。
「手、離して……あなた私よりも年下みたいだし、子どもだわ」
しかし、女を逃がさないというように、ハルは建物の壁に片手をとんと手をつき、シャツの首元を指先で緩めた。
「俺が子どもかどうか試してみれば? あんたが思っている以上に俺、うまいよ」
ハルは悪戯げに口元に笑みを刻みながら、女の耳元で低く囁いた。
女はびくりと身体を震わせる。
「寂しいんでしょう? その心の隙間を埋めてあげる」
ハルの指先が女の身体を指先でなぞる。
慣れた手つきに女は思わず目を閉じ、声をもらして身を反らした。
反らした女の喉元に、首筋に、肩に、ハルは唇を這わす。
逃げ気味の女の腰を強く引き寄せ、肉感的な女の両脚の間に自分の片脚を入れ、ゆっくりと脚を開かせた。
それまできつく目を閉じていた女のまぶたが開かれる。
「や、やめ……」
女の手がハルを遠ざけようと突っぱねる。けれど、その両手をハルはつかんで壁に押しつけ抵抗する女を封じた。
間近に迫るハルの瞳に射すくめられ、女は唇を震わせた。
ようやく女は自分がとんでもない男に声をかけてしまったことを後悔する。
相手が素人ではないことをようやく悟ったようだ。
「ち、ちょっと待って……ここで? ここではいやよ……」
「でも俺、もう待ちきれない」
ハルは意地悪な笑みを浮かべ、女の目をのぞき込む。
待ちきれないというわりにはハルの態度は余裕であった。ただ、動揺する女の様子を見て愉しんでいるのだ。
「だめ……お願い……」
すぐ側の大通りではまだ、たくさんの人が行き交っている。うっかり誰かがこの路地裏に入り込んだら、見られてしまう。
しかし、ハルに容赦はなかった。
喉の奥で悲鳴をもらし、女は目も見開き首を反らした。
仰け反る女にかぶさるようにして、ハルは女の唇からもれる艶めいた喘ぎ声ごと唇をふさぐ。
「ん……っ」
女は目を見開き、いやいやをするように首を振るが、やがて力が抜けたようにハルの肩に顔をうずめしがみついてきた。
「こんなの、ひどい……」
「なら、やめる?」
薄い笑いを口元に刻んでハルは女の耳元で囁く。
女は眉宇をひそめ、ハルの腕の中で首を振り、さらに身体を密着させるように両手を首に絡ませてきた。
「やだ……やめ……やめないで。このまま……」
抱いて、と女は哀願し、眉間をきつく寄せ熱い吐息をもらした。
目の縁に涙をにじませて。
もはや、断る理由などなかった。
否、断れなかった。
ハルはそう、と静かに声を落として女の腰をさらに引き寄せた。
女を見つめるその藍の瞳に静かな炎が揺らぐ。
空虚な心を偽りの欲望にすり替え、我も忘れて激しく乱れ狂う。
抱いた花を引き裂くほどに散らし、一時の快楽をただひたすら貪り続けた。
それでも、埋め尽くせない激情と、鎮めることのできない心。
俺は何を苛立っている。
何をこんなに感情的になっている。
闇を彩る無数の灯りが店先に飾られ、人々が行き交い喧噪が入り乱れる。
「ねえあなた、私と遊ばない」
呼び止められたハルは、眉根を険しくさせたまま振り返る。
どうやら、先ほどのシンとの飲み比べで負け、醜態をさらしたという苛立ちがまだおさまらないらしい。
「彼に、ふられちゃって、退屈してるの」
ひとりの女が建物の壁に寄りかかりながら、じっとこちらを見つめていた。
たどたどしい、アルガリタ語であった。
声をかけてきた女もこの国の者ではなかった。
艶のある褐色の肌と、真っ直ぐな黒髪に黒い瞳。小柄な身体つき。
おそらく、東の大陸アイザカーンの者。
声をかけた女は、ハルの容貌に息を飲んだ。というよりも、相手があまりにもきれいな顔立ちすぎて、尻込みをしたという様子であった。
さらに、声をかけた女がためらったもう一つの理由。それは、ハルがアルガリタの人間でないと分かったからだ。
