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第7章 誰も私たちの知らない場所へ

6 嵐の夜の真相

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「あの時、君はファンローゼを僕に近づかせまいと必死だった」

『束縛心が強いんだね。思いっきり顔に出てるよ。彼女に近づくなってね』

「だから僕は思った。いつか彼女の側に張り付いている邪魔者を退け、僕が彼女を手に入れてやろうと」
 コンツェットはまなじりを細めクレイを見据える。
 一方、クレイはふっと肩の力を抜く。
「僕はすでにあの頃から自国の行く末に不安を抱いていた。エティカリア国はいずれエスツェリア軍の脅威に脅かされ侵略されるだろうと。だから必死に勉強し武術を身につけた。最悪の時に備えて。案の定それから数年後、僕たちの国はエスツェリア軍に攻め込まれた。反抗組織にいたファンローゼの父クルトは軍に目をつけられ、彼女の父に陶酔していた僕の父はエスツェリア軍に殺された。そして母も家族だというだけで撃たれた。彼女の父が僕の家族を巻き込んだも同然。クルトが存在しなければ、僕の家族は殺されることはなかった!」
 クレイはぐっと手を握りしめる。
 その手が震えていた。
 これまで淡々と語っていたクレイであったが、この時初めて怒りの感情をのぞかせた。
「クレイ……」
「読書会とは名ばかりで、クルトは集まったメンバーを犯行組織に引き入れようとしていた。僕はクルトを心底恨んだ。でも、ファンローゼ、君のことはどうしても憎むことはできなかった。そう、家族が殺されたあの日、もちろん僕もエスツェリア軍に銃を向けられ殺されそうになった。だけど僕は反抗組織である君の父と、君の父が主催していた読書会に参加していたメンバー全員の情報をエスツェリア軍に流した。僕が生き残るために」
 コンツェットの腕を握るファンローゼの手が小刻みに震える。
 あの嵐の夜。
 読書会に参加していた者が、エスツェリア軍に捕らえられ殺されたと聞いた。
 なぜ、彼らが父と関わっていたことを、エスツェリア軍が知ったのか、分からなかった。
 ようやくあの時の疑問が明らかになった。
 それはクレイいや、レイシーがエスツェリア軍に情報を渡したから。
 それが、あの嵐の夜の真相であった。
 ファンローゼはレイシーの無事を気にかけていたが、そのレイシーがことの発端であった。
「運良く生き延びた僕はエスツェリア軍に入ることになった。そこからは地獄だった。いろいろなことをやったよ。どんな汚いことも。コンツェット、君なら分かるだろう? 君も同じ思いをしたはずだから。愚かなことをしたと後悔し、涙を流した時もあった。だけどある日気づいたんだ。その涙が一滴もでなくなったことに。心が死んでしまったんだね。それからの僕は、ただ軍のために働いた。その頃にはもう、敵国に寝返ったことに抵抗を感じなかったし、同胞を売ることに躊躇いもなかった。やがて僕の働きが認められ、諜報部に所属することになった」
 クレイはいったん言葉を切り、大きく息を吸って吐き出した。そして、続ける。
「諜報部に入り僕に与えられた任務は、反エスツェリア組織を一網打尽にすること。そこで僕は素性を偽り、反エスツェリア組織に潜り込んだ。おかしかったよ。祖国のために戦うといっても、しょせん寄せ集めの集団、統率力もなければ、計画性もない。まるでお遊びの、どうしようもない組織だった。だから新入りだった僕が組織を束ねるリーダーになるにはそう時間はかからなかった。僕は組織に〝時の祈り〟と名をつけ、そこからはよきリーダーを演じ、皆の信頼を得た。そう、じっくり時間をかけて仲間を増やし、組織を大きくしていく。そして、最後に全員狩ろうと。と同時に、僕はファンローゼの行方を探していた」
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