上 下
35 / 78
第4章 雪山編

4 役にたたない頼りない 無能でバカでクズでゲスな魔道士

しおりを挟む
「ちっ、何で俺がこんなことしなくちゃなんねえんだよ」

 イヴンたちが深刻な話をしているその頃、イェンはホウキを手に、文句をこぼしながらニワトリ小屋の掃除をしていた。

 コケーコココッ。
     コケーコココッ!

「邪魔だ邪魔だ。おまえらあっちにいけ。側に寄ってくんな。掃除ができねえだろ。って、痛えよ! 突っつくな。おい! 頭の上に乗るな!」

 そして、ニワトリ小屋の掃除を終えたイェンはため息をつき、ふと花壇の横の雪桜の木に目をとめ歩み寄る。
 イヴンが花が咲くのが見たかったと言って、残念そうに見上げていたことを思い出す。
 イェンはふっと笑って、木の幹に右手を添えた。

「俺にはもう、おまえを癒やす術は持たないが、おまえにまだ少しでも力が残っているなら……俺の力を持っていけ」

 イェンは幹にひたいを寄せ、静かに目を閉じた。


◆◇◆◇


「パンプーヤの剣だと!」

 二人は素っ頓狂な声を上げた。
 当然の反応だ。
 イヴンはうん、と頷きパンプーヤの剣の話を語った。
 大魔道士パンプーヤは伝説の存在。
 そのパンプーヤから剣をもらったなど、簡単に信じられるわけがない。けれど、リプリーもエーファも、真剣に耳を傾けてくれた。

「つまり、イヴンがヴルカーンベルクにたどり着く前に何者かが、その剣を奪おうと企んでいるのね。確かに、ヴルカーンベルクへ着いたら手が出せなくなる可能性は高いもの。それで、パンプーヤの剣はどこにあるの?」

 イヴンが普段持ち歩いている剣はごく普通の剣。
 一緒に旅をしてきたが、それらしき剣を持っているところを見たことがない。

「あるところに隠してある」
「あるところ?」
「うん……」

 一番安全なところ……と、だけ言い、イヴンはその後の言葉を濁す。

「そうか。ならば、剣のことに触れるのはよそう。だが、ここで別れるということは私は承諾できない。私はイヴンに二つの恩がある」

 身をていして野犬からかばってもらったこと。
 そして、通行券を譲ってくれたことだ。

「その恩を返さず、ここでさようならでは私の気がすまない」

 私も同じよ、とリプリーも力強く頷く。

「だけど、エーファさんたちに何かあったら、僕はどうしていいか」

 立ち上がり、エーファがイヴンの肩に手をかけた。

「では、こうしよう。旅を一緒に続けるか続けないかは一時保留だ。まずは、私たちは協力し合いあの雪山を越えることだけを考えよう。大雪山ほど困難でないとはいえ、危険であることに変わりない。後のことはそれから考える。それでどうだろうか?」

 イヴンはエーファとリプリーを交互に見た。

「それではだめか? それに、イヴンもあんな役にも立たない男だけでは不安であろう。そもそも一国の王子のつき添いに、あのような魔力も持たない、頼りない無能でバカでクズでゲスな魔道士一人だけなど、私には信じられん!」
「エーファ、それ言い過ぎ」

 エーファの横でリプリーがたしなめる。
 イブンは苦笑いを浮かべる。

「あのね、イェンは……」
「一緒に旅をしてきたが、あいつが魔術を使ったところなど一度も見たことがない。いや、一度だけ。一度だけ森で指先にしょぼい火を灯したところは見た。だが、あれは魔術とはいえんぞ。あいつは本当に〝灯〟の魔道士なのか?」
「イェンはみんなが思っているほど……」
「思ってるほど、何だ?」
「みなさーん、何やら俺の話で盛り上がっているようじゃないか!」

 よっ、と片手を上げ機嫌よくイェンが部屋に現れた。
 三人の奇妙な視線がイェンの頭上にそそがれる。

「ああ、こいつ? きれいな鶏だろ?」

 イェンの頭の上には、色鮮やかなニワトリに似た鶏が、居心地よさげに乗っかっていた。

「何か懐かれちまってよ。どうしたらいい?」
「アホか!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

SSS級宮廷錬金術師のダンジョン配信スローライフ

桜井正宗
ファンタジー
 帝国領の田舎に住む辺境伯令嬢アザレア・グラジオラスは、父親の紹介で知らない田舎貴族と婚約させられそうになった。けれど、アザレアは宮廷錬金術師に憧れていた。  こっそりと家出をしたアザレアは、右も左も分からないままポインセチア帝国を目指す。  SSS級宮廷錬金術師になるべく、他の錬金術師とは違う独自のポーションを開発していく。  やがて帝国から目をつけられたアザレアは、念願が叶う!?  人生逆転して、のんびりスローライフ!

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

処理中です...