「異国の人だったのね。な、なんでもないわ。冗談よ。気にしないで……」
言葉が通じないと思ったのか、女はやはり慣れないアルガリタ語で慌てて両手を胸の前で振り立ち去ろうとする。
しかし、去って行こうとする女の腕をハルはつかんで引き寄せ、そのまま、路地裏に引き込んだ。
「な……何……っ」
「俺に抱かれたくて、声をかけてきたんだろ?」
あからさまなハルの物言いに、女はかっと顔を赤くさせた。が、ふと女の黒い瞳が驚きに見開かれる。
なぜなら、ハルの口から見事なアイザカーンの言葉が淀みなく流れたからであった。
「あなた……言葉」
「分かるよ。だからあんたも遠慮なく自国の言葉で喋ればいい」
女は一瞬、自分の国の言葉を耳にして安堵の表情を浮かべる。が、すぐにハルから視線をそらして身じろいだ。
「手、離して……あなた私よりも年下みたいだし、子どもだわ」
しかし、女を逃がさないというように、ハルは建物の壁に片手をとんと手をつき、シャツの首元を指先で緩めた。
「俺が子どもかどうか試してみれば? あんたが思っている以上に俺、うまいよ」
ハルは悪戯げに口元に笑みを刻みながら、女の耳元で低く囁いた。
女はびくりと身体を震わせる。
「寂しいんでしょう? その心の隙間を埋めてあげる」
ハルの指先が女の身体を指先でなぞる。
慣れた手つきに女は思わず目を閉じ、声をもらして身を反らした。
反らした女の喉元に、首筋に、肩に、ハルは唇を這わす。
逃げ気味の女の腰を強く引き寄せ、肉感的な女の両脚の間に自分の片脚を入れ、ゆっくりと脚を開かせた。
それまできつく目を閉じていた女のまぶたが開かれる。
「や、やめ……」
女の手がハルを遠ざけようと突っぱねる。けれど、その両手をハルはつかんで壁に押しつけ抵抗する女を封じた。
間近に迫るハルの瞳に射すくめられ、女は唇を震わせた。
ようやく女は自分がとんでもない男に声をかけてしまったことを後悔する。
相手が素人ではないことをようやく悟ったようだ。
「ち、ちょっと待って……ここで? ここではいやよ……」
「でも俺、もう待ちきれない」
ハルは意地悪な笑みを浮かべ、女の目をのぞき込む。
待ちきれないというわりにはハルの態度は余裕であった。ただ、動揺する女の様子を見て愉しんでいるのだ。
「だめ……お願い……」
すぐ側の大通りではまだ、たくさんの人が行き交っている。うっかり誰かがこの路地裏に入り込んだら、見られてしまう。
しかし、ハルに容赦はなかった。
喉の奥で悲鳴をもらし、女は目も見開き首を反らした。
仰け反る女にかぶさるようにして、ハルは女の唇からもれる艶めいた喘ぎ声ごと唇をふさぐ。
「ん……っ」
女は目を見開き、いやいやをするように首を振るが、やがて力が抜けたようにハルの肩に顔をうずめしがみついてきた。
「こんなの、ひどい……」
「なら、やめる?」
薄い笑いを口元に刻んでハルは女の耳元で囁く。
女は眉宇をひそめ、ハルの腕の中で首を振り、さらに身体を密着させるように両手を首に絡ませてきた。
「やだ……やめ……やめないで。このまま……」
抱いて、と女は哀願し、眉間をきつく寄せ熱い吐息をもらした。
目の縁に涙をにじませて。
もはや、断る理由などなかった。
否、断れなかった。
ハルはそう、と静かに声を落として女の腰をさらに引き寄せた。
女を見つめるその藍の瞳に静かな炎が揺らぐ。
空虚な心を偽りの欲望にすり替え、我も忘れて激しく乱れ狂う。
抱いた花を引き裂くほどに散らし、一時の快楽をただひたすら貪り続けた。
それでも、埋め尽くせない激情と、鎮めることのできない心。
俺は何を苛立っている。
何をこんなに感情的になっている。
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