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第4章 雪山編
4 役にたたない頼りない 無能でバカでクズでゲスな魔道士
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「ちっ、何で俺がこんなことしなくちゃなんねえんだよ」
イヴンたちが深刻な話をしているその頃、イェンはホウキを手に、文句をこぼしながらニワトリ小屋の掃除をしていた。
コケーコココッ。
コケーコココッ!
「邪魔だ邪魔だ。おまえらあっちにいけ。側に寄ってくんな。掃除ができねえだろ。って、痛えよ! 突っつくな。おい! 頭の上に乗るな!」
そして、ニワトリ小屋の掃除を終えたイェンはため息をつき、ふと花壇の横の雪桜の木に目をとめ歩み寄る。
イヴンが花が咲くのが見たかったと言って、残念そうに見上げていたことを思い出す。
イェンはふっと笑って、木の幹に右手を添えた。
「俺にはもう、おまえを癒やす術は持たないが、おまえにまだ少しでも力が残っているなら……俺の力を持っていけ」
イェンは幹にひたいを寄せ、静かに目を閉じた。
◆◇◆◇
「パンプーヤの剣だと!」
二人は素っ頓狂な声を上げた。
当然の反応だ。
イヴンはうん、と頷きパンプーヤの剣の話を語った。
大魔道士パンプーヤは伝説の存在。
そのパンプーヤから剣をもらったなど、簡単に信じられるわけがない。けれど、リプリーもエーファも、真剣に耳を傾けてくれた。
「つまり、イヴンがヴルカーンベルクにたどり着く前に何者かが、その剣を奪おうと企んでいるのね。確かに、ヴルカーンベルクへ着いたら手が出せなくなる可能性は高いもの。それで、パンプーヤの剣はどこにあるの?」
イヴンが普段持ち歩いている剣はごく普通の剣。
一緒に旅をしてきたが、それらしき剣を持っているところを見たことがない。
「あるところに隠してある」
「あるところ?」
「うん……」
一番安全なところ……と、だけ言い、イヴンはその後の言葉を濁す。
「そうか。ならば、剣のことに触れるのはよそう。だが、ここで別れるということは私は承諾できない。私はイヴンに二つの恩がある」
身をていして野犬からかばってもらったこと。
そして、通行券を譲ってくれたことだ。
「その恩を返さず、ここでさようならでは私の気がすまない」
私も同じよ、とリプリーも力強く頷く。
「だけど、エーファさんたちに何かあったら、僕はどうしていいか」
立ち上がり、エーファがイヴンの肩に手をかけた。
「では、こうしよう。旅を一緒に続けるか続けないかは一時保留だ。まずは、私たちは協力し合いあの雪山を越えることだけを考えよう。大雪山ほど困難でないとはいえ、危険であることに変わりない。後のことはそれから考える。それでどうだろうか?」
イヴンはエーファとリプリーを交互に見た。
「それではだめか? それに、イヴンもあんな役にも立たない男だけでは不安であろう。そもそも一国の王子のつき添いに、あのような魔力も持たない、頼りない無能でバカでクズでゲスな魔道士一人だけなど、私には信じられん!」
「エーファ、それ言い過ぎ」
エーファの横でリプリーがたしなめる。
イブンは苦笑いを浮かべる。
「あのね、イェンは……」
「一緒に旅をしてきたが、あいつが魔術を使ったところなど一度も見たことがない。いや、一度だけ。一度だけ森で指先にしょぼい火を灯したところは見た。だが、あれは魔術とはいえんぞ。あいつは本当に〝灯〟の魔道士なのか?」
「イェンはみんなが思っているほど……」
「思ってるほど、何だ?」
「みなさーん、何やら俺の話で盛り上がっているようじゃないか!」
よっ、と片手を上げ機嫌よくイェンが部屋に現れた。
三人の奇妙な視線がイェンの頭上にそそがれる。
「ああ、こいつ? きれいな鶏だろ?」
イェンの頭の上には、色鮮やかなニワトリに似た鶏が、居心地よさげに乗っかっていた。
「何か懐かれちまってよ。どうしたらいい?」
「アホか!」
イヴンたちが深刻な話をしているその頃、イェンはホウキを手に、文句をこぼしながらニワトリ小屋の掃除をしていた。
コケーコココッ。
コケーコココッ!
