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第7章 誰も私たちの知らない場所へ

エピローグ

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 翌年、急遽エスツェリア軍はエティカリアから撤退した。勢力を伸ばそうと他国へ手を広げすぎた結果だ。結託した東のラグバットと強国スヴェリアによって、呆気なくも敗れたのだ。








 暖かく柔らかい日射しが降りそそぐ穏やかな昼下がり。
 明るい太陽のもと、庭一面に咲く、白い薔薇の花が光を受け反射して眩しい。
「お母さま、お母さま!」
「どうしたのエレノア」
 一冊の本を抱えて駆け寄ってきた幼い少女を、ファンローゼは抱き上げ膝に座らせた。
 濡れたような黒髪と、晴れた空を映したかのごとき、青い瞳の可愛らしい少女であった。
「お母さまのご本を読んでいたのよ」
「まあ、エレノアにはまだ早いのでは?」
「ちゃんと読めたもの」
 少女は本を胸にぎゅっと抱えた。
「難しいところもあったけど」
 と、ぽつりとつけ加え、少女は可愛らしく唇を尖らせた。
 ファンローゼは微笑んで少女の柔らかい髪をなでた。
 スヴェリアへと渡ったファンローゼは、作家として有名となった。
 悲惨な戦争の中、離ればなれになった男女が愛を貫き通すという内容に、多くの女性たちの心を掴んだ。
「ねえ、お母さまの小説に出てくる男の人って、お父さまのことよね」
 幼い少女の問いかけに、ファンローゼはにこりと微笑みを返した。すると、少女は突然瞳を輝かせた。
「あ、お父さまが帰ってきた」
 庭先で車のエンジンが止まる音が聞こえ、少女はぱたぱたと玄関に向かい走っていく。
 ファンローゼはにこやかな笑みを浮かべ、そこに現れる人物を待った。
「おかえりなさい」
 その人物は腕を大きく広げ、ファンローゼの身体を包み込むように抱きしめた。
「ただいま、ファンローゼ」
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感想 2

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みんなの感想(2件)

にゃん
2024.02.28 にゃん

改めて、素敵なお話をありがとうございました。
(ネタバレないよう、投稿を控えていました)
大賞に投票させていただきました。
最後の最期に身を引いたと思われる彼もタイトルに繋がっている、と想像したり、髪と瞳の色での表現だったり、ちょっともどかしい感じも良かったです。
ずっと離れていた2人にとって、おかえり、ただいま、を普通に言いあえる日常は何物にも替えがたい幸せですね。

結ばれた後の2人の甘々エピ、あるといいなぁ«٩(*´ ꒳ `*)۶»ワクワク

島崎 紗都子
2024.02.29 島崎 紗都子

にゃんさん!
最後までお読みいただき、たくさんの感想もありがとうございます。投票もしてくださったとのこと。とても嬉しいです😊応援してくださり本当に、本当にありがとうございました。
離れたり、もどかしかったりと、いろいろあった二人ですが、最後は絶対にハッピーエンドを目指して完結させました。 甘々追加エピ考えてみたいと思っています!

解除
にゃん
2024.02.17 にゃん

以前他サイトで読了し、世界観がとても素敵な作品だと感じておりました。
できれば、2人の甘々追加エピがあると嬉しいです。

島崎 紗都子
2024.02.18 島崎 紗都子

にゃんさん!
他サイトでも読んでくださったのですね。ありがとうございます。世界観が素敵と仰っていただけてとても嬉しいです。確かに二人の甘い場面が少ないなと思っていたので、追加で書けたらいいなと思いました。感想ありがとうございます。とても励みになりました。

解除

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