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第2章 念願の魔道士になりました!

お師匠様と離れたくない 1

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 何とか試験開始時刻ぎりぎりに試験場に到着できた。
 動揺するツェツイを強引に部屋に押し込み、イェンは試験が行われている建物の入り口でツェツイが姿を現すのを待った。
 不安定な精神状態で試験にのぞんでヘマでもやらかさなければと心配したが、入り口から現れたツェツイを見て、その心配もなかったかと安心する。
 こちらへと真っ直ぐに歩み寄るツェツイは〝灯〟の魔道士である証しの、新しい階級が刻まれた腕輪を目の高さにかざした。
 イェンはふっと笑って安堵の息を落とす。
 よかったな。
 けれど、こちらへと近づいてくるツェツイの表情はどこか浮かない。
 試験に合格して喜んでいいはずなのに、何故か沈んだように元気がなかった。
「お師匠様……ありがとうございました」
「俺は何もやってねえよ」
「そんな……そんなこと……」
 そこで、ツェツイは口をつぐんだ。
 どうした? と首を傾げるイェンを、ツェツイは探るような目で見上げ言いづらそうにぽつりとこぼす。
「……刻を戻す魔術は、禁術だと聞いています。使ってはいけない魔術だと」
「まあ、そうだな。流れる刻に逆らって時間を操作するのは、やっちゃいけねえことだ。それがどうした?」
「やってはいけないことをやって、もし、バレたときは」
「そりゃ当然、処罰もんだな」
 処罰と言う言葉に、ツェツイは複雑な表情を浮かべる。
「鐘が……」
「ん?」
「〝灯〟の鐘が鳴っていました。十一時を告げる鐘が!」
「そうだったか?」
 即座に答えるイェンの口ぶりは、俺にはそんなもん聞こえなかったぞとでも言っているようであった。
「だけど、あたしが試験場に入ったのは、鐘が鳴る前でした」
「どうなるかとひやひやしたが、間に合ってよかったじゃねえか」
 しかし、ツェツイはどこか納得いかない顔であった。
「お師匠様っ!」
 何か言いかけようとしたツェツイの言葉をイェンはとどめる。
「もし、おまえが試験の時間に間に合わなかったら、俺はあいつらを許さないところだった」
 イェンの表情は厳しい。
 それは、そのことはもうこれ以上口にするな、お終いだというように。
「あたし、驚きません。いえ、本当はものすごく驚いてますけど……でも、お師匠様が魔術使えないと言っていたのは嘘だと思っていたから。魔力を押さえていることに気づいていたから。だけど、あれほどまでとは想像していなくて……詠唱なしであんな上級魔術を使えるなんて今でも信じられなくて。どうして隠してるのですか」
 イェンは困ったように眉根を寄せ苦い笑いを浮かべる。
「決しておまえに嘘をついてたわけじゃない。魔術が使えないのは事実であって、そうじゃない。半分嘘で半分は本当だ」
 ツェツイは静かに視線を落とした。半分嘘で、半分本当のこと。そんなことを言われても意味がわからないのは当然であろう。
 隠すからには何か意味がある。
 その理由を言わないということは他の誰かに知られたくはない。あるいは、知られてはいけないということ。
 イェンの右手がうつむいたツェツイのあごにそえられた。
「そんなことより、どうした? 合格したんだろ。そのわりにはあまり嬉しそうじゃないな。ほら、もっと喜べ。笑え」
 顔を上げさせられたツェツイは、口の端をほんの少し上げて笑った。
 その笑みは念願の試験に合格して喜ぶ笑みではない。
「何があった? 何か言われたのか? 上層部の連中か? あいつらは遠慮ないこと言うからな。気にすんな。あれこれうるさく言うのは、それはおまえが見込みがあるってことだ」
「違います」
「じゃあ、どうした? 俺にできることなら何でもしてやるぞ。言ってみろ」
「あたし……」
 と弱々しい声をもらし、今にも泣きそうな目でツェツイは唇を小刻みに震わせた。
「お師匠様、あたし……上層部の方々に、ディナガウス行きをすすめられました……」
 最後の言葉は、ほとんど消え入りそうな、か細い声だった。しかし、表情を翳らせるツェツイに対し、イェンは驚きに眉を上げる。
 ディナガウスといえば、魔術がもっとも盛んな国。
 さらに、医術の研究も積極的に行われているところだ。
 ディナガウスの〝灯〟は熟練した魔道士たちが集まるところ。
 そこへ迎えいれられるということは、魔道を志す者にとってこれ以上はない栄誉なこと。
 ディナガウスの〝灯〟で魔術の知識を広めたいと願っても、簡単には行かせてもらえる所ではない。
 それこそ、選ばれた者のみに許された場所。
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