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第5章 すべては君を手に入れるための嘘
3 欲望のままに
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その晩、ベッドに入ったものの眠れなかった。はからずもアニタの裏切りを知り、どうするべきか思い悩んでいたのだ。
誰にも言えない。けれど、このまま黙っていれば、ここにいるみんなが、いつかアニタの裏切りによってエスツェリア軍に捕らえられる可能性がある。
自分の胸にしまい込むには問題が重すぎた。
クレイに相談してみたらどうだろう。彼ならきっと、よい方法を考えてくれるはず。アニタのことも、ここにいる組織のみんなのことも。
ファンローゼはベッドからおりると、上着を肩に羽織り、クレイの元へ向かうべく部屋を出た。
すでに深夜。
あたりはしんと静まりかえり、物音ひとつしない。
どうやら、みな眠っているようだ。
ファンローゼは足音を忍ばせ、クレイの部屋へと歩いて行く。
部屋の前で立ち止まると、扉の下の隙間から薄く明かりがもれていた。まだ起きているのなら、話をするのに都合がよい。しかし、ノックをしようとして扉が薄く開いていることに気づき手をとめた。
「さっきは、なぜあんなことを言った」
クレイの声。そして、部屋には他に誰かいる。
「本当のことだわ。それにあの子、エスツェリア軍から追われているのでしょう? だったらちょうどいいじゃない」
会話の相手はアニタだった。
アニタの言うあの子とは、間違いなく自分のことを指しているのだろう。
その場から動けなかった。
ファンローゼはいけないと思いつつも、開かれている扉の隙間から中をのぞき込む。二人は部屋の中央で立った状態で話し合っていた。
「クレイはあの女に騙されているのよ。あたし、見たんだから。あの女がコンツェットとかいうエスツェリア軍の男と親しげに会話をしていたのを。あの子はその男と一緒に部屋から出てきた。いいえ、その前からあの女の艶めかしい声が部屋から聞こえてきたわ。任務を放ってコンツェットという男とやっていたのよ! あの女、私は何も知りませんという可愛い顔をして、淫乱女よ。きっと、私たち組織のことも喋ったに違いない。汚らわしいあの売女! 雌犬!」
「アニタ」
クレイの静かな声にアニタは口を噤む。
「なぜ、それをおまえが知っている?」
クレイは目の前のアニタを見据えた。
厳しい声であった。
クレイの冷えた声にアニタも動揺しているようだ。
「だって……あたし、あの場にいたから」
「あの場におまえが? なぜ?」
「それは……」
「どういうことだ?」
一瞬の沈黙。
返答次第では、クレイを怒らせると怯えているのだ。
「あの女をエスツェリア軍に渡してしまえば多額の報奨金がもらえると思ったのよ。お金があれば敵と戦うための武器だって手に入れられる。あたしはクレイのためにと思ってやったわ! 本当よ!」
必死に言いつくろうアニタの声に、あきらかな焦燥がにじむ。
裏切ったのではない。すべてあなたのためだと。
「僕のため?」
「そうよ。あなたを愛しているの。あたしの気持ち、知っているでしょう」
アニタが甘えた声でクレイの首に両腕を絡ませた。
「あたし、クレイのために頑張ったわ」
「そうだね。おまえはよくやってくれた」
「これからだって、クレイのためならどんなことでもする。本当よ」
クレイの前ではアニタは健気だ。
絡みつくアニタの背に手を回し、もう片方の手でクレイはそっとアニタの頭をなでた。
まるでキスをねだるように、アニタは顔を上向かせ、潤んだ目でクレイを見上げた。
ふっと微笑んだクレイの手が、アニタのあごにかかる。
「ああ……愛しているわ。クレイ……」
ファンローゼは手を震わせた。
時折聞こえる、アニタの悦びに満ちた、ため息。
耳をふさぎ、後ずさりながら、ファンローゼはなかば逃げるように自室へと戻っていった。
誰にも言えない。けれど、このまま黙っていれば、ここにいるみんなが、いつかアニタの裏切りによってエスツェリア軍に捕らえられる可能性がある。
自分の胸にしまい込むには問題が重すぎた。
クレイに相談してみたらどうだろう。彼ならきっと、よい方法を考えてくれるはず。アニタのことも、ここにいる組織のみんなのことも。
ファンローゼはベッドからおりると、上着を肩に羽織り、クレイの元へ向かうべく部屋を出た。
すでに深夜。
あたりはしんと静まりかえり、物音ひとつしない。
どうやら、みな眠っているようだ。
ファンローゼは足音を忍ばせ、クレイの部屋へと歩いて行く。
部屋の前で立ち止まると、扉の下の隙間から薄く明かりがもれていた。まだ起きているのなら、話をするのに都合がよい。しかし、ノックをしようとして扉が薄く開いていることに気づき手をとめた。
「さっきは、なぜあんなことを言った」
クレイの声。そして、部屋には他に誰かいる。
「本当のことだわ。それにあの子、エスツェリア軍から追われているのでしょう? だったらちょうどいいじゃない」
会話の相手はアニタだった。
アニタの言うあの子とは、間違いなく自分のことを指しているのだろう。
その場から動けなかった。
ファンローゼはいけないと思いつつも、開かれている扉の隙間から中をのぞき込む。二人は部屋の中央で立った状態で話し合っていた。
「クレイはあの女に騙されているのよ。あたし、見たんだから。あの女がコンツェットとかいうエスツェリア軍の男と親しげに会話をしていたのを。あの子はその男と一緒に部屋から出てきた。いいえ、その前からあの女の艶めかしい声が部屋から聞こえてきたわ。任務を放ってコンツェットという男とやっていたのよ! あの女、私は何も知りませんという可愛い顔をして、淫乱女よ。きっと、私たち組織のことも喋ったに違いない。汚らわしいあの売女! 雌犬!」
「アニタ」
クレイの静かな声にアニタは口を噤む。
「なぜ、それをおまえが知っている?」
クレイは目の前のアニタを見据えた。
厳しい声であった。
クレイの冷えた声にアニタも動揺しているようだ。
「だって……あたし、あの場にいたから」
「あの場におまえが? なぜ?」
「それは……」
「どういうことだ?」
一瞬の沈黙。
返答次第では、クレイを怒らせると怯えているのだ。
「あの女をエスツェリア軍に渡してしまえば多額の報奨金がもらえると思ったのよ。お金があれば敵と戦うための武器だって手に入れられる。あたしはクレイのためにと思ってやったわ! 本当よ!」
必死に言いつくろうアニタの声に、あきらかな焦燥がにじむ。
裏切ったのではない。すべてあなたのためだと。
「僕のため?」
「そうよ。あなたを愛しているの。あたしの気持ち、知っているでしょう」
アニタが甘えた声でクレイの首に両腕を絡ませた。
「あたし、クレイのために頑張ったわ」
「そうだね。おまえはよくやってくれた」
「これからだって、クレイのためならどんなことでもする。本当よ」
クレイの前ではアニタは健気だ。
絡みつくアニタの背に手を回し、もう片方の手でクレイはそっとアニタの頭をなでた。
まるでキスをねだるように、アニタは顔を上向かせ、潤んだ目でクレイを見上げた。
ふっと微笑んだクレイの手が、アニタのあごにかかる。
「ああ……愛しているわ。クレイ……」
ファンローゼは手を震わせた。
時折聞こえる、アニタの悦びに満ちた、ため息。
耳をふさぎ、後ずさりながら、ファンローゼはなかば逃げるように自室へと戻っていった。
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