「邪魔だ邪魔だ。おまえらあっちにいけ。側に寄ってくんな。掃除ができねえだろ。って、痛えよ! 突っつくな。おい! 頭の上に乗るな!」
そして、ニワトリ小屋の掃除を終えたイェンはため息をつき、ふと花壇の横の雪桜の木に目をとめ歩み寄る。
イヴンが花が咲くのが見たかったと言って、残念そうに見上げていたことを思い出す。
イェンはふっと笑って、木の幹に右手を添えた。
「俺にはもう、おまえを癒やす術は持たないが、おまえにまだ少しでも力が残っているなら……俺の力を持っていけ」
イェンは幹にひたいを寄せ、静かに目を閉じた。
◆◇◆◇
「パンプーヤの剣だと!」
二人は素っ頓狂な声を上げた。
当然の反応だ。
イヴンはうん、と頷きパンプーヤの剣の話を語った。
大魔道士パンプーヤは伝説の存在。
そのパンプーヤから剣をもらったなど、簡単に信じられるわけがない。けれど、リプリーもエーファも、真剣に耳を傾けてくれた。
「つまり、イヴンがヴルカーンベルクにたどり着く前に何者かが、その剣を奪おうと企んでいるのね。確かに、ヴルカーンベルクへ着いたら手が出せなくなる可能性は高いもの。それで、パンプーヤの剣はどこにあるの?」
イヴンが普段持ち歩いている剣はごく普通の剣。
一緒に旅をしてきたが、それらしき剣を持っているところを見たことがない。
「あるところに隠してある」
「あるところ?」
「うん……」
一番安全なところ……と、だけ言い、イヴンはその後の言葉を濁す。
「そうか。ならば、剣のことに触れるのはよそう。だが、ここで別れるということは私は承諾できない。私はイヴンに二つの恩がある」
身をていして野犬からかばってもらったこと。
そして、通行券を譲ってくれたことだ。
「その恩を返さず、ここでさようならでは私の気がすまない」
私も同じよ、とリプリーも力強く頷く。
「だけど、エーファさんたちに何かあったら、僕はどうしていいか」
立ち上がり、エーファがイヴンの肩に手をかけた。
「では、こうしよう。旅を一緒に続けるか続けないかは一時保留だ。まずは、私たちは協力し合いあの雪山を越えることだけを考えよう。大雪山ほど困難でないとはいえ、危険であることに変わりない。後のことはそれから考える。それでどうだろうか?」
イヴンはエーファとリプリーを交互に見た。
「それではだめか? それに、イヴンもあんな役にも立たない男だけでは不安であろう。そもそも一国の王子のつき添いに、あのような魔力も持たない、頼りない無能でバカでクズでゲスな魔道士一人だけなど、私には信じられん!」
「エーファ、それ言い過ぎ」
エーファの横でリプリーがたしなめる。
イブンは苦笑いを浮かべる。
「あのね、イェンは……」
「一緒に旅をしてきたが、あいつが魔術を使ったところなど一度も見たことがない。いや、一度だけ。一度だけ森で指先にしょぼい火を灯したところは見た。だが、あれは魔術とはいえんぞ。あいつは本当に〝灯〟の魔道士なのか?」
「イェンはみんなが思っているほど……」
「思ってるほど、何だ?」
「みなさーん、何やら俺の話で盛り上がっているようじゃないか!」
よっ、と片手を上げ機嫌よくイェンが部屋に現れた。
三人の奇妙な視線がイェンの頭上にそそがれる。
「ああ、こいつ? きれいな鶏だろ?」
イェンの頭の上には、色鮮やかなニワトリに似た鶏が、居心地よさげに乗っかっていた。
「何か懐かれちまってよ。どうしたらいい?」
「アホか!」
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